JAIA日本自動車輸入組合が主催する毎年恒例のメディア向け試乗会が実施された。日本に輸入されるインポートカーの多くに試乗できるイベントで、試乗の機会を逃していたモデルに乗れるチャンスでもある。
今回試乗したモデルはいずれも超高級車で、そもそも国内導入のタイミングで試乗会を行なわないモデルが多い。国内での販売台数も数百台という規模の希少価値もあるモデルを選択した。
ゆえに、いわゆるハンドリングや乗り心地、といった量販車を評価するようなレポートは無粋だ。高額なクルマだけに良くて当たり前。だが、人々を魅了し、富裕層に【欲しい】と思わせる魅力とはいったいなんなのか?その世界観を覗いみた。
<レポート:高橋 明/Akira Takahashi>
【ランボルギーニウラカン】
ウラカンはV10型エンジンをミッドシップに搭載するスーパースポーツで、めったに試乗できないモデルだ。
ルックスは見てのとおり存在感があり、誰が見てもスーパーカーと分かるデザイン。ドアは跳ね上げタイプではなく、通常の開き方。シートは地面に座るように低く、それだけで気分は高まる。
運転席に乗り込み各部を見渡す。ドレスアップしたトグルスイッチ類が目に飛び込み、インタン―フェイスの使い勝手など無視したかのような、機械的な冷たさが近寄りがたい空気を出している。エンジンのスターターボタンはセンターコンソールにカバー付きで設置されている。しかも赤いカバーで。ギヤシフトはボタン式だが「D」表示はない。
右側のパドルシフトを一回手前にクリックすると、ギヤを噛む音が軽めにして微妙にクルマが身震いする。後はアクセルを開ければ走りだす。左右のパドルシフトを同時に握ればニュートラルだ。2ペダルマニュアルを存分に味わせる演出だ。感性に響く。
スターターボタンを押し、ギヤを1速に入れる儀式を済ませ、ゆっくりと走り出す。ボディは小刻みに震え、レーシングカーのように動きだす。地面の凸凹も相当拾い、普通ぢゃない!と早くも脈拍が上がる。一般国道を目的地もなく走ったが、気安くUターンなどする気にもならない。乗り心地はもちろん硬めなのだが、そこはストリートモデル、入力を丸くいなし、乗っていて嫌になることはない。
ドライブモードは「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」と3段階あり、モード切替は3本スポークステアリングのボトム部にある。またウインカーレバーもなく、方向指示器は3本スポーク左側にスライド式のスイッチが付く。
「ストラーダ」はいわゆるコンフォートモードでアイドリングストップもする。エンジン音はずっとV10 サウンドを響かせているが、それほど大きな音ではない。見るものの目にはそのルックスのほうが印象に残るだろう。
「スポーツ」は激しい。サウンドは気分を高揚させるV10サウンドを奏でる。ダウンシフトではブリッピングをし、スパルタン。まさにレーシングだ。この時ばかりはルックスとエンジンサウンドが見事にマッチし、スーパースポーツの存在感が光り輝く瞬間だ。
【アストンマーティンDB11】
2016年秋に国内デビューしたDB11。V型12気筒5.2Lをフロントに搭載したジェームスボンド御用達のスーパースポーツ。
シートのデザイン、レザー、座り心地など、ドライバーズシートに身を沈めた瞬間にジェームスボンド、ダニエル・クレイグになりきれる。先ほどのイタリア製とは全く異なる異空間を感じさせ、ダンディズムを漂わせているところがアストンマーティンだ。
特にエンジンサウンドだ。せっかくのV型12気筒を搭載しているのだから、と言わんばかりのサウンドを楽しませてくれる。
ウラカンからの乗り換えもあって、アストンのコンフォートな乗り心地にも大人の雰囲気を感じる。アクセルを踏めば12気筒が吠える加速をするが、優しく、そっとアクセルペダルに触れていれば、ドロドロとしたランブル音を響かせながら走る。
高級なタンレザーで統一された車内。ピアノブラックと鈍色のシルバーという組み合わせは、どこか英国を感じさせる空気を発している。
【ポルシェ917ケイマンS】
ポルシェ・ケイマンが手ごろな印象になってしまうほど、強烈な試乗会。ケイマン/ボクスターにも試乗できていなかったので、ケイマンSに試乗した。
走り出した瞬間にハンドリングマシンであることを感じる。どこまでもまじめに、操作したこと以外は何も動かない、という印象を与えてくるクルマだ。ただし、ひとたび操作をしてあげれば素直に、どこまでも従順に言うことを効くという印象だ。
アストンマーティンが約2600万円で、ケイマンSは約1/3の値段。だから「安い」と感じてしまう恐ろしい現実離れた金銭感覚に襲われながら、新しい4気筒ターボエンジンとハンドリングを楽しむ。
【テスラモデルX100D】
試乗車は約1650万円。100%EVのSUVモデルなのだが、異次元・異質な乗り物に乗ったという印象だ。0-100km/h加速を3秒台で走るSUV。まさにジェットコースターの倍の加速度を感じさせながらひゅ~んというモーターの音とともにすべてのクルマを置き去りにする。
とてつもなく大きいモニターがセンターコンソールに設置され、上方に持ち上がるように開く「ファルコンウイング」など、すべてがこれまでのクルマとは違う価値観を持って世にリリースされたモデルだ。
そのファルコンウイングにはまるで知能があるかのように、開閉に必要なスペースや障害物を検知しながら開く。ヒンジをうまく使いながら、その駐車された環境の中で最適な方法で開くのだ。
写真だけ見ると、横にクルマが止まっていたら「ドアがあけられないぢゃん」と思うかもしれないが、横にクルマがあればドアは先に上方に持ち上がり、徐々に横にひらき隣のクルマのルーフを超えたあたりでスプレッドするという動きをする。そう、賢いのだ。
そして、EVの強烈な加速は人間が知る加速度の微分カーブをとっくに超える加速をし、これまでの概念とは違った乗り物であることに感激を覚える。
【ベントレーベンテイガ】
ベントレーのSUVが「ベンテイガ」。デカい。2トン車くらいあるように感じる。しかし、一旦ドアを閉めれば、高級なインテリアに包まれ、ベントレーならではなの調度品のようなインテリアを堪能することになる。
そして音もなく滑らかに滑り出す。これまで乗ってきた超高級車はエンジンの音を楽しませてくれる高級車。こいつは優雅だ。モーターのように加速し、静かな車内を演出する。
一方で、スポーツとコンフォートの使い分けがあり、スポーツになると豹変しサウンドを奏でる。そしてSUVという車高の高さがありながら、運転している気分はベントレー・コンチネンタルGTかと錯覚するほど乗用車ライク。ちょっと車高が高いという程度にしか感じさせない不思議があった。
【超高級車の価値観】
こうした高級車に共通する印象として、五感に響く何かを持っている、という特徴があることに気づく。気分の高揚を何で創り出すか?そのポイントがメーカー色と言っていいだろう。
ウラカンは心臓がドキドキするようなワク・ドキ感があり、アストンマーティンはジェントルなダンディズムで訴えかけてくる。ポルシェは思い通りに動かせる征服感のような満足感があり、ベントレーは見下ろすようなエンペラーの如く、立ち位置を感じさせてくれる。
いずれもクルマの何が、そう感じさせるのか?というのは一言では表現できない。全体から放たれた空気によって、存在感・満足感を与えている。その放たれた空気を受信できるセンサーが働くがために、五感で感じ、満足感を得、「高級だ~」と感じ「すんげ~」と感じているのだろう。
だから、乗る側のセンサーもそれなりに働かなければ、ただ値段の高いクルマということになってしまいそうだ。中世の古いキャッスルホテルでもインターネットが使え、空調も申し分ない。バス、トイレも現代のものが使える。こうした古いものと新しいものを共存させるのも「センス」だという言うが、高級なものばかりを集めて、あるいは新しいものばかりを集めた中から放たれる空気の違いを感じる「センス」も必要なんだと思う。
つまり、高級だからかっこいい、新しいから素敵だという短絡的な判断こそ、センスのないものだ。
流行りのブランドや人と違うことに弱い日本人には、「自分に似合う」という空気を感じるセンスを強化したい。ウラカンが似合う、アストンが似合う、ポルシェが似合うという空気・センスを習得したいものだ。
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