ハイパワーエンジンに豪華装備のクルマもいいけれど、小さなエンジンに最低限の装備で『走りの楽しい』クルマってのがまた、味わい深いもの。
タイトルの“素うどん”とは、なーんの具材も入っていないけど魅力が詰まった、ベースグレードでもいいクルマを探そうって話。
【ホイール ステアリング シート…】 車の魂は細部に宿る!? 「細かいところが良いクルマ」選手権
ただの「廉価版安物グルマ」ではない。いや、メーカーとしては単なる廉価版ベーシックグレードとして用意したつもりだったモデルが、実は『美味しい素うどん的クルマ』になっているというケースもあるから油断はならない。そのあたりの見極めも“クルマグルメ”の眼力の見せどころってヤツなんである。
というわけで、自動車評論家お3方に選んでいただいた、ベストカーオススメ、この冬の『美味しい素うどん的クルマ』のメニューがこちらだ!!
●【画像ギャラリー】RAV4、プラドからスイフト、ハイゼットまで! “素うどん的ないいクルマ”たち11台をギャラリーでチェック!!!
※本稿は2020年2月のものです
文:鈴木直也、国沢光宏、渡辺陽一郎/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年3月10日号
■マツダ3 RAV4 スイフト…本質を見極めるのならやっぱり素うどん的クルマ
近所の丸亀うどんとかへ行くと、ついエビ天や温泉玉子なんかをトッピングしちゃうんですが、今のクルマも似たようなところがあるよね。
クルマを“素”の状態で買うってことはほとんどなくて、エンジンやら足回りやらインフォテイメントやらADASやら、いろんな追加装備がてんこ盛りで乗っかってくる。結果として、そのクルマの素材としての良し悪しが、微妙にわかりにくくなっているような気がするわけです。
むかしから「よいうどん屋は素うどんを食べてみればわかる」なんてことを申しますが、これはクルマについても同じ。ベーシックグレードに乗っても「イイね!」と思えるのが、本当のいいクルマなんじゃないでしょうか。
で、最近の国産車のなかから“美味しい素うどんグルマ”を探すと、まず最初に思いあたるのがマツダ3だ。
●マツダ マツダ3 15Sツーリング
マツダ3の魅力はエクステリアデザインと質感の高い内装。それならば約230万円の15Sツーリングがお薦め
「新世代スカイアクティブ」第一弾として華々しくデビューしたマツダ3は、残念ながら前評判ほどには売れていない。
そのひとつの原因として、ちょっと割高感のある価格(とりわけスカイアクティブX)を指摘する人が多い。
しかし、マツダ3の魅力のポイントは研ぎ澄ましたエクステリアデザインと質感の高いインテリア。
であれば、「エンジンは別に1.5Lでも充分じゃない?」という考え方もアリで、そうなると、230万円台で買えるファストバック15Sツーリングがとっても魅力的な素うどんに見えてくる。
パフォーマンスにこだわらなければ走りは1.5LでもぜんぜんOKで、スムーズによく回って思いのほか軽快。足回りも含めて、安っぽい感覚はまったくない。
もう一台、素材のよさを感じられるクルマとしてあげたいのがRAV4だ。
●トヨタ RAV4 X(FF)
RAV4はプラットフォームのよさと2L NAエンジンのよさから、FFモデルでもその魅力を充分に味わえる
マツダ3とは対照的に、こちらはデザインよりエンジン/プラットフォームなどの“骨格”がきちんと造り込まれているのが持ち味。
4WDシステムが3種類も用意されているのが話題だが、あえてFFの2WDを選んでも走りの評価は高水準で、そうなると265万円ちょいで買えるXグレードが素うどん的に悪くないのだ。
さすがに、このグレードだと内外装はちょっと殺風景な印象だが、SUVはガシガシ使い倒すべしと考えればOK。豪快に食べるぶっかけうどんですかね?
ラストは、ほんとうにゲタ代わりの足として使える“素うどんグルマ”として、Bセグハッチバックを一台あげようと思ったのだが、現状ベストのスイフトに加えて、間もなくヤリスとフィットが参戦するため判断保留。
この3台のベーシックグレードは、どれもすごくよくできていてオススメです。
●スズキ スイフトXG
スイフトの『美味しい素うどん』なのは、やはりハイブリッドなどの+αのないXGリミテッドだ
「新型フィット、そしてヤリスが相次いで発売開始となり、コンパクトカークラスの美味しい素うどんグルマの評価にも新たな変化が生じるかもしれない」と鈴木直也氏。一般道で実際に試乗してみてから判断したい
(TEXT/鈴木直也)
■ハイゼットトラック XV プラド…“素うどん的”でも自動ブレーキ性能は必須!
以前は「美味しい素うどんグルマ」って少なくなかった。必要最小限の装備内容で楽しめたら最高です。
若い頃、私もバネットバンのベースグレードを買い、カーゴスペースにベッドなど積んで家族で北海道に行きましたね! 商用車、値引きをけっこう頑張ってくれたので、エアコン付き100万円少々だったように思う。今も美味しい素うどんグルマってあるだろうか?
一番大きな問題になってくるの、安全性です。もはや自動ブレーキやサイド&カーテンエアバッグに代表される、安全装備が付いていないクルマなど推奨できない!
事故を起こすのもイヤだし、貰い事故で痛い目に遭うのもイヤです。ということで私が選ぶ素うどんグルマは「単に安いだけ」でなく、安心して食べられるようなモデルを選んでみました。
まずは私も乗っている自動ブレーキ付きのダイハツハイゼットトラック。ビッグキャビンの最上級グレードであっても素うどんのよさを持っている。
●ダイハツ ハイゼットトラック
軽トラって『美味しい素うどん的』な要素が満載だと思う。軽トラのなかで安全装備に優れているのがダイハツハイゼット。使い方はそれこそ自由自在。アソビのアイテムを荷台にゴロンと積んで出かけるもよし、ホームセンターでの買い物だって大物買った時にトラックのありがたさを思い知ることができる
自動ブレーキの性能としちゃタイしたことないけれど、軽トラックのなかだと最高性能。最近流行のオフロードタイヤ履かせて車高少し上げたら超カッコいいです。近所の足として使うクルマとして考えたら素晴らしいと思う。
乗用車タイプならXVしかないでしょう! ベースグレードは220万円。フルタイム4WDだし、アイサイト3付きだし、嬉しいことに歩行者エアバッグまで標準装備してる!
●スバル XV1.6iアイサイト
アイサイト3を標準装備するスバルXVは、安全性能という、現在では最も重視すべき基本性能を高い次元でクリア。全モデルフルタイム4WDを採用しているし、220万円の一番安いグレードでも充分満足できる内容を装備。その意味で美味しい素うどん的クルマといえるだろう
XVは装備内容を欲張っていくとグングン高くなってしまう。でも素うどんグルマとして考えたら充分すぎる豪華さです。日本車というよりヨーロッパ車的なクルマ作りなのだった。
絶対的な価格こそ若干高くなるが、内容や素晴らしく高いリセールバリューまで考えたらランクルプラドのベースグレードTXってステキだ。ディーゼルエンジン選ぶと燃費よし!
●トヨタ ランドクルーザープラドTX
ちょっと違った視点で美味しい素うどんグルマを選ぶなら、ランクルプラドはいかがだろうか!? 絶対的な価格は360万3600円と、けっしてお安くはないけれど、最新の安全装備トヨタセーフティセンスが標準装備となっているし、本格的なクロカン4WDの走破性は大きな魅力。あえて選ぶ美味しい素うどん的クルマだ
安全装備は高レベルの自動ブレーキに始まり、ニーエアバッグまで標準装備。ランクルプラド、豪華装備を追求すると、ドンドン高くなる。ベースグレードで充分です!
弱点は「盗まれやすいこと」くらい。
輸入車ならシトロエンC3をプッシュしておく。ベースグレードの『フィール』は226万6000円で自動ブレーキ付き。
インテリジェントハイビームやバックソナーまで標準装備しているものの、インテリアなど必要最小限。エンジンだって1200cc3気筒ターボと、フランス車らしさに溢れている。それでいてシートのクオリティときたら最高でございますね!
●シトロエン C3
226万6000円のベースグレードでも自動ブレーキ付き。3気筒1.2Lターボはフランス車らしさ全開だ
(TEXT/国沢光宏)
■ジムニー ロードスター トゥインゴ…素うどんなクルマにこそ“クルマ作り”が見えてくる
低価格グレードにこそ味わい深さの宿る「素うどん」のようなクルマは、優れた本質がないと成り立たない。エンジンでも「素」のよさを味わいたいから、可能ならMTを選びたい。
そこで真っ先に挙げられる車種がジムニーだ。価格が最も安いXGの5速MTは、5速目のギヤ比が1.0になり、副変速機も併用すると、走行状態に応じて最適なギヤを選べる。
●スズキ ジムニーXG(5MT)
好みは分かれようが、ジムニーの魅力は大きい。最廉価のXGならば価格は148万5000円。高速道路を長距離走るような使い方にはお薦めしないが、荒れ地をグリグリ走る走破性は、スポーツカーとは異なる人馬一体感
柔軟に伸縮する足回りと軽いボディで、悪路走破力は抜群だ。デコボコの激しい滑りやすい路面をゆっくり進むと、路面の状態が手に取るようにわかり、これも人馬一体の醍醐味だ。
人馬一体といえば、スポーツカーのロードスターが本命になる。価格が最も安いソフトトップのSは、6速MTを採用しながら後輪側のスタビライザーをあえて省いた。
●マツダ ロードスターS
やっぱり外せないロードスター。ここはあえて最廉価のSグレードを推したい。価格は260万1500円。Sはリアサスのスタビライザーを省いたことでコーナリング限界は下がるものの、より操縦感が楽しめる足だ
安定性は下がるが、後輪が粘りながら次第にグリップ力を弱めていく感覚は、初代ロードスターに似ている。運転すると、なぜか1980年代の記憶が蘇り、感傷的な気分になった。
運転感覚が昔乗ったクルマに似ている車種には、ドライバーを過去に引き戻す不思議な力が宿る。これも普遍的な価値を持つ「素うどん」の魅力だろう。
コンパクトカーでは、スイフトRSの5速MTを挙げたい。RSはスポーティグレードだから低価格ではないが、エンジンはマイルドハイブリッドを装着しないシンプルな1.2Lだ。
●スズキ スイフトRS(5MT)
スズキスイフトのRS、5MTは最近のクルマではなかなか感じられなくなってきた美味しい素うどん的な魅力を存分に味わえる。欧州仕様のサスペンションで操縦性はキビキビスポーティ。自動ブレーキも標準装備
吹き上がりが活発で、5速MTの採用により動力性能をフルに引き出せる。ショックアブソーバーと16インチタイヤの設定は、欧州仕様に準じたタイプで、峠道の走りは軽快だ。
RSの5速MTの価格は、衝突被害軽減ブレーキなどを備えて171万7100円だから求めやすい。
輸入車ではルノートゥインゴを取り上げたい。エンジンを後部に搭載する後輪駆動車だから、車両の向きを変えやすく、駆動力の伝達効率も高い。
●ルノー トゥインゴ
リアにエンジンを搭載してリアタイヤを駆動するトゥインゴ。フロントが軽く、操舵感は軽快で、リアタイヤが押し出す感覚は楽しい
後席と荷室は狭いが、実用的な5ドアボディで、車両との一体感のある走りを味わえる。姉妹車のスマートフォーフォーは、今は上級のブラバスのみだから高価格だが、トゥインゴには200万円以下のグレードもある。
価格の安い輸入車の魅力は、いろいろな付加価値を取り去った結果、「これだけは譲れない」ブランドの本質が赤裸々に残ることだ。
VWアップやフィアット500にも当てはまるが、トゥインゴの場合は、メガーヌ・ルノースポールなどに通じるドライバーのコントロール性を最優先させたルノーブランドの運転感覚が一番の魅力となる。
クルマ好きが納得できる「素うどん」で、このようなクルマが生まれる欧州市場が羨ましく思える。
(TEXT/渡辺陽一郎)
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