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空冷の水平対向12気筒+伝説のガルフカラー ポルシェ917K ル・マン連勝マシンに迫る 前編

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空冷の水平対向12気筒+伝説のガルフカラー ポルシェ917K ル・マン連勝マシンに迫る 前編

空冷の水平対向12気筒エンジン

ル・マン24時間レースで、通算19度の総合優勝を掴み取っているポルシェ。一時撤退していたが、新しく設定されたLMDh(ル・マン・デイトナ・ハイブリッド)プロトタイプ・カテゴリーで、2023年にサルテ・サーキットへ復帰するという。

【画像】ル・マン総合優勝 917K ポルシェのレーサー 911 3.0 RSRと718ケイマン GT4も 全72枚

そんなポルシェの華々しい活躍をさかのぼると、1969年の象徴的なレーシングカーへ辿り着く。空冷の水平対向12気筒エンジンを搭載し、他を寄せ付けない強さを披露した917だ。

空気力学の研究はされていたが、まだ未熟だった50年以上も昔に、サルテ・サーキットのユノディエール・ストレートで396km/hという驚異的な速度へ加速することが可能だった。当時最高のドライバーであっても、手懐けることに苦労したという。

ポルシェ917は、デビュー翌年の1970年に続き、1971年のル・マンでも優勝。レギュレーションが変更されると、北米で開催されていたカナディアン-アメリカン・チャレンジカップ、通称カンナムへ活躍の場を求めた。

1970年6月14日、ポルシェ初となるル・マン総合優勝を果たしたのは、リチャード・アトウッド氏とハンス・ヘルマン氏という敏腕ドライバーだった。お2人ともご健在だが、本日はアトウッドへお越しいただいた。

とても陽気な性格の彼は、80歳を過ぎた。取材場所は、カリフォルニア州サンフランシスコの北、ソノマ・レースウェイ。伝説のマシン、ポルシェ917Kと当時の優勝ドライバーという、夢のような組み合わせが実現した。

他に例がないほど特別でタイトな雰囲気

薄く軽いグラスファイバー製のドアが、大きく開く。開口部はルーフ側まで回り込み、前方の上下にヒンジが付いていて、白鳥が翼を広げたように優雅だ。

低く引き締まったマシンのコクピットへ、筆者の身体を沈める。目の前の様子を、ひと通り観察する。他に例がないほど特別な雰囲気を漂わせている。緊張を隠せない。

コンパクトなドライバーズシートの隣に、ありえないほど小さな助手席が据えられている。2シーターであること、という参戦規定を満たすために。

運転姿勢は、殆ど仰向けの状態。ペダルに向かって足を伸ばす。つま先がヘッドライトのすぐ横へ届く。917のボディは、空気を後方へ可能な限り滑らかに受け流すよう、スリム。身長185cmの筆者には、不安になるほど車内がタイトだ。

空間を稼ぐため、グラスファイバー製のシートからは、ソフトパッドが剥がされている。座り心地は悪く、サポート性も殆どない。それでも、頭上の余裕は1cm足らず。やむをえず、今回の試乗はヘルメットを装着しないことにした。

フロントガラスは、金魚鉢のようにドーム型。そのすぐ両脇に、フロントフェンダーの峰が膨らんでいる。ドライバーの肩の位置より高い。

無駄の一切ない3スポーク・ステアリングホイールの大きさは、小径で完璧。警告灯には、それぞれテープライターでラベリングしてある。ドイツ語で。ワイパーは「Wischer」だ。

396km/hの速さの割に荒削り感が漂う

タコメーターは8000rpmのレッドラインが頂部に来るよう、回転されている。忙しくマシンと格闘するドライバーの視界へ、可能な限り入りやすいように。

想像していた以上に、遥かに刺激的なコクピットだ。だが、レーシングカーとしても驚異的な396km/hという速さを持つマシンとしては、急いで組み立てたような荒削り感もなくはない。

ポルシェは、空冷の水平対向8気筒を搭載したレーシングカー、908の進化版といえる917を25台以上生産する必要があった。当時のFIA(国際自動車連盟)が定めた、スポーツ・プロトタイプの規則に合致させるため。

開発を主導したのは、フェルディナント・ピエヒ氏。チーフエンジニアとして、ハンス・メツガー氏が手腕を振るった。そのメツガーは、2020年6月にこの世を去っている。917のル・マン総合優勝から、50年後のことだった。

「ポルシェ908でも、1969年シーズンのレースを勝つのに、充分な能力を備えていたと思います」。とアトウッドが振り返る。「しかし、フェルディナントはより大きく速いマシンを求めたんです。何より、ル・マンでの勝利を目指して」

908と918は、どちらも軽量なスペースフレーム・シャシーで構成されている。だが、1969年の917には8気筒ではなく、4.5Lの水平対向12気筒エンジンが搭載された。

ポルシェとしては当時最大の排気量を持ち、ユニット上部の冷却ファンの両脇に、合計12基のスロットルボディが並んだ。吸気口には黒いカウリングが施され、ボディの中央から顕になっている。鍛え上げた背筋のように。

パワーウエイトレシオは786ps/t

エンジンは、1970年に4.9L版が、1971年には5.0L版が登場した。今回ご登場願ったのは、5.0L版。車重は800kg程度しかないが、629psもの最高出力を備えている。

パワーウエイトレシオは786ps/tに達し、最高速度は初期型でも378km/h。現代でも、一筋縄ではない数字だ。トランスミッションは、4速か5速が選択可能だった。

アトウッドが1969年のル・マンでヴィック・エルフォードとペアを組んだ時点では、マシンは完全に仕上がっていなかったという。アトウッドが回想する。

「ヴィックは、917が好きだと話していました。強がりだったと思いますが。恐ろしいほど不安定でしたから。テスト走行は飛行機の滑走路。最高速度は300km/hくらいかな、と想像していたのですが、実際には378km/hも出ていたんです」

「(1969年の)レースでは、何かが正しくないという感触がありました。ピットではミラー越しに後方が良く見えたのですが、ミュルザンヌ・ストレートではほとんど何も見えませんでした」

プライベーターとして、1969年のル・マンへポルシェ917で参戦したジョン・ウルフ氏は、オープニングラップで焼死してしまう。恐怖を感じていたのは、アトウッドだけではなかったのだろう。

一方のアトウッドは、ピットインを1度挟んで連続ドライブする、過酷なダブルスティントで戦った。フロントノーズが持ち上がり、ステアリングが不自然に軽くなることへの対処が、断続的に加えられた。

この続きは後編にて。

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みんなのコメント

5件
  • 12気筒は水平対向にするメリットがないので180度のV12なの。ゴメンね
  • 一応、市販のスポーツカーなので車高は高めなのよね
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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