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【ヒットの法則100】メルセデス・ベンツSクラス(W221型)はその後10年のクルマの進化の方向性を示していた

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【ヒットの法則100】メルセデス・ベンツSクラス(W221型)はその後10年のクルマの進化の方向性を示していた

2005年のフランクフルト・モーターショーで大きな注目を集めたのがメルセデス・ベンツSクラス(W221型)。セグメントだけではなく、自動車業界全体に大きな影響を与える世界のリーダーはどういう方向に歩み出したのか。イタリアで行われた国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年11月号より)

メルセデスグリルを除いてすべて新しくなった衣装
自動車先進国ドイツを象徴するクルマ、メルセデス・ベンツSクラスが7年振りにフルモデルチェンジした。

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1998年に登場した先代のSクラス(W220)はこの7年間に50万台を販売したサクセスモデルであり、それだけに新しいSクラスが一体どんなアプローチで登場するのかは自動車関係者はもちろん、現行Sクラスのオーナーにとっても大いに興味のあるところだった。

と言うのは、今から7年前のW220投入時にSクラスのセグメント市場占拠率は50%であったが、今では38%に落ち込んでいるのだ。もちろんそれでもナンバーワンの座には変わりはないが、それだけライバル(とくにレクサス)が現れた影響は免れないのは確かである。

それゆえに、メルセデス・ベンツの取る方向性が気になっていた。そして、今回フランクフルト・モーターショーで初公開されたニューSクラスは予想通り、この現状打破のために、まずスタイル上ではメルセデスグリルを除いてまったく新しくなった衣装をまとって登場した。

空力特性Cd値0.26というクラスでトップに位置するエアロダイナミックなボディを持つ新しいSクラスのデザインコンセプトは、チーフデザイナーのペーター・ファイファー氏によれば「内包する力強さと、個性の明確なビジュアル化」である。その代表的な要素が「マッチョなオーバーフェンダーであり、マイバッハを思わせる段付きトランクリッドを持ったリアの処理」だ。

しかし、私はリアのコンビネーションライトを横切るボディと同色の2本のラインに関しては疑問を感じる。せっかくのプレスティッジ性に俗っぽさを与えてしまっているからだ。反対にフロントのヘッドライトユニットのグラフィックは旧モデルの複雑な目玉焼き形状を廃し明解なラインで区切られていてとてもいい。

さらに一時控えめだったサイズ拡大も「復活」した。今度のW221は先代W220と比べ、全長で33mm伸びて5076mm(ロングが+43mmで5206mm)、幅は16mm広がって1871mm、高さは29mm増えて1473mm、さらにホイールベースは70mm延長されて3035mm(ロングは+80mmで3165mm)となった。

こうした大胆な変化はSクラスのオーナーが70%という非常に高いロイヤリティを保っていることと無縁ではない。Sクラスのオーナーは理解し、付いてきてくれるという自信の表れなのである。

この思想は環境の変わったインテリアにも及んでいる。まるでBMW7シリーズを思わせるようなダッシュボード上の2つのモニター、そしてコマンドコントローラーもiDriveを髣髴とさせる。

ドライバーズシートに座るとスペック以上にゆったりとしたスペース感覚に改めて感動する。しかしその空間は操作性、視認性そして人間工学的に優れたメーター、スイッチ類によって囲まれているため、大広間の中央に座らせられたような無駄な感じはしない。新しい操作系、コマンドシステムは最初30分ほどのコクピットドリルが必要だと言われたが、私は勇敢にも予習なしに本番に立ち向かう。

エンジンバリエーションはガソリン3種、ディーゼル1種の計4タイプ。ガソリンではS350がすでにEクラスに採用されている新世代3.5LのV6、S500は今回のSクラスでデビューした新型5.5LのV8、そしてS600は先代W210からキャリーオーバーする5.5LのV12ツインターボをそれぞれ搭載。ディーゼルではS320に3LのV6ターボを搭載する。

Sクラスの面目躍如たるところは、すべてパワーもトルクもW210から確実にスペックアップしてきている点にある。そのパフォーマンスは全モデルが最高速で250km/hを謳っていることで納得する。これがアウトバーンでの高い存在感の証である。

心地よいサウンドを奏でる新開発5.5L V8
テスト車はS500。メルセデス・ベンツのモデル名(数値)はもはやエンジンサイズに関係なく、搭載されるのは新開発の5.5L 32バルブV8で最高出力388ps/6000rpm、最大トルク530Nm/2800~4800rpmを発生する。

組み合わされるトランスミッションは標準で7速の7Gトロニック、スムーズさでは類まれなオートマチックである。ちなみにこのSクラスでは古典的なセレクトレバーを廃し、Mクラスのようにステアリングコラムのレバーによってギア操作をするダイレクトセレクトに代わったのがニュースだ。

さて、いよいよスタート。その前にシートアジャストを試みた。非常に多くの調整やマッサージ機能を持つにもかかわらず、コマンドコントローラーを介し、わかりやすいグラフィック表示を見ながらすぐさま好みのポジションを発見する。BMWのiDriveとの比較だが、後発だけにその操作性は整理されていて使いやすいが、同じようにある程度の慣れが必要なシステムである。

キーレスゴーシステムによってスターターボタンを押すだけでエンジンは静かに目を覚ます。この日のテストコースは、ミラノ空港からアウトストラーダと一般道、さらにアルプスの峠道を含むおよそ280kmのロングディスタンスである。アウトストラーダでまず感じたのはNVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)の2段階アップだった。明らかにレクサスを目標にしての成果だろう。

Sクラスの開発担当ディレクターのフランク・クノーテ氏はメルセデス・ベンツ開発陣のなかでも最古参で「礎」とあだ名される人物だが、彼は確かにレクサスを研究したことを認め、さらに「学校の先生が騒がしい生徒のお喋りを一斉に全部止めさせるのではなく、必要な意見には耳を傾けることにした。もっとわかりやすく言えば私はオーケストラの指揮者で、不快な雑音は消したが心地よい響きは残した。これが新しいSクラスの思想だ」と説明してくれた。

確かに新しいV8はスポーティな走りでは気持ちの良いインテークの、そして後方からはエキゾーストのサウンドが適度に耳に届いていた。

進化し続けるプリセーフとシャープなハンドリング
ところでSクラスには説明を始めると別冊が必要になるくらい「てんこ盛り」のハイテクが満載されている。そこで特に頻繁に日常、使用されると思われるシステムをいくつか選択してテストしてみた。

まず、日本でもアッパークラスを中心にポピュラーになってきた自動車間調整機能付き追従システム。メルセデス・ベンツではディストロニックプラスと名付けられている。ミリ波レーダーで前方のクルマを感知する内容は日本メーカーのそれと非常に近いが、ヨーロッパのドライブロジックに合わせて信号のゴーストップ、つまり停止時から200km/hまでをカバーするのが特徴である。

さらに旧Sクラスにおいて鳴り物入りで登場したセンソトロニック・ブレーキコントロール(SBC)に代わってブレーキアシストプラスが採用されている。これも前述のミリ波レーダーの感知機能によるもので、追従車のスピードに対して前車との間隔が狭すぎ、追突の危険性が演算されるとブレーキが介入し追突事故を未然に防ぐ。これらはメルセデス・ベンツ独自の安全システム、プリセーフ思想に基づく機能である。

アウトストラーダでの走行で明らかになったのは、これまで以上にシャープになったステアリングである。旧モデルでは中立付近に意図的な遊びがあって、高速走行時でのある程度の快適性に貢献してきたが、今度のSクラスではこの特性を改め、スポーティでシャープな方向に振っている。そのために直進時から切り込むときのフィールがポジティブな意味でエレクトリックステアリング、あるいはアクティブステアリングのように感じられる。もちろん、慣れればまったく問題のない操作フィールだが。

この辺りの味付けの変更は、昨年2004年のCクラスのマイナーチェンジや新型SLKに見られたメルセデス・ベンツの動きの延長線上にあるといっていい。

今度のSクラスはビッグなリムジンにもかかわらず、スポーティな走りを楽しむことができる。それを支援するさまざまなデバイスが、その存在感を感じさせないところもメルセデス・ベンツの流儀。ドライバーズカーであることを改めて感じさせてくれた。

また、ナイトビジョンも売りのひとつである。アウトバーンを含むドイツの一般路には基本的には日本のような照明はなく、常にヘッドライトに頼っている。それ故に日本以上に活躍するだろう。ちなみにこのナイトビジョンの映像はコクピット中央、通常ではスピードメーターが映し出されているモニターに登場する。これでおわかりかと思うが、今度のSクラスのスピードメーターは針も含めてコンピューターの画面のような映像なのだ。

新しいSクラスはこのスピードメーターに象徴されるようなハイテク・スーパーリムジンである。つまりデジタル技術を駆使しながらもパッセンジャーに対してはアナログなメッセージを大事に送り届けるのである。人間が操作する移動システム、自動車というものを正しく理解したクルマ作りがそこにある。

日本でのSクラスの発表は2005年10月4日、デリバリー開始は10月下旬から11月上旬という。今回のメルセデスベンツの対応は驚くほど素早い。(文:木村好宏/Motor Magazine 2005年11月号より)



メルセデス・ベンツS600(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:5206×1871×1473mm
●ホイールベース:3165mm
●車両重量:2180kg
●エンジン:V12SOHCツインターボ
●排気量:5514cc
●最高出力:517ps
●最大トルク:830Nm/1900-3500rpm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
※欧州仕様

メルセデス・ベンツS500(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:5076×1871×1473mm
●ホイールベース:3035mm
●車両重量:1940kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:5461cc
●最高出力:388ps
●最大トルク:530Nm/2800-4800rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
※欧州仕様

メルセデス・ベンツS350(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:5076×1871×1473mm
●ホイールベース:3035mm
●車両重量:1880kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3498cc
●最高出力:272ps
●最大トルク:350Nm/2400-5000rpm
●トランスミッション:7速AT
●駆動方式:FR
※欧州仕様

[ アルバム : メルセデス・ベンツSクラス(W221型)(2005年) はオリジナルサイトでご覧ください ]

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みんなのコメント

1件
  • この221型が出た時は220型からの変貌ぶりに本当に驚いた。

    分厚くふくよかな乗り味、シュアなハンドリング、遮音性、各部電動化とコマンドシステムの進化などなど、先代と比較すると全く別世界、別次元に仕上がっていた。
    ベースの350でもストレスなく毎日使える十分な性能とパーソナルなデザイン、そして程良いスポーティネスが与えられオーナーカーとしての資質を高め、500では更に洗練された乗り味と素材がロングボディと相まってショーファー性能も格段に向上。600に至ってはクラスを超えてベントレーやロールスに近いものを感じたほど。これはクーペモデルのCLでは更に顕著で、当時量産車でCL600の雲の上を走る様な上質で贅沢、且つ安心感の高いドライブエクスペリエンスを提供するモデルは、少なくとも量産車には他に無かったはず。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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