人気のカテゴリー、ミッドサイズSUVの日欧の2車、ホンダ ZR-Vとアルファロメオ トナーレを水野さんが徹底的に評価する。今回の水野さん、比較開始前からトナーレのアノ部分に苦言を呈した。シリーズ最速のご指摘入りました!!
※本稿は2023年10月のものです
文/水野和敏、撮影/池之平昌信
初出:『ベストカー』2023年11月26日号
ZR-Vは足回りがもう一歩!! トナーレには致命的なミスが!? ミッドサイズSUV2台を辛口評価
■天下のアルファにまずは重めのジャブを一発
今回水野さんが比較評価するのはホンダ ZR-V(右)とアルファロメオ トナーレ(左)
さて、今回は今人気のカテゴリー、ミッドサイズSUVのなかでも走りのよさをアピールする2車を取り上げて評価をしていきたいと思います。ホンダZR-Vとアルファロメオ・トナーレです。
それにしてもトナーレの前輪、ホイールスポークとブレーキキャリパーとの隙間は狭すぎです。目視で2mm程度です。通常は、最低でも5mm以上は確保します。
激しいコーナリングや段差乗り越えなどで大きな負荷が入ると、ホイールは撓むので2mmの隙間ではキャリパーと接触する恐れもあります。さらに、タイヤが巻き上げる細かい砂利を、キャリパーとスポークの間で噛み込むケースもあります。
ブレーキキャリパーやアルミホイールは頑丈に見えるので、皆さんは変形したり撓んだりするとは想像できないでしょう。
しかし、ハードなブレーキングを繰り返して、ブレーキローターが赤くなるほど高温になると著しく剛性が低下してミリ単位で変形し動きます。だからペダルの操作でもグニャ感がでるのです。
ホイールも、例えばR35GT-Rのニュルテストではホイールが変形を繰り返すので、半年程度で回転バランスが取れなくなり交換します。R35GT-Rでニュルのようなハードなサーキットをプロドライバーが本気で走る場合、キャリパーとスポークの隙間は変形を考慮して、最低7mmの隙間を確保しました。
比較開始前からさっそく水野さんから指摘が入った、トナーレのホイールスポークとブレーキキャリパーの隙間。たしかにこれはちょっと狭い……
さて、話を戻しましょう。
トナーレは1.5Lの直4ターボ48Vマイルドハイブリッドに7速DCTを組み合わせたパワートレーンです。モーターは20ps、5.6kgmであくまでもアシスト。160ps、24.5kgmを発揮するエンジンが主体です。
いっぽうZR-Vはe:HEV。2L直噴エンジンは主に発電用で、主な駆動力は184ps、32.1kgmを発揮する電動モーターです。
トナーレのフロントマスクはパッと見ただけで絶対にアルファロメオ以外には見えない、強烈な個性を放っています。
このブランド・フェイスはBMWなどでも同様です。最近のBMWはキドニーグリルを強調しすぎて、押しが強すぎるという話も聞きますが、アルファのグリルは押し出し感の強調ではなく、ブランドの表現手段としているので、大きくバンパーに切れ込んでいても周りと調和した、上手いデザイン処理がされています。
ZR-Vの「顔」は……大きく口を広げたヴェゼルとは逆の、小さく絞ったオチョボ口で、この上に、大きなホンダのエンブレムが取り付けられています。
小さな開口と、大きなエンブレムのアンバランスさは、違和感を覚えます。どんなイメージを作りたいのかがわかりません。「ホンダブランド顔」は造らず、各車ごとに違う顔や、雰囲気にするデザインの意図もわかりますが、どことなく中途半端です。
■伝統的ブランドに見るカーデザインの奥深さ
トナーレのフロントマスクのデザインは、敢えてグリルを目立たせなくしながら、個性を演出している
例えばスーパーカーをデザインする時、フェラーリやランボルギーニを追いかけても、超えるものはできません。その背景には、歴史や文化そしてすでに顧客が心に持っているブランドのイメージがあるからです。
国産メーカーが同じ路線で単に目先のデザインだけをカッコよくしても無駄です。絶対に超えることはできません。
ポルシェはそれを知っています。あくまでもリアエンジン後輪駆動で2+2座席という独自のパッケージングをデザインで表現して、911のブランドとして、不変で世界にアピールしています。
長い伝統を持つポルシェから見れば、フェラーリやランボルギーニの、モデル毎にコロコロ変わる情緒的なスーパーカーのデザインは、後発のキワモノなのです。ポルシェの強いイメージは、世界で揺るぎないブランド力になっています。
言うなれば、そのクルマのパッケージングが生む商品価値や、狙いとしたアイデンティティ、そしてさらには、メーカーのブランド・イメージを創りだすのが市販車デザインの役割だと思います。果たして、ヴェゼルとの関係も含めてZR-Vのデザインはどうなのでしょうか?
トナーレのデザインは、パッケージングとそれが生みだす売りの価値や、イタリアンなアルファロメオの歴史がデザインに表れているので、違和感なくスーッと受け入れることができます。
トナーレのフロントグリルはパッと見るとブラックかと思いますが、漆黒ではない。よく見るとちょっとシルバーが入っていますし、うっすらとブルーも入っています。
盾を表わした逆三角形のグリルと、バンパー下の顔後部がメッシュ状のデザインになっていますが、この部分の形状が絶妙な角度で織りなされているため、外光を反射してハイライトになります。これによって立体感と奥ゆきが表現されています。
グリルの周囲を、シルバーのメッキ調にしないで、黒色基調だけで立体感を表現しているこのデザインは見事で、蒔絵のような処理です。
対するZR-Vですが、グリルは艶ありのブラックで、バンパー下部のリップは樹脂の艶なしブラック。特にハイライトを対比して表現する工夫などはなく、なんか「のっぺらとした」雰囲気を感じてしまいます。
トナーレのフェンダーモールを見てください。これも一見ブラックですが、よく見ればグリル周りと同じ手法です。ハイライトが生きて立体的に質感を演出しています。
ZR-Vは一般的な梨地の艶消しブラックで、特に目立つ新しさはありません。フェンダーモールは“SUVらしさ”を演出する大事なアイコンなのですから、このように大きなフェンダーモールでは、トナーレのように効果的なデザインの処理を検討してほしいと思います。
■シャシー設計と車体デザインの関連
ZR-Vのシャシーは高い性能を持っているが、サスジオメトリーは古い設計基準を踏襲しているのが残念だ
トナーレは最近の欧州車らしく、SUVでもしっかりとフェンダー開口部を詰めて空力を向上させています。一番広い部分でも横にしたコブシが入りません。
さらにフロントバンパーサイドからフェンダー内側に風を流し込んで、ホイール側面を流れる風による負圧でフェンダー内部の空気を吸い出す効果が得られる構造です。
一方ZR-Vは横にしたコブシがスッと通過する隙間があります。いつも指摘するように、これではホイール側面を流れる風をフェンダー内部に巻き込んでしまい空気抵抗やリフトになっています。
ZR-Vもフロントバンパー端の導風口からフェンダー内部に風を流していますが、タイヤとフェンダー開口部の隙間がこれだけ大きいと、巻き込む風と衝突して、吸い出し効果は期待できません。
このフェンダー開口隙間の問題は、デザインだけではなく、サスペンションジオメトリーや、フェンダー開口部のプレス加工形状、そしてタイヤチェーン装着実験の基準に関係します。つまり、デザインとシャシーや車体設計、そして実用性実験部が協力しないと解決できないのです。
例えば、ZR-Vのサスペンションはキャスターが立っていて、転舵した時のタイヤ軌跡が大きいため、フェンダー開口の隙間が大きくなります。昔の基準書には「キャスターは立てたほうがショックアブソーバーの摺動抵抗は小さく、スムーズに動く」と書いてあります。
しかしショックアブソーバーの技術は進化し、電動パワーステアリングに時代は変わっているのに、これらがキャスター角の設計、計画に活用されていないのはなぜなのでしょうか。
トナーレのエンジンルームを見ると、前軸中心に対しサスペンション上部の取り付け部は大きく後退して、ダッシュパネルに取り付けられています。キャスター角を大きく傾けた、ハイキャスターのジオメトリーです。
また、フードリッジレインフォースがガッチリとしたプレス鋼鈑のBOX構造でクロスメンバーと接合しており、フロント周りの車体剛性の高さがわかる構造です。
Jeepレネゲードと基本プラットフォームを共用するトナーレはガッチリとした車体構造だ
アルファロメオはステランティスグループですから、トナーレはJeepレネゲードとプラットフォームを共用しているので、このようなガッチリとした車体構造なのです。FFのSUVの車体構造ではありません。
ラジエーターコアはガラス繊維入りの樹脂で、強度があって車体剛体の一部を構成しています。エンジンマウントはアルミブラケットでガッチリとした構造です。エンジン振動を遮断して車体には伝えていません。
トナーレのエンジンは直4の1.5Lターボです。タービンはずいぶんと小さいです。軽自動車のタービン程度の小ささです。電制ウエストゲートを採用しています。オルタネーターはコイル剥き出しですが、水かかりは大丈夫でしょうか?
ZR-Vの車体は基本的にシビックと共通の構造です。サスペンションアッパーはダッシュパネルに直付けする構造で、車体構造としては剛性の高い構造です。
ベースのシビックに対してフェンダーが高いSUVなのでステーを介してアッパーパネルをかさ上げしているのはいいのですが、かさ上げした隙間がガランドウになったままで、フェンダー内側とエンジンルーム内の空間が繋がっています。
これではタイヤ騒音だけではなく、小石の飛び跳ね音までエンジンルームで増幅されて、フロントウィンドウ下にあるエアコンの空気導入口から室内に入ってきます。この隙間は吸音ウレタンなどで塞ぎたいです。トナーレはフード後端までゴムのシーリングがきちんとされています。
■ホンダ ZR-Vの車内&荷室は?
ZR-Vの後席は座面高が高すぎることはなく、乗降性に優れる
室内をチェックしましょう。まずはZR-Vです。
インパネの造形は最近のホンダ車に共通する、上面を低く抑えた直線基調。これはいいと思います。フロントガラスの下端が低く、視界が広いのは安全性にもつながります。
インパネ自体もソフトパッドを使い、表面は革調の素材で触感もソフトでいいです。ステアリングのグリップも縫い目が細かく触感がいい。メーターパネルを主役にして、ほかのスイッチ類などは脇役に徹するレイアウトやデザインも狙いが明確でいいですね。インテリアのデザインはよくできていると思います。
ペダル配置も適正です。ブレーキペダルとアクセルペダルの間隔がしっかりと離れているので、ブレーキペダルの右端を踏んだとしてもアクセルペダルを共踏みすることはありません。意図的にアクセルペダルを大きく右にずらして配置しています。
また、ブレーキペダルとアクセルペダルの踏面に大きく高低段差が付けられているため、踏み間違えの抑止にもなっています。このペダル配置は工夫を感じます。
シートの着座感もいいです。座面長が長いので、しっかり腿がホールドされます。また、座面前端の形状も角がスムーズで突起感がない。クッションも弾力が適正で、スッと腰からお尻はフィットします。これはしっかり造り込まれています。
フロントドアのヒンジの形状が工夫されていて、開いていった際にドア全体が斜め前にオフセットするような動きをします。これによって、狭い乗降スペースでドアを大きく開くことができない場面でも足元開口を広くとれるため、スッと足先を出し入れできます。これはよい工夫です。
後席はシル段差が低く抑えられているため足先の通過性がいい。また、リアシート端がサイドに張り出していないため、お尻が楽に座れます。ただ、座面長はちょっと短いですね。クッションの厚みがもう少し欲しいです。
後席は6対4分割で前倒できます。座面がリンクで下がり、低くフラットな荷室を作れるのはホンダらしい部分です。
後席の居住空間は頭上の圧迫感もなく快適です。荷室はやや床面が高いですが、この下にバッテリーを積んでいるためやむを得ないところです。
毎回言っていますが、三角表示板はなぜ、リアゲート内張にビルトインできるようにしないのか? 荷室フロアボード下に入れていたら、荷物満載では緊急時に取り出せません。
■アルファロメオ トナーレの車内&荷室は?
トナーレは座面が高く、乗降時に足が地面に着かない
トナーレの荷室はどうでしょう? 開口部の横幅が狭いです。全幅はZR-Vとほぼ同じですが、両側の車体パネルを厚くして質感を上げています。
フロアボードの高さはZR-Vとほぼ同じですが、ボードをめくるとアンダースペースがあります。48Vマイルドハイブリッドなので、バッテリーサイズが小さいからです。スペアタイヤの積載空間ですが、パンク修理キット仕様のため、荷室として使えます。
トナーレのインパネはアルファらしい、スポーティな丸形メーターを強調したメーターパネルが特徴的です。とはいえ、メーター表示そのものは今風の液晶パネルのグラフィックです。パドルシフトはコラムから生えるタイプで、操舵しても位置が変わりません。
シートはいいですね。ZR-Vよりも座面長はちょっと短いですが、表皮のグリップ感がよく、しっかりと身体がホールドされ、変にお尻が滑るようなことはありません。長距離乗って、疲れないシートです。
ステアリングのグリップは素晴らしい仕上げです。革の触感はしっとりとしていて滑りにくいし、なんといっても縫い目の緻密な仕上げが素晴らしいです。
ペダル配置は右ハンドル仕様だからと言って変にオフセットしていることもなく、自然な位置です。ただABペダルの間隔はちょっと近いです。
乗降性はよくもなく悪くもなくといった標準的評価ですが、前後ともにドアパネルの下端がサイドシル側面を覆う形状のため、乗降時にふくらはぎがシルに当たってもズボンが汚れません。この気遣いがZR-Vにもほしいです。
後席ドアは側面ガラスの後端が高い位置で後方に張り出していて、乗降時は気を付けないと顔面にヒットする位置です。以前トヨタアクアでも同じようなことを指摘しましたが、これはいただけません。
後席は座面ヒップポイントが高いので、前席との高さの差が大きく、前方視界は見下ろす感覚。座面が高いので、よっこらしょと乗り込まなくてはならず、ガラスの顔面干渉も含めて乗降性はよくありません。
座面はクッションが薄く、お尻が底付きします。座面先端が角張っていて、腿の裏が当たって痛いです。後席はイマイチです。表皮は前席と同じなのでグリップがよく滑りにくいのはいいと思います。
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