一部改良を受けたシボレー「コルベット・コンバーチブル」に、河西啓介が試乗した。ほかのスーパーカーを圧倒する独自のオーラに迫る!
コルベット史上初のミッドシップ、右ハンドル
ウルトララグジュアリーなEV──新型メルセデス・マイバッハEQS680SUV試乗記
かつて、「クルマにはそれぞれの“お国柄”が出ている」と、言われた。
ドイツ車はマジメで機能主義、イタリア車はデザイン性が高くて走りがアツい、フランス車は派手さこそないが独創的、日本車は壊れないけどオモシロクナイ……などなど、ステレオタイプに語られることも多かったが、じっさいのところなかなか言い得ていたと思う。
しかし近年、国を超えた自動車メーカーの合従連衡が進み、設計や部品の共用化が増えると、当然のことながらメーカーごとの個性は希薄になった。それは致し方ないが、クルマ好き的には残念だったりする。
とはいえメーカーの“看板”と言えるフラッグシップモデルやスーパースポーツモデルにおいては、まだまだメーカーや“お国柄”を感じることができる。今回、シボレー・コルベットに乗って、あらためてそう思った。
アメリカン・スポーツカーの代名詞であるコルベットが、1954年登場の初代から数えて8代目となる現行のC8型にモデルチェンジしたのは2019年。最大のトピックは、初代以来貫いてきたフロントエンジン(FR)のレイアウト変更し、ミッドマウントしたこと。主たる理由は、モータースポーツにおけるパフォーマンスを追求した結果、と、メーカーは言う。
この変節を従来の“コルベットフリーク”がどう受け止めたのか? に、ついてはよくわからないが、多くのクルマ好き、スポーツカーファンは概ね好意的に受け止めたと思う。前のめりになったプロポーション、サイドに大きく口を開けたエアインレットなど、いかにもスーパーカーチックになったエクステリアデザインは、単純にカッコよく、目を引く存在感がある。カッコよくなって性能が向上しているなら、文句はないのだ。
さらに、ミッドシップ化されたことで日本(を含む左側通行諸国)のユーザーにもたらされた大きな福音がある。それはコルベット史上初めて、右ハンドル仕様が設定された点だ。フロントにエンジンがなくなったため、設計の自由度が高まり、ハンドルを右に移すことが可能になった。全幅1.9mを超えるクルマだけに右ハンドル化の恩恵は大きい。ことによればパフォーマンスアップ以上に、販売に与える影響は大きいだろう。
日本では2020年に発売されたC8コルベット、気づけばもう4年が経過している。だが個人的にはまだまだじゅうぶん新鮮だ。街中で見かけたら「おおっ!」と、思う。されど4年。このあいだにしっかり進化はしている。今回試乗する機会を得たのは、昨年秋に、予防安全装備の強化を眼目にバージョンアップされた最新型だ。これまたコルベット史上初となる「自動緊急ブレーキ」や「レーンキープアシスト」などのアクティブセーフティ機構が追加されている。見た目はスーパーカーだが、実用性はしっかり高められているのである。
スーパーカーというよりグランドツアラーさぁ、クルマに乗り込もう。
助手席との間にデーンと屹立するセンターコンソールとドアに囲まれたタイトな空間にスポッとはまり込むような感じ。でも20世紀のスーパーカー的な“潜り込む”感覚ではなく、着座位置は思ったより高めで見晴らしは悪くない。
ハンドル横に備わる8インチのタッチスクリーンパネルは、デビュー時に標準搭載されていた完全通信車載ナビ「クラウドストリーミングナビ」は廃止され、代わりにApple Car PlayおよびAndroid Autoをワイヤレス接続で表示できるようになった。これはこれで合理的進化だろう。
ハンドルの左奥に隠れている丸いスターターボタンを押す。背後のエンジンが唸りを上げて目覚める。フェラーリのようなフォン!という甲高い音ではなく、低く重厚なヴォーン!という音だ。おお、アメ車だなぁ~、と、思う。
エンジンは先代から引き継いだ6156ccのV8OHVを搭載するが、ドライサンプ化されたLT2ユニットは先代より1割ほどパワーアップした502ps/6450rpmの最高出力と637Nm/5150rpmを発する。それにしても今どきOHVというのは萌える。かつてのコルベットは、アクセルを踏み込むと一拍遅れてズウォーン!と、加速するような鷹揚さが特徴だったが、令和のコルベットはドライバーの意思に対してずっとダイレクトな反応を示す。だが依然として急き立てるようなキャラではない。まるでスモウ・レスラーのすり足のごとく、力持ちの巨漢が俊敏に動くような、包容力のある加速感なのだ。
で、結果としてすごく乗りやすい。ハンドリングはごく自然、デュアルクラッチ式8ATはスススと変速し、なによりこんなスーパーカー然としたルックスのくせに、その乗り心地のよさに感心させられた。マグネティック・セレクティブ・ライド・コントロールなる、磁性流体を用いて瞬時にダンパーを調整するサスペンション機構は、前245/35R19、後ろ305/30R20という太くて薄いタイヤを履いた足をじつにしなやかに動かす。
今回は都心での試乗であり、短い距離しか走れなかったが、それでもこのコルベットがアドレナリンをドバっと分泌させるようなスーパーカーではなく、アメリカの広大な土地を高速かつ快適に移動できるグランドツアラーであるということがわかった。
さらに今回試乗したのは、リトラクタブルハードトップを備えたコンバーチブル。スイッチ操作により16秒でトップを開閉でき、イージーにオープンドライブを楽しむことができる。つまり、ますますもってサーキットやワインディングロードを、目を吊り上げてトバすクルマではなく、V8エンジンをハミングさせつつ海岸線を流す向きなのである。
最後に無粋ながら“コスパ”的なことを付けくわえるなら、同様のボディサイズでV8エンジンを積むフェラーリ「F8スパイダー」が3657万円なのに対して、このコルベット・スパイダーの価格は半分弱の1800万円である(クーペの2LTは1420万円)。いやぁアメリカ車って、じつに魅力的ですね。
文・河西啓介 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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みんなのコメント
他のスーパーカーがいかにぼったくり価格かわかる
コルベットはスーパーカー!ではなくマッスルカーです。
変にスーパーカーに張り合う必要がないのになぁ
エンジンは伝統のV8のOHVこれは最高
V6のDOHCターボなんかにしたらアメリカ人はブチ切れです。
フェラーリやランボのオーナーはコルベットなんて相手にしてないし、コルベットオーナーもフェラーリやランボを相手にしてないです。
コルベットのエンジン音は最高です!