ファミリーカーと夢のスポーツカーの共演
1967年の正式発売前から、様々な話題を提供し続けたTOYOTA 2000GT。映画『007は二度死ぬ』のために製作されたオープンモデルは、レストア後にトヨタ博物館に収蔵されている。1966年10月1日から4日まで78時間におよぶ長時間走行を走りぬき、3つの世界新記録とFIA・Eクラスの13の国際新記録を樹立したTOYOTA 2000GTのスピードトライアル。そのわずか3週間後の10月26日、東京・晴海で開催された第13回東京モーターショーにトライアルカーが展示された。
トヨタ2000GT試作1号車の数奇な運命。第五幕 スピードトライアル本番(後編)【TOYOTA 2000GT物語Vol.5】
このモーターショーの直前、10月20日にトヨタは新型カローラを発表。1100ccという排気量でライバルの日産のダットサン・サニーに差をつけ、「プラス100ccの余裕」をうたった。そのカローラと最高級スポーツカーTOYOTA 2000GTの組み合わせで、東京オリンピック後の高度経済成長期に希望をもって生きる人々を迎えたのが東京モーターショーのトヨタ・ブースだった。
晴海の東京国際見本市会場2号館に陣取ったトヨタ・ブースは、片側の壁面に蛍光灯が埋め込まれ、「品質と価格で奉仕するトヨタ」のネオンサインが点灯。その前に黄色いTOYOTA 2000GTトライアルカーと渋いエンジのボディカラーの市販型が、エンジンを搭載した状態のX型バックボーンフレームとともに並べて展示されていた。翌67年に5月に正式発売を控えていたTOYOTA 2000GTの市販型は、マグネシウムホイールを装着したほぼ完成形となっていた。
トヨタ・ブースには、さらにもう1台の主役がいた。映画『007は二度死ぬ』に登場するTOYOTA 2000GTのオープンカーだ。当時の雑誌記事には「オープンにしたこのボンドカーは1台がロンドンに空輸済みで、イギリスの撮影所でのセット撮影に使用中。ショー展示車は日本ロケ用」とある。当時、TOYOTA 2000GTのボンドカーは2台存在することが公表されていたようだ。
庶民の手が届きそうな現実のクルマ、カローラと本当の夢のクルマ、TOYOTA 2000GT。この2トップの威力は大きく、大変な人波がトヨタ・ブースに押し寄せたという。人々を迎えるトヨタの説明員は、お揃いの黄色いブレザーを着用し、それぞれの腕には「品質と価格で奉仕するトヨタ」のスローガンの入ったワッペンがつけられていた。
その黄色いブレザーの説明員として、TOYOTA 2000GT開発チームのスタッフも加わっていた。
皇太子殿下のご来場
先行するダットサン・サニーに対抗するため、排気量を急きょ100cc増しの1100ccにしたといわれる初代「カローラ1100」。一般公開日に先立ち設けられてプレスデーで思いがけない出来事が起こる。トヨタ・ブースに皇太子殿下(現・上皇陛下)が立ち寄られたのだ。
皇太子殿下は、第2回全日本自動車ショウ(1955年)から第20回東京モーターショー(1973年)まで連続してご来場されたほど、モーターショーとは縁が深い。じつは説明員を含むスタッフ全員、事前に何も知らされていなかったという。当時の状況について、対応した説明員のひとりはこう語っていた。
「皇太子殿下がお見えになったので、そりゃびっくりしました。お付きの方が『台風の時も走り続けて世界記録を作ったクルマです』と説明されていました。皇太子殿下から『台風の中、大変でしたね。ご苦労さまでした』とお声を掛けていただきました」
そのやりとりを浮かない表情で見ている人物がいた。皇太子殿下の説明役として同行していた、当時の自動車工業会の川又克二会長だ。日産の社長でもあった川又会長が、トヨタのブースでトライアルカーの華々しい新記録の話を皇太子殿下と一緒に聞くのは堪え難いことだったに違いない。
このことがきっかけになったかどうかはわからないが、「技術の日産」は翌1967年10月8日に茨城県・谷田部の自動車高速試験場において、ニッサンR380でFIAスピード国際記録に挑戦し、7種目(50km、50マイル、100km、100マイル、200km、200マイル、1時間)で国際新記録を達成している。
しかしながら、TOYOTA 2000GTのトライアルカーは市販前提のGTで試作車1号車がベース、対するニッサン380は同じ2ℓエンジンながらパイプフレームにFRPボディを架装したプロトタイプカー。しかも、TOYOTA 2000GTは丸3日以上の78時間を走り抜いている。どちらのアピール度が高かったといえば、自明のことだろう(続く)。
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みんなのコメント
グニャグニャボディで走れたもんじゃなかった。
ヤマハは大反対したのに、トヨタが無理矢理切った