はじめに
今週取り上げるTロック・カブリオレは、新たな種類のクルマ遊びを味わせてくれそうだ。フォルクスワーゲンによれば、いかつさでアピールするSUVに、風に髪をなびかせるオープントップを組み合わせた、ということになる。
ただし、なぜこんなクルマが必要なのか、疑問に思う人もいるだろう。販売台数のみにラインナップの存在意義を求めるならば、それも納得できる話だ。
2017年の発売以来、Tロックのボディタイプは単一だったが、いまやフォルクスワーゲンの売れ筋だ。英国でいえば、ゴルフ、ポロ、ティグアンに次ぐ4本柱の一角となっている。
中型SUVの人気は高い。現在、自動車市場はコロナ禍で麻痺状態だが、それまではセールスを伸ばし続けてきた。少なくともビジネス的な目線では、Tロックはまさにコンバーティブルのような新しいバリエーションを追加するべき車種だと考えるところだ。正直、あまり腑に落ちる理由とは思えないが。
もうひとつ、Tロックの購買層が上位モデルのそれより若いことも、その決定の一因だろう。年齢層の低いユーザーほど、オープンエアでのドライブに抵抗がなさそうだからだ。
ロジック的には納得できる。しかし、商品戦略としてはどうなのか。クロスオーバーのコンバーティブルは、定着できそうな車種なのだろうか。そうした疑問も含めて、このクルマを見極めていこう。
意匠と技術 ★★★★★★☆☆☆☆
フォルクスワーゲンは、カルマンに造らせる最新コンバーティブルのベースに、ゴルフでもポロでもなくTロックを選んだ。このことは、多少の妥協を強いることになると思われる。現代的なプラットフォームのエンジニアリングによって、設計変更が想像するほど難しいものではなくなっているにしてもだ。
Tロックは結局のところ、ゴルフやポロと同じMQBプラットフォーム系列に属するモデルだ。そのため、カブリオレでもエンジンをフロントに横置きするレイアウトとなる。前輪駆動のみのラインナップだが、これはハッチバックがベースでも同じことになったはずだ。
ルックスに関して、これより車高が低くコンパクトなカブリオレと比べても見劣りしない魅力的なものになっているか、その判断はひとそれぞれ違うだろう。少なくとも、テスター陣に肯定的な意見の持ち主はいなかったが。
設定されるエンジンは、ガソリンターボが2機種で、115psの1.0L直3と、150psの1.5L直4。トランスミッションは6速MTが標準装備で、1.5LのみDCTをオプション設定する。今回のテスト車は、この自動変速モデルだ。
このカブリオレは、スタンダードなTロックよりホイールベースが延長されているが、これは大人が座れるリアシートと、折りたたみルーフの格納スペースとを両立させるためだ。
また、ドアは4枚から2枚へ減らされ、Aピラーとフロントウインドウ周り、アンダーボディには補強が加えられた。さらに、横転時に後席の背後にロールバーが飛び出すロールオーバープロテクション機構も備えている。
車両重量だが、現状では感染症対策のため計測設備が使用できない。そのため公称値での比較になるが、同じドライブトレインを積むスタンダードなTロック比ではプラス190kgで、今回の1.5L+DCTは1540kgだという。
それより、同系列のプラットフォームを用いるオープンカーとの対比のほうが興味をそそるのではないだろうか。エンジンとトランスミッションが同じアウディA3カブリオレとの重量差は、145kgということになる。
サスペンション形式は全車共通で、フロントがストラット、リアがマルチリンクだが、セッティングはグレードにより異なる。Rラインのみ、ハードなダウンスプリングが組まれ、ホイールは19インチになり、プログレッシブなパッシブ可変レートステアリングが装備される。
こうした変更により、Rラインの走りはある程度ながら明らかにスポーティに仕立てられている。このほか、テスト車に装着されていたアダプティブダンパーのダイナミックシャシーコントロールがオプション設定されている。
内装 ★★★★★★★☆☆☆
本格的に使い勝手のいい4座カブリオレという位置づけは、低価格仕様ではこのTロックの合理的な魅力といえるだろう。その価格帯ならば、これほど実用的なオープンモデルがほとんどないからだ。
いっぽうで、今回のテスト車のような高価格仕様なら、同じようなプライスで競合モデルを見つけるのはたやすい。
並外れて大きく重いドアを開けると、ドライビングポジションの快適さに気づくはずだ。低くもスポーティでもないが、ウエストラインが引き上げられているので、相対的に高く座らされているように感じさせられることはない。
それでいて前席は、十分なヘッドルームとレッグルームが確保されている。背が高く大柄なドライバーであっても、窮屈さに悩まされることはないだろう。
だが後席に成人を乗せた場合には、前席のレッグルームを多少は犠牲にしないと、全員が快適というわけにはいかなくなる。それでも、大人がリアシートに不満なく収まれるのは、身長が平均以下の場合のみだ。ルーフを閉じたら、頭上が圧迫されてしまう。
その後席はふたり掛けだ。幅はやや狭く、シートベルトは2名分しかない。とはいえ、ISOFIXは備わっていて、チャイルドシートはかなり楽に取り付けできる。
このコンバーティブルに、ベースとなったクロスオーバーハッチバックと変わらないキャビンの広さを期待しているなら、それが見込み違いだということはすぐにわかる。それでも、A3や2シリーズのカブリオレといったライバルに比べれば、ほどほどながら感心できる実用性を見出せる。
ルーフの開閉機構により荷室へのアクセスはやや制限されるが、284Lの容量はオープン時でも目減りしない。もっともこの数字は、2シリーズのオープン時をわずかに上回るが、A3には及ばない。
キャビンお雰囲気や質感については、納得のいく水準に達している。だが、トップグレードの価格を考えれば、すばらしいといえるほどではない。
ダッシュボードは見栄えがよく、フィニッシュも上々だ。テスト車はモノクロなトーンだが、もっと派手な色調も選択できる。
使い勝手や、インフォテインメントシステムとデジタル計器のグラフィック面の演出はなかなかいい。いっぽう、手触りのクオリティは、このプライスのフォルクスワーゲンに期待するほどではない。ソフトなタッチの樹脂パーツや、際立って上質なマテリアルは使われていないのだ。
走り ★★★★★★☆☆☆☆
カブリオレとオープンスポーツカーは混同されがちだが、まったく違うものだ。同じ価格帯のマツダ・ロードスターや、アウディTTロードスターのローエンドモデルなら備えている、エキサイティングなレスポンスや速さが、このクルマにはないことも欠点だとはいえない。
総じてカブリオレというのは、休日にゆったり流すクルーザーのようなものだ。リッチで滑らかな走り、意のままになるドライバビリティ、そして過不足ないパフォーマンスといった資質が求められる。
このTロックのパワートレインは、少なくともその一部を持ち合わせている。1.5Lユニットとギアボックスが相まって、低速ではじつに心地いい。エンジンはスムースで、回転域のほとんどで洗練されたところをみせる。
DCTのほうはというと、軽負荷時には上品な変速ぶりで、必要とあれば素早く巧みにシフトダウンをこなす。決してずば抜けて早い動きではないが、意に沿わないようなところを見せはじめるのは、ハードに走らせたときくらいだ。
パフォーマンスそのものは、強力なわけではない。けれども、街乗りのスピード域から低めのギアで加速すると、それなりに速く感じられる。
25.4kg-mのトルクを持ってしても、1.5tを超える車体の動きには、やや石臼を思い起こさせる重さがある。目的地間の移動速度を本当に高く保とうと思ったら、DCTのマニュアルモードで低めのギアを選び、高回転を保たなければならない。
Tロック・カブリオレを買おうというユーザーの大半は、そんなことを気にしないかもしれない。だが、このカテゴリーのマーケットで同じ金額を支払えば、明らかにもっとハイパフォーマンスなモデルが手に入るのは事実だ。
それよりリファインされているといえるのは、室内環境のほうだ。ルーフを開けていても、サイドウインドウを上げてウインドディフレクターを立ち上げていれば、前席への風の巻き込みは効果的に防げる。ただし、制限速度をだいたい守っていればの話だが。
ルーフを閉めていれば、キャビンの気密性は良好だ。
使い勝手 ★★★★★★★★☆☆
インフォテインメント
インフォテインメントシステムはグレードを問わず、8.0インチのタッチ式カラーディスプレイを備えるディスカバーナビゲーションを採用する。
Rラインに標準装備される10.3インチのディスプレイを用いたデジタルメーターパネルのアクティブインフォディスプレイは、他グレードでは435ポンド(約6.1万円)のオプションだ。
しかし全車とも、8チャンネル/400Wのビーツ製プレミアムオーディオは430ポンド(約6.0万円)、音声操作は210ポンド(約2.9万円)の追加出費が必要。Rラインの価格を考えれば、標準装備にしてもらいたいところだ。
タッチ式ディスプレイを用いるインターフェイスは、わかりやすいレイアウトで、操作へのレスポンスに優れる。ナビゲーションの入力もしやすい。マップや進路表示は適切で好ましく、デジタルメーターパネルに投影することも可能だ。
テスト車は、オプションのプレミアムオーディオを装着していた。音質はかなりいいが、街なかで大音量をまき散らすようなドライバーが納得するほど圧倒的なパワフルさはなかった。
音楽はストリーミングやスマートフォンとのデータ接続を用いて再生できる。Apple CarPlayとAndroid Autoの各ミラーリング機能にも対応している。
操舵/快適性 ★★★★★☆☆☆☆☆
切りはじめのステアリングレスポンスが驚くほどダイレクトで、かなり占有面積が小さいので、市街地の速度域では扱いやすく俊敏だ。ジャンクションやラウンドアバウトでは、多少の鋭さを感じさせつつ素早く駆け抜ける。
低速での乗り心地は、この手のクルマに予想されるよりも洗練性を欠き粗いといっていい。オプションのアダプティブダンパーは、スポーツサスペンションと19インチホイールによるセカンダリーライドのインパクトを相殺できていないのだ。
それでも、開けた道ではあるべき楽しさをいくらかはみせてくれるだろう、とわずかながらも期待したくなる。もっとも、それが長くは続かないのも想定の範囲内なのだが。
このクルマ、表面上は重量と高い重心をカバーできているように思われたが、速度が上がるにつれ、その能力は失われてしまう。低速域では十分と思われたねじり剛性についても、限界を露呈しはじめる。
横方向のボディコントロールはひどく悪化しないが、グリップレベルとハンドリングレスポンスはゆっくり走っていたときのようなシャープさがほとんどなくなってしまう。ターンインでシャシーは大きくロールし、まるで考え込むかのように反応が鈍くなるので、車体の重さを思い知らされることになる。
それにも増して気になることがある。やや路面コンディションの悪いA級道路に入ると、不安定で抑えの効かないピッチングやバウンシングが発生し、プライマリーライドはせわしない。走りの楽しみを邪魔するという点では、これらの影響のほうが大きい。
ダンパーをスポーツモードにしていても、そうではなくても、飛ばしたときの落ち着きはない。それ以上に、このクルマと日常を共にすることになれば、速度が上がるほどにひどくなる乗り心地のほうが大きな問題になるだろう。
鋭い突き上げでは、不意にシャシーの振動が引き起こされる。ルームミラーの中で後席ヘッドレストがずっと揺れているのは、明らかにボディがたわんでいるからだ。わずかとはいえ、めいめいにビートを刻んでいるのがはっきり感じられる。
購入と維持 ★★★★☆☆☆☆☆☆
フォルクスワーゲンはTロック・カブリオレの価格帯を、アウディA3カブリオレやBMW2シリーズカブリオレにかなり近い設定とした。ブランドのステータスや認知度、そして商品力の相対的な訴求度を勘案すれば、かなり控えめにいっても明らかに大胆な戦略だと思えるはずだ。
しかも、オプションをもろもろ追加したテスト車の仕様だと、4万ポンド(約560万円)をわずかながらも上回る。150psのTロックに付けられたプライスとしては、どうみても正当化するのが難しいほど高額だ。
おそらくフォルクスワーゲンは、直接的なライバルといえるモデルが存在しないと反論するだろう。また、このモデルの購買層は、ほかのクルマの場合ほど金額にうるさくないだろうとみているのかもしれない。
このポジショニングを正当化するために、フォルクスワーゲンが用意した標準装備の内容は、少なくとも充実したものだといえる。それでも、オプションに多額の出費をする余地がないほど充実しているとはいえないのだ。
スペック
レイアウト
オープンボディ化に伴う構造変更により、全長とホイールベースが延長された。しかし、エンジンをフロントに横置きするメカニカルレイアウトは変わらない。
サスペンションは四輪独立懸架。カブリオレは、前輪駆動のみの設定だ。
エンジン
駆動方式:フロント横置き前輪駆動
形式:直列4気筒1498cc、ターボ、ガソリン
ブロック/ヘッド:アルミニウム
ボア×ストローク:φ74.5×85.9mm
圧縮比:12.5:1
バルブ配置:4バルブDOHC
最高出力:150ps/5000-6000rpm
最大トルク:25.4kg-m/1500-3500rpm
許容回転数:6500rpm
馬力荷重比:97ps/t
トルク荷重比:16.5kg-m/t
エンジン比出力:100ps/L
ボディ/シャシー
全長:4268mm
ホイールベース:2630mm
オーバーハング(前):-mm
オーバーハング(後):-mm
全幅(ミラー含む):1998mm
全幅(ミラー除く):1811mm
全高:1522mm
積載容量:284L
構造:スティール、モノコック
車両重量:1540kg(公称値)/-kg(実測値)
抗力係数:0.36
ホイール前・後:8.0Jx19
タイヤ前・後:225/40 R19 93W
ブリヂストン・ポテンザS001
スペアタイヤ:パンク修理キット
変速機
形式:7速DCT
ギア比/1000rpm時車速〈km/h〉
1速:5.00/7.4
2速:3.20/12.4
3速:2.14/19.5
4速:1.72/28.0
5速:1.31/37.5
6速:1.00/46.7
7速:0.82/56.0
最終減速比:1~4速=4.80:1/5~7速=3.43:1
燃料消費率
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):11.1km/L
中速(郊外):14.9km/L
高速(高速道路):16.7km/L
超高速:13.8km/L
混合:14.3km/L
燃料タンク容量:50L
現実的な航続距離:716km
CO2排出量:159g/km
サスペンション
前:マクファーソンストラット/コイルスプリング、スタビライザー
後:マルチリンク/コイルスプリング、スタビライザー
ステアリング
形式:電動アシスト機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:2.1回転
最小回転直径:-m
ブレーキ
前:282mm通気冷却式ディスク
後:272mmディスク
各ギアの最高速
1速:48.3km/h(6500rpm)
2速:80.5km/h(6500rpm)
3速:125.5km/h(6500rpm)
4速:181.9km/h(6500rpm)
5速:204.4km/h(5451rpm)
6速:204.4km/h(4379rpm)
7速(公称値):204.4km/h(3649rpm)
7速・70/80マイル/時(113km/h/129km/h):2011rpm/2299rpm
結論 ★★★★★☆☆☆☆☆
もしもこのTロック・カブリオレが研究室内の実験やレストランの賄い飯のようなものなら、遠からずゴミ箱行きになるだろう。
しかし、これは市販車で、ある種の購買層に訴求すべく市場に投入されている。特段高い期待をしていないユーザーに、というのが正しいだろう。
一般的な背の低いカブリオレと比較して妥協すべき点をザッと挙げるなら、奇妙なルックスやなまぬるいパフォーマンス、優雅さにかける乗り心地、高い速度域で欠点を露呈する走りの安定感といったところだ。
逆に、このセグメントにもたらしたものはというと、4シーターとしてのやや改善された実用性や便利さ、使い勝手、市街地での運転しやすさなどがある。
この両面を照らし合わせてみると、合理的で説得力のある商品だとみなすのはかなり難しい。とはいえ、現在の自動車市場において多くの分野で見受けられるSUV化の流れもまた、合理的な説明のしづらい現象だ。
それでも、ひとびとは背が高い趣味グルマの新たな選択肢を欲しているように思える。BMW X4やセアトのクプラ・アテカ、ランボルギーニ・ウルスなどの人気ぶりをみれば、それは明らかだ。
もちろん、流行は移ろいやすいものである。しかし、もしこのクルマがそれなりに成功したなら、その成功はほとんど流行のみによってなされたものだといっていいだろう。
担当テスターのアドバイス
マット・ソーンダースカルマンのようなカブリオレのスペシャリストは、一般的なものより優れたウインドディフレクターを、そろそろ開発してもいいころだ。リアシートが使えなくしたり、荷室を圧迫したりしないものはできないのだろうか。デザイナーが頭をひねっても解決できないような問題ではないと思うのだが。
リチャード・レーン時間が経過するにつれ、この大きく重たいドアの建てつけが悪くなりはしないかが心配だ。両側をフルオープンすると車幅が倍以上に広がるようなクルマは、いまや時代遅れだ。これまで計測していて、そこまでのものにはあまりお目にかかったことがない。
オプション追加のアドバイス
大径ホイールを履き高額になるRラインは考えないほうがいい。できればMTを選択したいところだが、エンジンについてはケチらないこと。1.5 TSIエヴォのデザイングレードで、ホイールは標準装備の17インチのままがいい。1130ポンド(約15.8万円)のDCCことアダプティブサスペンションを追加し、明るい色の組み合わせを選びたい。
改善してほしいポイント
・もう少しシャシーは硬いほうがいいが、て硬めにしすぎないよう程度を見極めて修正を。もちろん、そのために重量が増すことのないように。
・Rラインのスポーツサスペンションは、高速ハンドリングにもっと落ち着きがほしい。
・エンジンラインナップの拡大と、もっと柔軟な価格戦略を検討してもらいたい。
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みんなのコメント
最新の国産コンパクト以下の香りがする。