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【「理想形」のはずが…】PHEVが日本で八方ふさがりの苦しい事情

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【「理想形」のはずが…】PHEVが日本で八方ふさがりの苦しい事情

 エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドカーは、モーターのみで走行できたとしてもそのEV走行距離は極めて短い。

 それに対しプラグインハイブリッド(以下PHEV)はバッテリーの容量が普通のハイブリッドよりも大きいため、EV走行距離はかなり長く、条件次第ではEVとしてだけ使うことも可能。しかもガソリン車と同等の走行性能を持ち、充電することもできるということである意味最強のパワーユニットを言えそうだ。

【累計販売台数で検証】車名を変更したクルマの成功と失敗

 しかしハイブリッド王国日本をしても販売面は芳しくなく、主流になり得ていない。その理由について鈴木直也氏が考察する。

文:鈴木直也/写真:TOYOTA、HONDA、MITSUBISHI、メルセデスベンツ、BMW、アウディ、ボルボ

ハイブリッド車の電池大盛りがPHEV

【国産プラグインハイブリッドの販売台数】
■トヨタプリウスPHV
2019年7月:1120台 2019年累計:5310台

■三菱アウトランダーPHEV
2019年7月:423台 2019年累計:3045台

■ホンダクラリティPHEV
2019年7月:4台 2019年累計:50台

【画像ギャラリー】日本車PHEV3台の精鋭

 ハイブリッド車のバッテリーは、減速エネルギーを回生発電で回収して、内燃機関の不得意な発進加速などに使うのが主目的。だから、そのバッテリー容量は、おおむね1~1.5kWh程度と、必要最小限度に抑えられている。

三菱アウトランダーPHEVはプラグインハイブリッド+S-AWCという最強の組み合わせ。さらに給電能力も高く販売面でも健闘し、三菱のイメージリーダー的存在

 具体的には、プリウスやアコードHVが1.3kWh、アクアやフィットHVがだいたい0.9kWh、ノートe‐POWERは1.5kWh。

 この程度のバッテリー容量だとEV走行できるのは最大2km程度だから、ハイブリッド車のEV走行モードは、ほとんど“オマケ”といっていい。

 いっぽう、プラグインハイブリッドは「ハイブリッド車の電池を大盛りにしたもの」といえる。

 プリウスPHVは8.8kWh、アウトランダーPHEVは13.5kWh、クラリティPHEVでは17kWh。EV航続距離はそれぞれ68.2km、65km、114.6kmと大幅に拡大され、日常のお買い物や通勤程度なら、ほぼEVモードだけで走り切れるバッテリー容量が確保されている。

 こうしてみると「プラグインハイブリッドは理想的では?」と思うのだが、現実には販売されている国産PHEVは前記3車のみ。しかも、広く一般化したハイブリッド車に比べると、販売台数的にもヒットしているとは言い難い。

クラリティPHEVのバッテリーユニット。通常のハイブリッドよりバッテリーの容量が大きいため室内スペースなどに犠牲が出ることもある。もともとのスペースが狭く制約がある小さいクルマではPHEVを設定するのは厳しい

プラグインの名前のとおり、外部から充電することができるのが通常のハイブリッド車との最大の相違点。EVとハイブリッド車の取りだ

流行らない最大の理由は価格差

 この原因は、まず価格の問題が大きい。

 プリウスPHVで約320~430万円、アウトランダーPHEVは約400~500万円。クラリティPHEVだと588万600円。上限20万円の補助金はあるが、普通のハイブリッドに比べるとPHEVがかなり割高であるのは否めない。

現行モデルで2代目となるプリウスPHV。モーターのみで走行できる距離も伸びている。317万8440~426万6000円でプリウスの同グレード比較で50万程度高い

 この価格、けっして自動車メーカーがボッているわけではなく、要するにバッテリーのコストが上乗せされた結果だ。

 たとえば、リーフには電池を62kWh搭載したe+と40kWhの標準車があるが、その価格差がだいたい50万円。日産は戦略的にe+の価格を抑えているはずだから、プラグインハイブリッドは原価レベルで50万円近いコスト増が不可避と考えられる。

 このコストアップ、一般的なユーザーにはかなりキツイ。ふだん使いではほとんどガソリン代を使わず走れるというメリットはあるものの、それだけではこの価格差を納得させるには不十分。

 北米では渋滞時に一人乗車でも優先レーンを使えるといった優遇措置があるが、日本でもこういったインセンティブが欲しいところだ。

クラリティFCVをベースにプラグインハイブリッド化したのがクラリティPHEV。アコードPHEVに代わるモデルで車両価格は588万600円とかなり高価

欧州車がPHEVに積極的な理由

 そんな、いまひとつブレイクできないプラグインハイブリッド車ながら、欧州車勢が妙に熱心なのを不思議に思う人もいるのではないかと思う。

 ベンツは日本市場ではS、E、GLC、GLCクーペにPHEV仕様を設定。間もなくCクラスにも追加される予定。

PHEVに積極的なメルセデスはフラッグシップサルーンのSクラスにも設定していて、S560eロングを日本でも販売中。価格は1697万円

 アウディは現在日本では販売していないが、欧州ではQ5、A6、A7、A8に新開発のPHEV仕様がある。また、BMWは日本市場でもPHEV展開に熱心で、7,5,3,X5、そしてFFの2シリーズやミニにすらPHEVモデルが用意されている。

 ところが、実はこれ、環境規制当局による“インセンティブ”なのだ。

BMW X5 xドライブ40eは現在日本では販売されていないが、遠くないうちに日本に導入される新型X5にもプラグインハイブリッドは設定されるという

 ご存じのとおり、EUでは2021年から走行1kmあたりのCO2排出量を95g以下に規制する厳しい環境基準が施行される。

 これは、ガソリン車の燃費でいうと25km/Lに近く、大型大排気量車の多い高級車メーカーにとっては、ほぼ達成不可能な高いハードルとなっている。

 そこで、環境規制当局はPHEV車に関しては「(EV航続距離+25km)÷25」という「削減係数」を算出させ、エンジン走行による実際のCO2排出量を、この削減係数で割った数字をカタログ上のCO2排出量として認めるという救済措置を設定したのだ。

アウディはかつて日本でプラグインハイブリッドのA3 e-tronを販売していたが現在で販売していない。欧州では積極的にPHEVを投入中。写真はQ7 e-tron

 ありていにいえば「PHEV化すればゲタを履かせてあげますよ」ということ。地元メーカー保護のため環境規制ルールを捻じ曲げたと言われても反論できないところだ。

 この計算式を使えば、EV航続距離が25kmあればカタログ上のCO2排出量は半減。50kmあれば三分の一になって、CO2排出量270g/km(リッターあたり8km)台でも余裕で規制をクリアすることができる。

 コストに余裕のある高級車メーカーがこぞってPHEV仕様を設定するのは、この抜け穴狙いと言っても過言ではないのだ。

ボルボは日本でもPHEVを数多く販売中。写真はXC90ツインエンジンで1084万~1309万円。そのほかV60、V90、XC60にもPHEVを設定している

今後もPHEVは主流には成り得ない!?

 思い返せば、日本でハイブリッド車ブームが始まったころ、欧州勢は「あれじゃコスト割れ必至」と冷ややかな目で見ていたわけで、その対抗策として「環境志向パワートレーンの本命はダウンサイズターボとクリーンディーゼル」という路線を選択した。

 結果として、低コストな量産ハイブリッド車を生み出すことができず、例の不正問題でディーゼルにも逆風。起死回生のEVシフトは中国の政策変更で雲行きが怪しくなり、CO2排出95g規制対応もそろそろ時間切れで待ったなし。まさに八方塞がりの状態だ。

 PHEVも悪くはないんだけれど、やっぱり環境パワートレーンの本命は低コストなハイブリッド。そこから、ピュアEVに緩やかに移行してゆくというのが自然なんじゃないかなぁ?

クルマの電動化については、PHEVが消滅することはないだろうが、ノーマルハイブリッドからモーターのみでの走行のEVという流れが自然

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