カタログスペックからは想像できないトルクフルな走り
エンジンが明確な存在感を放つコンパクトサルーン
「名匠“RSヤマモト”が手がけたBNR34ストリートスペック」心臓部は計算し尽くされた高耐久の2.8L化+GT2530ツインターボ仕様!
イタリアはランチアのミドルクラスセダン、デドラが登場したのは1989年。本国では4ドアセダンとステーションワゴンが用意され、1.6L直4SOHC、1.8/2.0L直4DOHC、2.0L直4DOHCターボ、1.9L直4SOHCディーゼルターボと5種類のエンジンがあったけど、91年からオートザム店で販売された日本仕様は4ドアセダンの2.0L直4DOHC(110ps/15.9kgm)+4速ATの2.0ieと、同ターボ(160ps/27.9kgm)+5速MTのHFターボだった。
それまでR32スカイラインGTS-tタイプMに乗っていたオーナーのYさんが、デドラを新車で購入したのは93年。「結婚が決まっていたので落ち着いたクルマに乗りたいと思ってたことと、クルマにお金をかけられるのもこれが最後だろうということで、ラテン系のランチアに狙いを定めました。テーマとデドラで悩みましたが、最終的にはシャシーがひと世代新しいという理由でデドラに決めたんです」。
ランチアに限らず、イタリア車と聞いてまず気になるのは「壊れないのか?」ということだ。失礼を承知でストレートにそんな質問をぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。
「新車で買った直後、いきなりスピードメーターが壊れましたからね。トラブルは言い始めたらキリがないですよ(笑)。マイナートラブルを除くとして、自走できなくなったのは2回だけですね」と、八木さんはこともなさげに言う。
1回目は信号待ちをしてたらエンジンルームから白煙が。この時はウォーターポンプが壊れて冷却水をブチまけた。2回目はウォーターポンプがカジってしまったことによるファンベルト切れだそうだ。
乗り始めて丸25年、それで大きなトラブルが2回だけなら、予想に反して優秀(!?)というべきか。以前はセカンドカーとして軽自動車を所有していたからデドラに乗るのは月イチペースだったけど、今では通勤にも使っているというからツワモノだ。
ちなみに、オドメーターを確認したら5万7800km。購入直後のスピードメーターが壊れてた時に500kmほど走ってるから、実際の走行距離は5万8300kmちょっとだけど、にしても年式の割にはかなり少ない。でもって、気になるタイミングベルトの交換は新車購入から7年、3回目の車検で行なってるとのことで、やっぱり国産車の感覚とはまるで違う…と痛感する。
目の前のデドラは全長4.3mちょい、全幅1.7mをわずかにオーバーしてるだけで感覚的には完全に5ナンバーサイズ。エッジが立ったオーソドックスな4ドアセダンのスタイルも個人的に嫌いじゃない。
運転席に収まると、コンパクトなボディにアイポイントの高さも加わって全方位に対して視界は良好。ひさしぶりの左ハンドル車だけど、これなら車両感覚に困ることはなさそうだ。
左端からセンターコンソール右端まで横長のメーターパネルが特徴のダッシュボード。4本スポークステアリングはウレタン製となる。240km/hフルスケールのスピードメーターを中心として右側にタコメーター、左側に燃料計と水温計を配置。ミッションは3~4速にロックアップ機構を備えた電子制御式4速ATで、経済性を優先する“ノーマル”と、加速重視のシフトスケジュールとなる“スポーツ”の2つのモードをスイッチで選ぶことができる。
タコメーターの右側には油温計と電圧計、ATポジションインジケーター、アナログ式時計が並ぶ。また、メーターパネルの左側にはグラフィック警告システムを装備。ドアやトランクが開いていると該当箇所が赤く表示される他、冷却水やエンジンオイル、ウォッシャー液が不足したり、ヘッドライトやテールランプなどのバルブ切れが発生した場合にもインジケーターが点灯する。
表皮にファブリックを採用し、張りのあるクッションで硬めの座り心地となる前席。フロアに対して座面が高く、ドライビングポジションはアップライト気味だ。運転席はスライド&リクライニングの他、シートリフターとランバーサポート、センターアームレストも備わる。
座面、背もたれともにフラットで3人がけも問題ない後席。乗車定員を5名としながらセンター部が大きく盛り上がり、後席には実質2人しか座れないクルマもある中、デドラはセダンとして真面目に設計されている。センターにはアームレストが付き、スピーカーボードには直射日光を遮るロールアップ式カーテンも装備される。
後席は60:40分割で座面を引き出し、そこに背もたれを前倒しするダブルフォールディングが可能。トランクスルーと合わせて長尺物や大きな荷物を積むことができる。
ランチアと言えばWRCの常勝チーム。80年代後半から90年代初頭にかけてはデルタHFインテグラ―レが勝ち星を重ね、6度のワールドタイトルを獲得した。それを記念したステッカーをリヤウインドウに確認。
トランクパネルはダンパー付きの外ヒンジ式で、ラゲッジスペースを無駄なく使えるように設計。バンパー直上から開き、開口部も大きいため、荷物の積み降ろしをラクに行える。5名乗車できる車内空間と容量480Lのラゲッジルームを全長4.3m強のボディで実現したデドラは、3ボックスセダンとして秀逸なパッケージング。
オーナーを助手席に乗せて試乗に向かう。A835A5型エンジンの第一印象は、低回転域から十分にトルクが出てるってこと。最大値は15.9kgmと頼りないけど、そうとは思えないほどの力強さだ。昔から“数字”を求めたがる国産エンジンとはそもそも考え方が異なり、『実際にドライブした時の楽しさに何よりも重点を置いている』とカタログにもうたわれている。
アクセルペダルを深めに踏み込むと、エンジンは3000rpmあたりから元気が出てくる。クランクシャフトの倍速で逆回転する2本のバランサーシャフトを内蔵することで直4エンジン特有の振動や騒音を抑え、優れた静粛性と滑らかな回転フィールを実現。驚くような速さやレスポンスはないけど、日常的なシーンで動力性能に不満を抱くようなことはない。
それから、感心したのがボディ剛性の高さ。それによってしっかりしたハンドリングや正確なステアリングフィールがもたらされている。Yさんによれば、「R32スカイラインからの乗り替えでも、まるで違和感がなかった」というほどなのだ。
走行距離が短いからヤレも少ないという、この個体だからこその印象だと思うけど、新車時のレベルが相当に高くなければ26年後の今、そう思えるはずがないのも事実。
また、ブレーキは制動性能はもちろん、ペダルを踏んだ分だけ効いてくれるフィーリングも秀逸だった。国産車に慣れてると初期制動が甘いように感じるかもしれないけど、踏力でブレーキをコントロールできるのは大きな安心感につながる。
国産車でいえばコロナやブルーバードに相当するベーシックなセダンだけど、走りの印象はまるで違う。デドラはやっぱりヨーロッパ生まれなのだ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:A835A5
全長×全幅×全高:4345×1715×1430mm
ホイールベース:2540mm
トレッド(F/R):1435/1415mm
車両重量:1300kg
エンジン型式:835A5
エンジン形式:直4DOHC
ボア×ストローク:φ84.0×90.0mm
排気量:1995cc 圧縮比:9.5:1
最高出力:110ps/5750rpm
最大トルク:15.9kgm/3300rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/トレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:FR185/60R14
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
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