日本はもとより世界の陸・海・空を駆けめぐる、さまざまな乗り物のスゴいメカニズムを紹介してきた「モンスターマシンに昂ぶる」。復刻版として再度お届けする第4回は、史上初の「戦車」を紹介しよう。(この記事は2018年9月当時の内容です)
障害物を突破するための「陸上軍艦」という構想
第一次世界大戦(1914~18年、以下WW1)で投入された近代兵器の代表に、飛行機/戦車/機関銃/毒ガスがある。広い意味では鉄条網=有刺鉄線もそうで、機関銃と鉄条網こそ過去の戦闘方法を一変させたといえる。このふたつ、日本人の多くが知るように、10年さかのぼった日露戦争(1904~05年)でロシア軍が実戦投入しているが、アジアの端での戦争だったため、ヨーロッパの歴史的にはWW1で本格投入されたことになっている。
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鉄条網と機関銃の配備で、敵味方とも集団で正面攻撃という、古来の戦闘方法は無力となった。代わりに前線には蟻の巣のように塹壕が張り巡らされ、歩兵は隙をついて塹壕伝いに攻撃または撤退するという、一進一退の長期戦が主流となってしまった。歩兵の敵は、泥沼と化した塹壕と水虫や凍傷、疫病という悲惨なありさまだった。
そんな塹壕戦の膠着状態を打破すべくイギリスが開発したのが、コードネーム「タンク(給水車)」だ。鉄条網を踏みつぶし、塹壕を越え、機関銃や小銃の弾丸を弾き返すことを条件に開発された新兵器は「陸上軍艦」としてスタートした。
車体構造のベースになったのが、アメリカのホルト社(現キャタピラー)が実用化した無限軌道(履帯)式トラクターで、1915年12月に試作車リトル・ウィリーが完成。不整地や塹壕の走破性と突破力が低いため、翌16年1月には履帯を車体上部=天井高まで廻らした菱型戦車のビッグ・ウィリーがデモ走行に合格し、マークI(マザー)として量産化が決定した。この時の開発委員会が使用したコードネーム「タンク」が、現代でも使われる戦車の総称=タンクとなった。
1916年9月15日、フランス北部ソンム河畔における「ソンムの戦い」でイギリス軍はマークIを60両配備し先陣を切らせるはずだった。しかしトラブルが多発し、前線から出撃できたのは18両、敵陣を走破できたのはわずか5両という、惨憺たる初陣となった。それでも、鉄条網を踏みつぶし塹壕を乗り越え、轟音と砲火を発しながら進んでくる鉄の怪物にドイツ兵士はパニックに陥り、当初の目的は十分に達成することができた。
マークIの外寸は車体本体のみで全長8.5m×全幅4.3m×全高2.4mと、後のWW2最大・最強と呼ばれたドイツのタイガーII戦車(車体長約7.4m×全幅約3.8m×全高約3.1m、重量約69.7トン)よりも大きな体躯ということになる。菱型の鉄箱には、操縦員が4名と左右の砲手・銃手が4名の8名が乗り組んでおり、これもWW2時代の5名から見ると大所帯だった。
エンジンは16Lの直6だが、当時のクルマ同様、最高出力は約105hpで最高速は6km/hという非力なもの。驚くのは機関室という区画がなく、剥き出しのエンジンが車内中央に鎮座し、高熱と轟音、漏れる排気ガスに加え、触れるとタダでは済まない危険物が乗員と背中合わせだった。
火砲にしても換気装置がないので硝煙がこもり、室内灯もなく、轟音で怒鳴り声も聞こえない最悪の居住性といえた。また、装甲は8~12mmしかなく、塹壕や泥沼にはまれば手りゅう弾や野砲の餌食となり、ドイツ軍の小銃でも徹甲弾を使うと貫通するありさまだった。そんな状態でも、ドイツをはじめ各国は戦車開発の重要性を認識し、1918年4月には史上初の英独戦車戦も行われている。
マークIはIV型まで欠点を解消する改良がなされ、V型が150hpエンジンを搭載した大戦期の最終型となる。だが戦後すぐに砲塔が旋回する全周砲塔や多砲塔の戦車が現れ、マーク型タンクは役目を終えた。(文 & Photo CG:MazKen)
■マークI型戦車 諸元 <>は雌型
全長:9.9m(尾輪なし8.5m)
全幅:約4.2m<4.4m>
全高:約2.4m
重量:28トン<27トン>
乗員:8名
武装:オチキス・6ポンド(57mm)砲×2
<ヴィッカース・水冷重機銃4丁>
副武装:オチキス・7.7mm機銃×3
<同機銃×1>
■デイムラーエンジン 諸元
形式:水冷 直列6気筒/スリーブバルブ方式
排気量:16000cc
燃料:ガソリン
出力:105~106hp/1000rpm
※戦車の仕様や数値には諸説あり
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