2021年のF1モナコGP予選は、昨年から不振に陥っていたフェラーリのシャルル・ルクレールがポールポジションを獲得したため大きな話題となったが、そのポールポジションの決まり方が多少ながら波紋を呼ぶこととなった。
ルクレールはQ3でトップタイムを記録した後、ラストアタックの最中にプールサイドシケイン出口でクラッシュ。ライバル達も同じくラストアタックをしているタイミングであり、ルクレールのタイムを上回らんばかりのペースで走行している車両もあったが、この事故により予選は赤旗終了となってしまい、ライバルに逆転のチャンスが与えられないままルクレールのポールポジションが確定した。
こういった状況から、ソーシャルメディアでは『ルクレールのクラッシュは故意に起こしたものだったのではないか』という半ば“陰謀論”のようなものが一部で飛び交った。確かにルクレールは、自らのクラッシュによる恩恵を最も受けたドライバーだ。しかし、だからといって彼がわざとバリアにぶつかったと考えるのはさすがに行き過ぎだろう。
F1で戦うプロフェッショナルなレーシングドライバーは、バリアにぶつかったりライバルと競り合うことによる損得勘定に長けている。つまり、予選の終盤にマシンをわざと壊すことは狂った人間しかしないことを分かっているのだ。
特に今回のケースでは、ルクレールは決勝直前までギヤボックス交換によるグリッド降格の危機に晒されていた。たとえ小規模なクラッシュであっても、衝撃によってギヤボックスにダメージが見受けられた場合、チームは5グリッド降格を受け入れてでもギヤボックスを交換せざるを得ない。特にギヤチェンジの回数が多いモナコでは尚更だ。仮にルクレールが「赤旗を出して予選を終わらせたい」と思っていたとしても、わざわざサイドインパクトによりギヤボックスにダメージが及びかねない場所でクラッシュしようとは思わないだろう。
逆に言えば、ルクレールにとってライバルの走行を意図的に妨害する方法は他にもあった。さらに言えば赤旗を必要すらなかった。ダブルイエローが振られれば、それだけで他のドライバーはアタックを中断せざるを得ないのだ。
実際にモナコでは、タイムシート上のトップにいたドライバーがイエローフラッグの原因となってポールポジションを確定させ、物議を醸した場面がいくつかある。
その中で最も有名なのが、2006年のミハエル・シューマッハー(当時フェラーリ)だろう。シューマッハーはルクレールと同じようなシチュエーションで、ラスカスを止まり切れず立ち往生。ライバルであるフェルナンド・アロンソはこの影響でタイムを更新できず、シューマッハーがポールポジションとなった。
しかし、このラスカスでの不自然な動きは審議にかけられた。シューマッハーは故意に行なったものではないとして無実を訴えたが、スチュワードはシューマッハーの予選タイムを抹消する裁定を下した。
2014年には、当時メルセデスのニコ・ロズベルグがミラボーのブレーキングでロックアップしてエスケープゾーンに。これでイエローフラッグが振られ、直後を走っていたチームメイトのルイス・ハミルトンはスピードを落とさざるを得なかった。ロズベルグからポールポジションの座を奪おうとしていたハミルトンはすぐに不正を疑い、無線でロズベルグに対して「良かったね」と皮肉った。
ただ、FIAのスチュワードはこの件について調査をした結果、テレメトリーデータや映像を見る限り不正行為を疑われるような動きはなかったとしてロズベルグはお咎め無しとなった。
もし、ルクレールの中に悪事を働こうという考えがあったのであれば、ロックアップしてエスケープゾーンに突っ込んだりする方がよっぽど“確実”だっただろう。サスペンションを壊し、ギヤボックス交換によるグリッド降格でポールポジションを失うような危険に自らを晒すことは考えにくい。
結果的に予選2番手に終わったマックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、ラストアタックのセクター1で全体ベストタイムを記録しており、ルクレールのクラッシュがなければポールポジションを奪っていた可能性もある。ただ彼は、ルクレールの動きが故意であるとは考えていないようだ。
「ミスをして壁にぶつかるのと、それをわざとやるのとでは違いがあると思う」とフェルスタッペンは言う。
「シャルルがフロントウイングを壊してどこかに止まったりしていたら、話は違っていたと思う」
またルクレール自身も、もし意図的に赤旗を出すのだとしたら、高速でクラッシュしようとはしなかっただろうと語った。
「もしわざとやるのであれば、もっとうまくやっていただろうし、フルスピードで(バリアに)突っ込んでギヤボックスを壊すようなリスクは冒さなかったはずだ」とルクレール。
「だから、わざとやったかどうかに関しては、間違いなくノーだ」
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