この記事をまとめると
■メキシコでアメリカにはないモデルが走っているのをよく見かけるようになった
中国のEV上陸を牽制すべくカナダもアメリカもEUも凄まじい関税を課す! そうなると中国が次に狙うのは「政府が弱腰」な日本市場
■かつて三菱ミラージュG4をベースにしていた「ダッジ・アティチュード」が広州汽車製モデルがベースになっていた
■世界の自動車市場においていつのまにか中国車が入り込んでいるということが増えそうだ
北米では見かけない車両が走るメキシコ
アメリカ合衆国とメキシコとの間には、アメリカ側から見れば、カリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサス州にまたがり全長3145kmという長い国境が存在する。
アメリカと国境を接するメキシコをはじめ中南米諸国、さらには最近では中国からも多いようだが、違法にアメリカへ密入国する人があとを絶たない。トランプ政権下では一部国境に壁の建設を始めるなど、メキシコとの国境に関する諸問題は、全米レベルで治安がかなり悪化しているなかでは、とりわけ問題視する人が多くいると聞く。
島国の日本に住んでいると陸続きで、ある場所に線が引かれ国境が設けられる環境というものはなかなか馴染まないものだが、筆者はコロナ禍前にはよくカリフォルニア州サンディエゴ近郊から国境を歩いて越え、メキシコ側の国境の街、ティファナへ買い物に出かけていた。
国境をひとたび越えてティファナに入ると、アメリカ仕様の日本車などのアメリカ以外の外資ブランド車が中古車として流れてきて走っているのだが、筆者が初めてティファナを訪れた30数年前に比べれば、明らかに生活が豊かになっている(貧富の差はあるが)のがわかる。ここのところ、メキシコ向けに輸入されたクルマや、メキシコで生産されたアメリカでは見かけないモデルの新車が走っているのもよく見かけるようになった。
訪れ始めてからしばらくは、タクシーといえばアメリカで使い古されたシボレーのセダンなどがほとんどだったのだが、その後、日産ツル(7代目サニー)などのメキシコ向けの車両も目立ってきた。街なかには、アメリカでは販売されていない、フランス・ルノー車(ダチアブランドをルノーとしているケース多い)なども見かけるようになった。日系ブランドでは、日産がメキシコでは強みを見せているようである。キャラバンが長い間乗り合いバスとして活用されていることも大きいようだ。
日本向けはタイ生産のハッチバックのみであった6代目三菱ミラージュ(2023年生産終了)だが、海外では「ミラージュG4」や「アトラージュ」といった車名の4ドアセダンが存在し、いまもラインアップされている(ハッチバックも世界市場ではまだ現役)。
そして、メキシコではミラージュG4を「ダッジ顔」にした「ダッジ・アティチュード」というモデルがある。先日、別件でメキシコの自動車関係サイトを検索していたら、そのアティチュードが2025年モデルにてフルモデルチェンジしていた。それまでのミラージュG4からカローラセダン(3ナンバーサイズで日本仕様より長くて幅も広い)クラスへランクアップしたと地元メディアで紹介されていた。
あまり見かけないスタイリングではあるが、メキシコ市場向けに完全オリジナルモデルを開発するということは考えられない。ダッジブランドをもつクライスラーは、現状ステランティスグループ傘下なので、PSA(プジョー・シトロエン)や、フィアット系モデルの顔違いかなとも思ったのだが、いまひとつピンとこない。
かつて、2015年から2017年という短い期間で、2代目クライスラー200というセダンがアメリカ市場でラインアップされていたのだが、このモデルはアルファロメオ・ジュリエッタの流れを汲む、ダッジ・ダートの兄弟車であった。当時、クライスラーはすでにフィアットグループ傘下で、FCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)となっており、そのアライアンスにより、アルファロメオ車とメカニカルコンポーネントを共用するクライスラー車が存在したのであった。
メキシコで売られるダッジ・アティチュードは中国車ベース
筆者は当時、レンタカーとして「おろしたて」の、走行距離が極端に少ないクライスラー200を運転する機会があったのだが、「クライスラー」車であることを感じさせないきびきびとした走りや、欧州車を思わせる足まわりをはじめとした性能に驚いた記憶がある。
2025年モデルで新型となったダッジ・アティチュードもアルファロメオの血統なのかなと思っていたら、「GAC」という文字が地元メディアの記事のなかにあった。情報を集めていくと、新型アティチュードはGAC、つまり中国・広州汽車のモデルがベースになっているというのである。GACの傳祺(トランプチ)ブランドの「影豹(EMPOW/エムポウ)」がベースになっているとのこと。
中国車ベースとはいえBEV(バッテリー電気自動車)ではなく、1.5リッター直4ターボに7速DCT(デュアルクラッチミッション)が組み合わされている。価格はSXTというグレードで39万9900メキシコペソ(約340万円)となっている。
さらに調べてみると、すでにメキシコでラインアップされている最新型のダッジ・ジャーニー(クロスオーバーSUV)もGACのトランプチブランドとなる「GS5(中国ではフェイスリフト後GS4プラスに改名)」ベースとなっている。そして、アティチュード、ジャーニーともに中国で生産されメキシコへ輸入されている。
広州汽車とFCAは、かつて中国で合弁会社を設立していた(いまは解消)。当時の広州汽車の自社ブランドモデルのなかには、当時のアルファロメオ車のプラットフォームを使っていたものもあった。その合弁会社では歴代ジャーニーも中国で生産されていた。つまり、メキシコにおけるアティチュードやジャーニーが広州汽車製になることはある意味、「なるべくしてなった」ともいえるのである。
アメリカにおけるアメリカンブランドを見ると、GM(ゼネラルモーターズ)、フォードであってもすでに生産及びラインアップを売れ筋となるクロスオーバーSUVと小型ピックアップトラックに絞り込んでいる。
フォードで乗用車はすでにマスタングしかなく、GMでもキャデラックブランドにはいくつかセダンが残っているが、そのほかのブランドでも、総合ブランドの強いシボレーでさえ、ハッチバック車はなく、FFセダンのマリブ(カムリクラス)、そしてコルベットのみとなっている。
クロスオーバーSUVは数多くラインアップしているが、なかには「GMコリア」、つまり韓国製のモデルも目立っている(ビュイックブランドでも目立っている)。この傾向はクライスラーでも同じで、ピックアップトラック系のラムやジープはもちろんセダンなどはなく、クライスラーやダッジでもセダンといえば、マッスル系のダッジ・チャージャーぐらいとなっている。
そこまで生産を絞り込むほど、アメリカではすでにクロスオーバーSUVとピックアップトラックがものすごい勢いで売れている。アメリカ市場でハッチバックやセダンをフォローしているのは、日本、韓国、欧州系ブランドとなっているのが現状である(別の目で見ればこのようなカテゴリーは外資ブランドにニーズが集中しているともいえる)。
今後はクライスラーだけではなく、GMなら上海汽車、フォードなら長安汽車といった、中国国内で合弁会社のパートナーとなっているブランドのセダンやハッチバックを、シボレーやフォードブランドで再ラインアップしていくかもしれないと筆者は気になっている。そこまでいかなくとも、プラットフォームなどメカニカルコンポーネントをパートナーの中国メーカーから供給を受け、自社ブランドのクロスオーバーSUVを開発していくかもしれない。
最近の中国車はBEVだけではなくHEV(ハイブリッド車)も数多くラインアップしている。HEV人気の高まっている北米市場では、中国メーカー製HEVを即導入することもできるが、いまの米中関係をみると話はそんな簡単なものともならないようである。
単純に自社ブランドで海外市場に攻め入るだけではなく、そしてBEVだけではなく世界市場において気がつくと中国車が入り込んでいる。そんなことが世界各国で顕著になっていきそうである。
日本市場も長い目で見れば、少子高齢化が進むこともあり、新車販売市場の縮小には歯止めがきかない。人の手を使う作業が減っていったとしても、自動車製造関係に携わる働き手不足も際立って改善されることはまず期待できない。そのような市場変化が際立ったときに、日本ではいまのメキシコのような状況を対岸の火事のような出来事として片付けることができるのだろうか。ちょっと心配になってしまった。
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