警察庁が高速道路上のトラックの最高速度を現行の80km/hから20km/hほど引き上げる方向で検討している。物流業者がより効率的に荷物を配送できるように、というのが表向きの理由だが、果たしてこれで「あおり運転」は減るのだろうか?
文/国沢光宏、写真/AdobeStock(トビラ写真:satoshi.o@AdobeStock)
トラックの高速道制限速度が2024年春に引き上げへ……果たして「あおり運転」は減るのか!? そして物流問題も解決する?
■トラック業界は最高速度の引き上げを必ずしも歓迎してはいない?
大型トラックの高速道での制限速度が従来の80km/hから100km/hに引き上げられる見込みだが……(@AdobeStock)
政府が突然、「大型トラックの制限速度を80km/hから100km/hにしようと思う!」と言い始め、警察も渋々納得。すでに名ばかりの有識者会議も行われ、早ければ2024年4月から施行される動きになっている。
制限速度の向上、トラック業界は大賛成しているかとなれば、そうでもないようだ。というのも速度アップを希望したのは議員に強いパイプを持つ一部の大手宅急便会社だという。
そもそも80km/h制限を始めた理由は事故防止策である。データを探してみると、速度リミッター導入前の5年間の大型トラック関連の死亡事故は326件。1998年に速度リミッターを導入してからの5年間を見ると282件に減った。
その後、速度リミッターが完全に普及した2018~2022年は94件まで減っている。速度リミッター、事故防止効果抜群ということ。
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■高速道のマナーは今後よくなるのか?
トラックの制限速度が20km/h引き上げられることで追い越し車線に出てくるトラックが続発する?(xiaosan@AdobeStock)
ちなみに現在の速度リミッター作動速度は90km/h。メーター誤差もあるため、乗用車から見ると96~98km/hで走ってます。こいつを20km/h上げて110km/h作動にすればメーター読み116~118km/hで走ることになる。
当然ながら追い越し車線にもガンガン出てくるに違いない。メーター読みの116~118km/hは追い越し車線における乗用車の平均的な速度。
あおり運転が続発することなど簡単に想像できる。というのも20km/hの速度アップは大型トラックを目的地まで早く到達させるための規制緩和だ。大型トラックとしちゃリミッター作動速度ギリギリで走りたいところ。
チンタラ走る乗用車が前を塞げばあおりたくなることだろう……と、ここまで読んで「もしかしたら高速道路の走行マナーがよくなるかも」と思った人もいる?
■追い越し車線をチンタラ走るのはマナー違反なのだが……
筆者は「追い越し車線をチンタラ走っていてもプレッシャーをかけられなくなった」と昨今のあおり行為厳罰化についても言及(satoshi.o@AdobeStock)
今や「あおり行為」をすると厳罰の対象になる。そんなことから車間を詰めたりするあおり行為はずいぶん減った。「追い越し車線をチンタラ走っていてもプレッシャーをかけられなくなった」と言い換えてもよかろう。
これ、世界基準から明らかにおかしい。追い越し車線をチンタラ走ったら完全なるマナー違反。世界標準で後続車から「どけ!」という強いプレッシャーをかけられます。
荷物を急いで運びたい大型トラックの前を、オレが正義だと思っている「100km/hの制限速度で走ってナニが悪い!」(メーター読みなので実車速は96km/h程度)と思って走るドライバーがいたら、実質的な速度差20km/h!
どうなるか? 事故が増えるのはイヤだけれど、自分勝手なドライバーを蹴散らすシーンなんか見られると思ったら「それもいいか」だったりして。
■制限速度アップはトラックドライバーの「2024年問題」が発端
筆者は「燃料代がアップしてしまうのだったらドライバーの給与を4500円上げたほうがずっとマシ」と指摘する(metamorworks@AdobeStock)
閑話休題。運送業界の意見を見ると、どうやら一枚板ではない。けっこう多いのが「制限速度100km/hになってもウチは80km/h。そのほうが事故の心配ないし、燃費だっていい。総合的に考えたら有利」というもの。
現在の90km/hリミッターの燃費と110km/hリミッターの実燃費は、今や大半のトラックは前者ベストのギア比になっていることもあり、20%以上違うと言う。
東京~大阪をイメージした500kmを走行した場合、20%違えば4500円燃料代が上がる。そもそもカーボンニュートラルを目指す我が国の方針からすれば逆行しているし、だったらドライバーの給与を4500円上げたほうがずっとマシ。
そもそも制限速度の向上は残業時間制限によって大型トラックドライバーの仕事を軽減させようという2024年問題から起因している。
■トラックドライバーの自由度を結果的に奪ってしまう制限速度アップ
連続運転時間の厳密な導入でSAやPAでトラックドライバーは仮眠を取ることもままならなくなる(淳子 中屋@AdobeStock)
結果的に二酸化炭素を20%も多く排出し、危険度を大幅に増やし、それでいて大型トラックドライバーは自分のペースで休憩を取ることだってできなくなる。連続運転時間が厳密に導入された場合、眠くなったって仮眠できない。
次のスティントで運転時間制限を受けるため、1回多く休憩しなければならないからだ。はたまた連続時間に近くなってSAやPAに入ろうとしても混雑していたらダメ。
結果的にドライバーの自由度を大幅に奪うことになってしまう。何のための規制強化なのかサッパリわからないです。
明らかに社会的損失が多いと思われる制限速度の緩和策ながら、忖度ばかりする有識者の皆さんは政府の意向を汲んで「そいつぁいいね!」という判断を下すことだろう。あおり運転で追い越し車線をチンタラ走るクルマを一掃してくれればいいか、と納得するしかない?
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