ランチアが発表した新型「イプシロンHF」は、実に興味深い1台だった。かつてあった初代デルタを振り返りつつ、新たなホットハッチの魅力を、小川フミオが考える。
色褪せない初代デルタ
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イタリアのランチアがイプシロンHFなるホットハッチを2024年5月27日に発表して、話題を呼んでいる。注目点は、1980年代から90年代にかけて世界ラリー選手権などで活躍した同社のデルタHFのイメージを反映していること。
イメージ写真にフィーチャーされたモデルは、ボンネットに大きく入った象のシンボルと、往年のラリーカーのマルティニストライプを連想させる車体側面のマルチカラーストライプが印象的だ。見ていると“新しくて古い”、そんなイメージに心躍らされるモデルだ。
そもそもデルタとは、フォルクスワーゲン「ゴルフ」の成功を受けてフィアットグループが開発した4ドア・ハッチバック。高級路線とラリー路線、極端な2極展開でどちらもファンを獲得していたランチアのブランドで、79年に発売された。
ジョルジェット・ジュジャーロ(当時はジウジアーロと表記されること多し)率いるイタルデザインによるボディスタイルは端正。オリジナルのデルタはインテリアも洒落ていた。
ハンモック式のフレーム構造を持つシートに、ミラノの生地メーカー兼ファッションブランドのエルメネジルド・ゼニアが手がける美しい格子柄の生地を張っていたのもよかった。座り心地も見掛けも抜群で、私はデルタでイタリア車ファンになった。
販促のためにモータースポーツが有効、と、世界ラリー選手権で走るためのスポーツバージョン、デルタHF・4WDが登場したのが86年。87年の世界ラリー選手権で優勝した。
間髪入れずに……という感じで、87年には、パワーアップしたエンジンと張りだしたフェンダーが迫力のあるデルタHFインテグラーレが登場し、そのあとデルタHFインテグラーレ16Vへとパワーアップ。88年から92年まで世界ラリー選手権で圧倒的な強さを誇ったのである。
そのときのあまりの強さと、ここからは私の想像も加味するけれど、当時の日本ではじわりじわりとイタリア車の人気が高まりつつあった。
エンツォ・フェラーリが他界したのが88年。このときからフェラーリ車の価格高騰がはじまり、新聞の一般紙にまで採り上げられる話題となった。
やたら豪華な雰囲気のマセラティもあれば、映画『グランブルー』(88年)に登場して人気を呼んだフィアット「(ヌオーバ)チンクエチェント」まで、多様な楽しさがあったからだ。ランチアも先述のとおり独自の魅力を持っていた。ドイツの競合というと、メルセデス・ベンツやBMWが浮かんだ。
モーターならではのファン・トゥ・ドライブに期待!話をイプシロンHFに戻すと、ランチアは、イプシロン・ラリー4HFなるモデルを作り、ラリーへと復帰するとプレスリリースに記している。「今回も、ラリーでの高成績があらたなランチアファンを生み出してくれるでしょう」。ランチアのルカ・ナポリターノCEOは語っている。
イプシロン・ラリー4HFはピュアEVでなく、1.2リッター3気筒ターボユニット搭載車。ボンネットの象は、フライングエレファントといい、ランチアのHFスクアドラコルセ(レーシングチーム)のシンボルでもあった。それを大きく掲げているのは、つまりそれだけ力の入ったモデルということだろう。
当時のマルティニ・ストライプを彷彿させるカラリングで参戦してくれたら懐かしくて涙ものだけれど、そこはスポンサーの絡みがあるからどうなるか……。
個人的には、ピュアEVが参戦する世界ラリークロス選手権へも、イプシロンHFで参戦してもらいたいと思う。
2024年6月に日本での販売が開始されるヒョンデ「アイオニック5N」も、高性能をセリングポイントにした全輪駆動のピュアEVだ。イプシロンHFが市場で、ヒョンデと真っ向からぶつかるようなハイパフォーマンスを持っていることを、私は大いに期待している。
モーターならではのファン・トゥ・ドライブ性を前面に押し出すモデルが増えてきた。たとえば、価格帯こそ違うけれどピニンファリーナ「バッティスタ」やロータス「エメヤ」などである。
今回登場したイプシロンHFを含め、確実にピュアEVは新しい世代になっていくのだ。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)
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