1988年に5代目として登場したS13シルビア。前モデルとはエクステリア、インテリアともに様変わりし、曲面を多用したスタイリングで、若者を中心に人気モデルとなった。当時数少なくなっていたFRスポーツで、洗練された走りも魅力だった。その詳細を紹介しよう。(新刊ムック「GTメモリーズ(1) S13シルビア」より)
小型で小排気量のFRスポーツ
1988年、フルモデルチェンジされたS13シルビアはFRを固持した。今や、国産車では最小排気量のFRである。ドライビングの楽しさは、駆動方式にはとらわれるものではないが、FRにはFRならではの楽しみ方がある。要は、それをいかにドライバーに伝えてくれるか、そしていかに1990年代に通用するFRのテイストを出すことができるかが問題だ。
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シルビアのトップモデル、K'sにはU12型ブルーバードと基本的に共通のCA18DET型、175psの高出力エンジンが搭載され、それを活かすために前ストラット、後マルチリンク、そして進化したHICAS-IIが装備される。これらは、すべてFRシルビアを心地よく走らせるために装備されたアイテムだ。
攻め込むとFRならではの楽しみ
実際の走りは日産の栃木テストコースで試した。テストコースでなら、かなり思い切ったテストが行える。幸いにもハーフウエットからドライまで、様々な条件でFRシルビアをドライビングできたが、それは期待どおりのものだった。日産のドライビング・テイストにキラリと光るものがあるのは、すでに、U12型ブルーバードで証明済み。シルビアも駆動方式は異なるが、同じ路線を歩んでいた。
エンジンは、ブルーバードより、やや滑らかで振動も減少した印象。動力系をフロントに集中させなければならないブルーバードと、それを前後に分散できるシルビアの差が表れたようだ。さらに、ブルーバードでは耳についたノイズも大幅にカットされている。スペシャリティカーとして、この点は重要だ。パワーはスカイラインやギャランといった、もっと力を誇示するクルマを知っているので、それほど感激はない。むしろ広いテストコースの中では扱いやすく感じたくらいだ。エンジンフィールは、立ち上がり時に、ややターボラグがあるが、いかにもDOHC4バルブを感じさせる気持ちの良いレスポンスだ。
シルビア最大のセールスポイントはリアサスペンションである。とくに駆動力を伝える後輪の動きが重要なFRで、リアの新しいマルチリンクサスがしなやかに路面をつかんでいるのが好ましい。シルビアのマルチリンクはあくまでもフロントとバランスしながらグリップして、かつ粘りながらスライドする。トー変化が上手に規制されているので、リアタイヤの接地感を常に感知しやすいのだ。このマルチリンクは剛性も高く強烈な横Gをかけてもへこたれることはなかった。
一方、フロントサスはストラットをリファインしたものだが、リアサスのグリップコントロール性の高さが際立っているせいか、フロントの出来は平均的だ。従来型よりも格段にアップしているが、横剛性などはリア側が勝っており、結果としてのバランス(とくにクルマを追い込んでいった時)は物足りなさを感じる。
これも限界まで走り込んだときの話で、ワインディング走行時では不満はほとんど残らない。むしろドライビングして楽しいFRに仕上がっている。応答の率直なことと、フリクションの少なさは特筆ものだ。
コーナーで効果大のHICAS-II
注目のHICAS、II型に発展してスカイラインとはひと味違うものとなった。スカイラインはHICASが作動すると、それがサブフレームごと動かすシステムのため、後輪で大きなマスが動く感覚が拭えなかったが、シルビアでは基本的には1本のリンクでトーコントロールするので、そのような大きなマスは感じなかった。
HICASが威力を発揮するのは、ウエットのような滑りやすい路面でのコーナーの立ち上がり。こんな場面でテールスライドが大きくなった場合に、HICASが動いてスライドを止めてくれる。また急速なレーンチェンジでも、その効果は存分に感じられた。ただ欲を言えば、スムーズになったとはいえ、同位相への転舵速度や角度にもう少し滑らかさがあればベターだ。フロントサスペンションのダブルウイッシュボーン化とともにこれからの課題だろう。
操作系はどれもドライバーが自然と動かせる位置にあり、シフトフィールも満足でき、マニュアルでも面白く走れるのだ。
ネオクラシック調の初代シルビアを思わせるスタイルと存分に振り回せるFR。走りを求める硬派にも、スペシャリティを求めるユーザーにもアピールするだろう。(新刊ムック「GTメモリーズ(1) S13シルビア」より)
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