生産終了と最終モデルとなるタイプSが発表された現行型NSX。2代目となるその現行モデルには設定されていないが、初代NSXにラインナップされたのが究極の走りを追求した「タイプR」だ。
後のインテグラタイプRなどにつながるホンダタイプRシリーズの究極モデルである初代NSXのタイプRはどのように誕生し、そして走りの実力はどれほどのものだったのか? を振り返る。
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文/片岡英明
写真/ホンダ
【画像ギャラリー】「タイプR」の存在感を画像で再確認!
■初代NSXはスーパースポーツの価値観を大きく変えた存在
1980年代、日本は欧米に追いつき、自動車大国となった。軽自動車から高級セダンまで、豊富なバリエーションを誇ったが、なかったクルマもある。フェラーリやポルシェなどが主役と位置付けていたマルチシリンダーのスーパースポーツだ。
日本のメーカーは数を多く生み出すことを第一に考えていた。だから生産効率が悪く、高い技術力も必要とするスポーツカーの開発には消極的だった。が、ホンダはミドシップレイアウトを採用するスーパースポーツの開発に乗り出している。
そして1989年2月のシカゴショーに、アキュラブランドのNS-Xを参考出品した。正式発表は1年半後だ。1990年7月にアキュラNSXが、9月にはホンダNSXが発表されている。
1990年に正式発表された初代NSX。初期型は荒削りな点もあったが、改良で年を経るごとに一級のクルマへと成長していった
量産車としては世界初のアルミボディや精緻なV型6気筒DOHCのVTECエンジンなど、最先端のテクノロジーを随所に採用したNSXは、スーパースポーツの価値観を大きく変えるホンダらしい衝撃的な作品だった。
だが、デビュー直後のNSXはタイヤの磨耗が早かったし、ハンドリングも荒々しかった。限界域では挙動の乱れが大きいから繊細なテクニックを要求された。特にウェット路面のように滑りやすいとコントロールするのに神経を使うのだ。
初めてのスーパースポーツだから、ライバルより尖ったクルマにしたかったのだろう。バランス感覚は今一歩だった。この弱点は真摯な改良によって解消され、一級のスポーツカーへの道を歩んでいる。
■タイプRはアイルトン・セナや中嶋悟が開発を手伝った
そして1992年11月、究極の走りを目指してNSX-Rを市場に放った。NSXを開発している時、ホンダはF1で常勝を誇っていた。開発陣のなかには「F1の血を引くホンダのスポーツカーなのだから、フラッグシップにふさわしい高性能をさらに追求したスパルタンモデルを」という人も多かったのだ。
そこでプロジェクトリーダーの上原繁さんは、軽量化してサスペンションを締め上げたスペシャルモデルの開発に着手した。こうして誕生したのが、専用色だったチャンピオンシップホワイトのボディカラーが映えるNSX-R、のちにタイプRと呼ばれる限定モデルだ。
1992年に発表された「R」。「サーキットでベストパフォーマンスを発揮するレーシングカーであり、なおかつ一般道も走れるスポーツカーを」というコンセプトで開発
インテリアはレカロ社と共同開発した専用の真っ赤なフルバケットシートが目を引く。ダッシュボードは黒のスエード調素材とし、赤のステッチを加えている。メーターはカーボン調のメーターパネルとイエローの針でタイプRらしさを表現した。エアバッグを取り去ったMOMO製の本革巻きステアリングもほかのNSXと違うところである。
標準モデルと差別化された内装。「バランスの取れた優等生」だった標準モデルに対し大きく走りの方向に振ることで、NSXというモデル全体の魅力を引き上げている
ミドシップに搭載する2977ccのC30A型V型6気筒DOHC VTECエンジンのスペックは変わっていない。280ps/30.0kgmのままだが、クランクシャフトやピストン、チタン製コンロッドなどの重量とバランス精度を高めた。
これらの変更により一段と鋭いレスポンスを手に入れている。5速MTもサーキットを速く走るためにファイナルレシオも変更された。シフトノブはチタン削り出しの専用品だ。
標準仕様のC30A型V型6気筒DOHC VTECエンジンは、V8エンジン並みに気持ちいいパワーフィールだった。
だが、タイプRのC30A型エンジンは一段と刺激的だ。滑らかさは際立っているし、ピックアップもレーシングエンジン並みに鋭い。それでいて実用域のトルクは確保されていた。6000回転からはパワーの盛り上がりを感じさせながら弾けるような加速を見せたのだ。
エンジン音も耳に心地よい。8000回転のレッドゾーンまで一気に駆け上がるが、その上も行けるほど力強いエンジンだった。
4輪ダブルウィッシュボーンのサスペンションは、ダンパーとスプリングを強化している。前後異サイズのタイヤも専用品をおごった。フロントは205/50ZR15、リアは225/50ZR16で、アルミホイールはエンケイ製の軽量タイプだ。LSDのプリセット荷重も増やしている。
また、オートエアコンやオーディオ、エアバッグなどの装備をはずし、遮音材も省いた。バンパーとドアビームは軽量なアルミ製だ。これらの努力によって120kgの軽量化を実現した。パワーウェイトレシオは驚異的な4.39kg/psだ。
アイルトン・セナや中嶋悟が開発を手伝ったタイプRは、低重心化を図ったこともあり、サーキットやワインディングロードで意のままの痛快な走りを楽しむことができた。ハンドリングは当時のスーパースポーツとしては一級の実力を秘めている。
3年間の期間限定だが、クルマという乗り物の根源である「操る喜び」を研ぎ澄ませて世に放たれた「タイプR」
ただし、乗りこなすにはそれなりの技量が必要だ。このNSX-Rは発表から3年間の期間限定発売だった。
■空力を味方につけた後期型「R」
1995年秋、タイプRは販売を終了したが、その後もスパルタンなNSXを望む声はやまない。特に1997年に5速MTを進化させた6速MT車を送り込み、排気量を3179ccに拡大してからはタイプRの再販を望む声が高まっている。
ホンダはタイプSでファンを引き止めていたが、2001年12月に初めてフェイスリフトを断行。アイコンのひとつだったリトラクタブルヘッドライトを廃し、固定式のディスチャージヘッドライトを採用した。
その半年後の2002年5月、型式「NA2」を名乗る第2世代のタイプR、「NSX-R」を発売に移している。サーキットで圧倒的な速さを実現するために、エアロダイナミクスの改善に力を注ぎ、フロントをマイナスリフトに、リアはスポイラーでバランスを取った。
特別装備は、エアアウトレットダクト付きカーボンボンネットフードやフィン付きフロントアンダーカバー、リアディフューザー、カーボンリアスポイラーなどだ。軽量化にも寄与するエアロパーツを採用することにより、ストリートモデルとしては珍しいマイナスリフトを実現した。
空力を味方につけた後期型は進化の証明として、当時3.2L NAの市販車としては驚異的だった「ニュル8分切り」を達成
サスペンションは、硬めのスプリングに減衰力を高めたダンパーを組み合わせ、スタビライザーとタワーバーも変更している。ロール剛性バランスを考えた味付けとし、タイトコーナーでの旋回性能を高めた。
タイヤは専用開発のBS製ポテンザRE070だ。フロントは215/40R17、リアは255/40R17で、アルミホイールはBBS製の鍛造品である。ブレーキはスリット入り16インチブレーキディスクローターと強化ブレーキパッド、LSDは専用設計のプリロードタイプだ。
20年も前のモデルだが、走りのメカニズムは現代のスーパースポーツと大きく変わるところはない。3Lエンジン時代の前期型タイプRと比べると走りのポテンシャルは大きく引き上げられている。
ハンドリングの洗練度は高く、狙ったラインに無理なく乗せることが可能だ。前期型ではアンダーステアが強く、保舵力も必要とした。これに対し後期型はニュートラルステアにしつけられ、高速域でも操舵フィールは落ち着いているし、クルマの空力バランスもいいから限界域でのコントロール性も大きく向上した。
ピストンとコンロッドのバランス取りを行い、クランクシャフトやクランクケースも回転バランス取りを行った3.2LのC32B型V型6気筒DOHC・VTECも軽やかに高回転まで回る。
6速MTも軽いシフトタッチで、操作しやすい。ファイナルレシオのローレシオ化によって加速性能も向上させた。NSX-Rは2005年7月に生産を終えている。
■現行NSXにもタイプRを設定して欲しい
今もファンから語り継がれている名車中の名スポーツカーが2台のタイプRだ。どちらもホンダイズムが息づき、ワクワクする走りを楽しませてくれた。
現行のNSXも2022年に生産を終了する。その前に、ファイナルエディションとして究極の走りを掲げた「タイプR」を送り出してほしいものだ。ホンダファンならずともタイプRを待ち望んでいるはずである。
現行型にも、ファイナルエディションとして究極の走りを掲げた「タイプR」を送り出してほしい
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みんなのコメント
デザインだよね。憧れないもの。
今のホンダ車全般にいえるけど、
ホントにデザインが悪い。
ホンダっていい時はいいデザインなんだけど、
悪い時はとことん悪いもんな。
これは伝統なのかね?