ここ数年メーカーを横断して販売するOEM車、いわゆる他メーカーが開発した車に自社のバッジをつけて販売するケースが増えている。特に国内専用の軽自動車はその傾向が強く、国内での需要が多い5ナンバー車も拡大を見せている。
そこで気になるのが、販売店でのOEMの売り方だ。普通に考えれば自社ブランドを率先して販売したいところだが、例えば大ヒット中のルーミーなどのように年間の販売台数が極めて多いOEM車もあるから大変だ。
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今回はOEM販売の現場について解説しよう。
文/小林敦志、写真/ベストカー編集部、NISSAN、TOYOTA、DAIHATSU
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■一番の存在理由はやはりコストカット
ダイハツからOEM供給されているトヨタ ルーミー。いまや大人気車種となっている
現在乗用車を生産する日系完成車メーカーは8社ある。ただ、それぞれのメーカーにおいて、オリジナル車種、つまり自社開発して生産している車種ばかりがラインナップされているわけではない。
OEM(ORIGINAL EQUIPMENT MANUFACTURE)という、他メーカーで開発及び生産されている車種を自社ブランド車として供給してもらい販売している車種も存在する。
OEM車といっても、その存在理由はいくつかある。同じグループ内でOEMを積極的に展開することで生産コストを下げるなど効率化をはかるということもある。供給を受けるメーカーとしては、開発コスト及び生産にかかるコスト削減に貢献するし、供給する側も工場稼働率のアップを維持ができるというメリットがあるのだ。
いまや登録車で大人気となっているのが、トヨタ ルーミー。デビュー時はタンクという兄弟車もいたが、いまではルーミーのみとなっている。ルーミーはダイハツからOEM供給されている。オリジナル車はダイハツ トールで、さらにスバル向けには“ジャスティ”という車名で供給している。
ルーミーのデビュー直後は値引きがほぼなかったと聞いているが、いまや30万円引きも珍しくないとの話もある。OEM車は元来値引き販売が厳しいとされている。
自社で開発及び生産するわけではないので莫大なコストは不要となるが、ルーミーでいえばトヨタブランドの完成車としてダイハツへ生産を依頼したものが供給される。つまり仕入れることになるので、そもそも値引き余力が少ないとされている。
しかし、先ほど挙げたルーミー、トール、ジャスティのなかでは圧倒的にルーミーの生産及び販売台数が多くなっているので、いまでは量産効果で値引き余力が多くなっているようである。
また、かつて日産からのOEMとして、大型セダンとなる2代目三菱ディグニティやプラウディアがラインナップされていた。プラウディアやディグニティは、かつて三菱でラインナップされていた“デボネア”の後継モデルとなる。
おもに三菱グループ各社の役員車両として納めるためにラインナップされていたともされるが、需要はあるが自社開発するほどのボリュームが期待できないといったケースでもOEM車をラインナップすることがある。
■OEMでも軽自動車をラインナップしたい理由
トヨタ ピクシスメガ。セカンドカーとして軽自動車を求めるユーザーのために、自社で製造していない軽自動車をラインナップできるOEMはメーカーにとってはありがたい
トヨタの軽自動車となるピクシスシリーズは、ダイハツからOEM供給を受けている。しかし、日産やホンダのように積極的な販売は行なっていない。ディーラーではピクシスを販売しても、セールスマン個々の販売実績として認めないところも多いと聞く。
販売現場で聞くと、「すでにトヨタ車を納めているお客様のなかには、『セカンドカーとして軽自動車が欲しい』とおっしゃる方もおります。
ピクシスのなかったころでも、トヨタグループであるダイハツブランドの軽自動車を販売することが(ダイハツ車の委託販売先となっており、トヨタディーラーでのダイハツ軽自動車販売の貢献度は大きいとも聞く)できましたが、スズキやホンダ、日産の軽自動車を買われるお客様も多かったです。
そこで『トヨタにも軽自動車ありますよ』と、他メーカーに流れさせないためにピクシスが設けられたと聞いております」と話してくれた。かつて聞いた話では、トラックメーカーでもライトバンやセダンをOEMで積極的にラインナップしていた時代があった(いまはかなり限定的)。
その理由は前述したピクシスと状況は似ているのだが、当時聞いた話では、ある企業が製品配送用にまとめて4トントラックを購入する時にディーラーが、「ライトバンとセダンをおまけ(無料サービス)するのでどうですか?」と売り込んできたとのこと。
高額なトラックを複数購入するのだから、ライトバンやセダンの“無料サービス”があってもおかしくないと、当時話を聞いて思った。
■ディーラーは複雑!? 順調に売れるOEM車
トヨタ ライズ。前述のルーミー同様順調な売れ行きを見せているOEM車だ
乗用車でOEMの活躍が目立つのは、トヨタとなるだろう。前述したルーミーをはじめ、ライズ(ベース車ダイハツ ロッキー)とパッソ(ベース車 ダイハツ ブーン)がOEMとしてラインナップされている。
パッソは2代目までトヨタとの共同開発モデルとなっていたが、現行3代目からダイハツが開発及び生産を行い、トヨタへパッソとしてOEM供給している。「ダイハツに開発まで任せた結果、共同開発のころより大胆なコストカットができた」という関係者の話を聞いたことがある。
パッソはルーミーやライズに食われる形で、いまはやや販売台数は“おとなしい”のだが、ルーミーやライズがよく売れることには、トヨタ系ディーラーセールスマンのなかには、複雑な気持ちを持つ人も多いようだ。
「カタログなどで商品説明をしていると、“トヨタセーフティセンス”ではなく、“スマートアシスト”となっていることで、こちらからご説明する前に“ダイハツ製”と気がつかれるお客様が目立ちます。
我々としては、トラブル回避のためにも商談の中でタイミングを見計らい、『このモデルはダイハツ製となります』と説明しておきたいのですが、なかなかタイミングが見いだせないこともあります」と話すセールスマンがいる。
一方で、「私が聞いたところでは、パッソが納車されたあとクルマに詳しい知人にどこのトヨタの工場で生産しているのか聞いたひとがいたのですが、『ダイハツ製ですよ』と返答されて初めてOEMということを理解したという話も聞いております」とは業界事情通。
トヨタセーフティセンスが登場して間もないころ、「こっちのほうがシステムとして進んでいる」として、ピクシス エポック(ミラ イースベース)へ、トヨタ製車両から乗り換えるひとが目立った時もあったとのこと。
またスバル系ディーラーでは、自社はアイサイトとなるが、ダイハツからのOEMはスマートアシストとなるので、OEMはアイサイトではないと、誤解のないように注意しているといった話も聞いている。
自販連(日本自動車販売協会連合会)統計による、単月締め通称名(車名)別販売ランキングでは、ヤリスがトップでルーミーが2位になることも珍しくないが、OEMがよく売れることについては、「やはりトヨタ製モデルがよく売れたほうがうれしい」とする、トヨタ系ディーラーセールスマンは多いようだ。
■すでに商用車では当たり前となったOEM
マツダ ファミリアバン。商用車にはOEM車が多い
すでに商用車の世界では、OEMが半ば当たり前となっている。ライトバンは登録車系ではトヨタ プロボックスか日産ADバン、キャブオーバーバンではタウンエースかNV200バネット、ハイエースかキャラバンが、それぞれOEMとした他ブランドへ供給されていたりする。
軽自動車では、キャブオーバーバンはダイハツ ハイゼットもしくはスズキ エブリイ、トラックはダイハツ ハイゼットもしくはスズキ キャリイ、つまりメーカーとしては、トヨタ、日産、ダイハツ、スズキしかなく、その他のメーカーは必要に応じてOEMとして調達してラインナップしているのが現状となっている。
スズキ エブリイを例にすれば、マツダ スクラムバン、日産NV100クリッパー、三菱ミニキャブバンとして、スズキからマツダ、日産、三菱へOEM供給されている。
マツダは軽乗用車でも、スズキからOEM供給を受けており、スペーシアベースのフレアワゴン、ワゴンRベースのフレア、アルトベースのキャロル、ハスラーベースのフレアクロスオーバー、エブリイワゴンベースのスクラムワゴンがラインナップされている。
年度末や半期決算などの増販期では、“棚卸し”的意味合いもあるのか、本家スズキよりも値引きでは好条件が出やすくなっていたりして、マツダの軽自動車は隠れたねらい目車とも言われている。
スバルはかつて自社開発の軽自動車をラインナップしていた流れで、いまもダイハツ軽自動車のOEMをラインナップしているし、登録車ではルーミーの兄弟車ジャスティもラインナップしている。
しかし、積極的に軽自動車(赤帽トラック需要のあるサンバートラックなど一部を除く)やジャスティを販売するわけではないので、マツダの軽自動車同様に期間限定でお得に買えることがあるとも聞いている。
■月々のリース料金が安くなった!? OEMだからこそ起きた珍現象
マツダ ボンゴブローニイ。自社オリジナルからトヨタ ハイエースのOEMとなり、リース料金が安くなるなどの珍現象が見られた
OEMとしては最近“珍現象”ともいえる話を聞いた。マツダはかつて、ハイエースやキャラバンに相当する、ボンゴブローニイを自社開発し生産していた。そのボンゴ ブローニイがトヨタ ハイエースバンのOEMとして、2019年に復活した。
復活したタイミングでリースにてボンゴブローニイ(マツダオリジナル)を使っていたお客さんが、ハイエースのOEMへ乗り換えをしたとのこと。すると、「月々払うリース料金が安くなった」と言ってきたそうだ。
“バッジエンジニアリング(車名バッジ以外は双子状態)”といっていいOEM供給ということもあり、リース料金の算定基準がリセールバリューの高いハイエースベース並みになったことで、リースアップ時(車両返却時)の残価として据え置く額が一気にアップしたことが影響しているようだ。
「マツダバッジなどをはずせば、見た目はハイエースなので、海外輸出ではハイエース扱いにもなりますからね」とは事情通。
かつては、各メーカーでオリジナル車をラインナップしていた商用車は、いまやOEMありきとなっている。そして、この流れは乗用車へコンパクトカーからじわじわと浸透していくものとされていたが、ここ最近の車両電動化への急速な動きでさらに加速するのではないかとされている。
市場縮小傾向が今後も進む日本市場。しかも、軽自動車やミニバンなど、世界市場とは異なる売れ筋モデルの存在や、5ナンバーサイズなど、世界に比べて、その特殊な日本市場は“ガラパゴス市場”ともいわれている。
トヨタほどの国内販売力があるメーカーでも、ダイハツからのOEMがラインナップのなかで目立つ状況下では、日産以下のブランドでは、日本市場限定もしくは日本市場を重視したモデルの自社開発や生産によるラインナップはかなり厳しい。
かといって極端なラインナップの削減はできない。そこで国内向けモデルはOEMでラインナップしようとする動きが、今後はさらに顕在化していくのではないかとされている。つまりメーカー間での“相互補完”関係が顕著になっていきそうなのである。
■EV化時代でOEM車がますます増える!?
日産と三菱が設立した軽自動車事業の合弁会社であるNMKVが2019年の東京モーターショーに出品したIMk。軽自動車サイズのBEVで、2022年初頭発売予定となっている
ダイハツは早くて来年にも、軽自動車にフル規格のHEV(ハイブリッド車)を市場投入すべく開発を進めているとの情報がある。
もちろん、その先を見越してBEV(バッテリー電気自動車)の開発も進めているとのことだが、いまは販売競争で切磋琢磨しているスズキとメカニカルコンポーネントだけでなく、見た目も含めた、つまり双子車関係になるのではないかとの情報がある。
スズキとの共同開発となるようなので、OEMとはニュアンスは少々異なるが、生産はどちらかが請け負うことになるだろう。
いまなかなか普及の進まないBEVのネックは車両価格が高いことがある。補助金制度はあるものの、同クラス内燃機関車とまったく同じになるわけではない。そうなると量産効果を高め、生産コストを下げるしかないのだ。
仮にスズキとダイハツが共同で軽自動車のBEVを開発すれば、ホンダ以外で軽自動車をラインナップしているブランドのほとんどの車種は、車名だけ異なる共通モデルになる可能性が高い。
NMKV(日産と三菱が設立した軽自動車事業の合弁会社)では、すでに2019年の東京モーターショーで軽自動車サイズのBEVコンセプトモデルのIMkを出品しており、こちらは2022年初頭に発売予定となっている。
販売現場のセールスマンは、「車両価格は200万円(補助金分差し引いて)ほどになるとも聞いております。ただ、あまり期待はしておりません。充電インフラの整備が進んでいないこともありますし、経済性をより重視する軽自動車のお客様が多いので、電気自動車をどう判断されるか不安は大きいですね」とのことであった。
つまり、現状での日産ではデイズやルークス、三菱でのeKワゴンやeKスペースのようなNMKVが開発し生産する軽自動車とホンダの軽自動車以外は、コストを大幅に下げるためには、極端なことをいえばすべて車名以外は見た目がほぼ同じになることも十分考えられるのである(乗用車系でドア形状や全高の違いでいくつか種類をラインナップし、あとは商用車を用意する)。
現状では排気量やサイズなど、規格がほぼ統一されている軽自動車は、見た目の違いなどでお互い勝負しているが、車両電動化を前にしてはその余裕すらないようである。
■『百年に一度の大変革』EV化がOEMにもたらす変化
トヨタ パッソ。初代と2代目はダイハツと共同開発され、写真の3代目(現行型)でOEMとなった
かつて1970年代に日本国内では厳しい排気ガス規制が繰り返し行われた。
とくに厳しいとされた、“昭和53年規制”では、この規制に適合させるためのエンジンなどへの対策にコストがかかり、モデルチェンジを延期したり、マイナーチェンジレベルのフルモデルチェンジしか出来ないモデルが続出し、“暗黒の時代”ともいわれている。
車両電動化は自動車についての“百年に一度”ともいわれる大変革となるので、かかるコストを吸収するには、モデルチェンジの延期などでは対応が間に合わず、OEMの拡大というものが積極化するのではないかと考えられる。
前述したダイハツとスズキの電動軽自動車の共同開発も、パッソの例を見れば、その後ダイハツもしくはスズキが開発や生産を請け負い、他のブランドへOEM供給されていくことも、効率性を考えればまったくない話ではない。
登録車も含め、いますぐではないが、中長期的に見れば、車両電動化がOEM車増加を加速させていくというのは、決して絵空事でもないようである。そして買い方も、いまよりも加速的に残価設定ローンの利用が増えていくだろう。
現状でのBEVやFCEV(燃料電池車)の中古車相場は下落(暴落ともいわれている)傾向が目立っている。「中古パソコンを買うようなもの」と誰かが言ったが、補助金がつくわけでもなく、内燃機関車より性能のブラッシュアップがスピーディなBEVやFCEVを、中古車で進んで購入しようというひとが限定的なのである。
そこで販売現場で話を聞くと、「BEVをご購入される時には残価設定ローンのご利用をお勧めしております。手放す時の残価が保証され、月々の支払いも軽減されます」とのこと。個人向けリースもだいぶ普及してきたので、残価設定ローンとリースで手放す時のことまで含めて損得勘定してみるのもいいだろう。
ルーミーのように、本家トールの存在感を打ち消すほどの勢いで売れてしまうと、リセールバリューはOEM車となるルーミーのほうが期待できるだろう。
逆に、前述したマツダのスズキからのOEM軽自動車やスバルのダイハツからのOEM車では、値引き条件が良くて購入時には得するかもしれないが、その分売却する時は「こんなクルマあったんだ」ということになる。
そのためリセールバリューは期待できないのだが、ボンゴブローニイのように、日本車最強クラスのリセールバリューを誇り、世界で人気の高いハイエースのOEMとなると、オリジナルモデルのころより価値があがってしまう。そう考えるとOEMは一律に買い得かどうかを語ることはできないようだ。
今回紹介したいくつかのOEMに至るパターンに照らし合わせると、買い得な買い物なのかを個別に判断することができるだろう。現状ではOEM車のリセールバリューは全般的にはあまり期待できない。ただ、OEMが増えれば、ボンゴブローニイのような“珍現象”も珍しくなくなるかもしれない。
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みんなのコメント
するのは、OEM車をよく理解してない購入者。
かなりな無知ユーザーがいるから、その点では
販売店のスタッフは苦労するでしょう。