気がつけば今、路上は「いかつい顔のクルマ」だらけになっている。
1000万円超級の輸入車はその全身から「前を走るキミ、邪魔なのでちょっとどいてくれないかね?」とでも言いたげなオーラを放ち、100万円級の軽自動車も、釣り上がった目つきとメッキモールで「オラオラ! どかねえとケガするぞ!」と絶叫しながら小さな身体を震わせている。ド派手なフロントマスクが売りの国産大型ミニバンについては、言わずもがなだろう。
そういった状況に若干の疲れと嫌悪を覚えたとき、選びたいのが「ハイドロニューマチック・サスペンション」を採用していた往年のシトロエンだ。
そこには「虚勢」や「攻撃性」「支配欲」みたいなものとは真逆のピースフルな、だが決して世間と呼ばれるものに対して迎合もしていない、「孤高のリアリスト」とでも言うべきデザイン世界と自動車世界が広がっているからだ。
シトロエンは、ダブルヘリカルギア(やまば歯車)の製造で財を成したフランス人、アンドレ・シトロエンが1919年に興した自動車メーカー。現在もシトロエンのCIに使われている2つのクサビ形を用いたロゴマーク「ダブル・シェブロン」は、そのダブルヘリカルギアをモチーフとしたものだ。
欧州の自動車メーカーとしては初めてオール鋼製ボディのクルマを大量生産するなど、初期段階から先進性が目立ったシトロエンは、1934年登場のトラクシオン・アヴァン(世界的に見てきわめて早い時期に前輪駆動とモノコック構造を採用したモデル)によって、その企業キャラクターを決定的することになった。
そしてさらにそのポジションを決定づけたのが、1955年登場のDSというモデルに採用された「ハイドロニューマチック・サスペンション」だった。
GQはクルマ専門メディアではないので詳細は割愛するが、シトロエンのハイドロニューマチックとは、一般的な金属バネの代わりにオイルと窒素を使っているサスペンションシステムのこと。
エンジンルームの左右に「スフェア」という球体があり、その内部に高圧の窒素ガスとオイルが封入されている。これらが普通のクルマでいう金属バネとショックアブソーバーの役割を果たし、路面からの衝撃をあくまでもやわらかく吸収し続ける仕組みになっているのだ。
その乗り味は、簡単に言うなら「魔法の絨毯」である。
高速道路などにある比較的大きなうねりを越えるとき、普通はどうしたって「ガツンッ!」と車体が大きく揺れるものだが、ハイドロニューマチックのシトロエンは違う。そういった瞬間でもほぼ水平を保ったまま、「ふわっ」というニュアンスでいなすのである。それはまさに昔アニメーションで見た魔法の絨毯の実写版だ。
そしてその車台の上に乗るボディおよびインテリアの意匠がまた素晴らしい。
詳しくは下の写真群から各自でご判断いただきたいが、当時のアバンギャルド(前衛)が今なおアバンギャルドであり続け、それでいて、本稿の冒頭で挙げた「いかつい顔」をした今どきのクルマたちとはまるで違う人間味というか、「人間本来の生理に合っている感じ」も強いことが、見て取れるのではないかと思う。
ただし大きな問題は、「それって今でもフツーに乗れるのか?」という点だ。
年式的に古い「DS」は措くとして、ある程度現実的な選択肢となる「GS/GSA」でも32~48年前の品であり、往年のハイドロ系シトロエンのなかでは新しいと言える「BX」でさえ25~36年前のクルマだ。
なおかつ、ハイドロニューマチックである。
輸入車にさほどご興味がなかった方には初耳かもしれないが、いわゆるクルマ好きにとって往年のハイドロニューマチック系シトロエン各車とは、「まるで水芸のようにLHM(作動油)をピューッと吹き出しながら息絶える」と先達から何度も聞かされてきた、悪い意味での「伝説のクルマ」だ。
2018年の今、それに乗るという行為は実際のところどうなのか?
結論としては「意外と大丈夫」ということになる。
もちろんこれはかなりの条件付きで、「マトモな専門店でマトモにレストアされた個体を買うこと。そして購入後も“定期検診”は怠らないこと」という条件下での「意外と大丈夫」という話だ。
そもそもは普通に頑丈なシステムだったシトロエンのハイドロニューマチックが、日本ではここまで悪名高き存在になってしまったのには、大きく分けて3つの理由がある。
ひとつは、日本への正規輸入が始まった初期の時代に、当時のインポーターが「シトロエンを正しく触れるメカニック」の育成を怠ったこと。
筆者の独自取材によれば、多くの(当時の)ディーラーメカニックは「正確な資料やデータが会社から与えられず、その結果として実はよくわからないまま整備を行っていた」という。そりゃLHMをピューッと吹くでしょうよ! という話だ。
もうひとつの理由は、初期にそういった整備を受けてしまった個体がその後も、畑違いな一般整備士による「整備」を受けてきたこと。
そしてもうひとつの理由が、シトロエン自身が1989年の「XM」でハイドロニューマチックの電子制御化を図り、図ったのは良いのだが、機械製品としてのツメが甘かったため「謎の故障」を頻発させたことだ。
これら事情の合わせ技によって「往年のハイドロニューマチック系シトロエン=近寄るべからず」という評価が固まったわけだが、それは実は表層的なものだ。
前述した「マトモなレストアができるマトモな専門店」というのは数多く……でもないが、まぁ全国レベルで見れば確実に何店舗か存在しており、そういった専門店で購入した70年代のGSや、80~90年代のBXをごく普通に使っている善男善女は、筆者が知るだけでもそこそこの数に上る。
つまり、現代のクルマでは絶対にあり得ない素晴らしきデザインと、素晴らしき「魔法の絨毯」的乗り味は、その気になりさえすれば明日か明後日にでも入手可能なのだ。
レストア済み物件のプライスはもちろん個体や販売店によりさまざまだが、目安としては「GS」が200万円前後で、「BX」が120万円前後といったところ。男にとって日々の買い物すべてが「自分のための投資」であるとするならば、決して筋の悪い投資ではないと思うのだが、どうだろうか。
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