試乗車を借り出して、後席にカメラマンを乗せ、撮影場所に向かって走り出したとたん「これ乗り心地いいですねえ」と背後から声が聞こえてきた。
グレードはMスポーツ。乗り込む前にチェックしたタイヤの銘柄は、ピレリのPゼロ、しかも20インチのランフラットだった。スポーティなかための乗り味をイメージしていたが、その存外な心地良さに驚いた。
7シリーズの転機はV12気筒エンジン搭載だった!──2世代目・BMW 7シリーズの思い出
6シリーズ グランツーリスモ(以下、GT)は、もとは5シリーズ グランツーリスモとして誕生したモデルだ。高級セダンのラグジュアリー性とクーペのようなスタイル、さらにSUVの多様性を備えた、いわゆるクロスオーバーモデルだ。新型へのモデルチェンジを機に6シリーズの一員となった。
話は少々ややこしくなるが、今年6月のル・マン24時間レースの会場で、新型8シリーズクーペが発表された。今後はこれをベースにカブリオレ、グランクーペといった派生モデルが登場するようで、6シリーズのクーペ、カブリオレはカタログから落ちて、このGTのみが残るようだ。
6シリーズGTの基本骨格は、5/7シリーズと共通だ。ボディはドアやエンジンフードだけでなくテールゲートなどもアルミニウムに、さらにサスペンションにもアルミや高張力鋼板を多用して先代比で約150kgの軽量化を実現した。また革新的な技術として、ドア内側の防音材にガラス繊維強化プラスチックを採用し、軽さと静粛性を両立している。
ボディサイズは7シリーズのスリーサイズが、全長5110mm、全幅1900mm、全高1480mm、ホイールベース3070mmなのに対し、GTは全長5105mm、全幅1900mm、全高1540mm、ホイールベース3070mmと、全高以外はほぼ同じで、上背が60mmも高い。したがってGTの室内空間の広さたるや7シリーズをも上回る。特に後席の広さを重要視する中国市場で人気が高いというのもうなずける話だ。
運転席は、ドライバーオリエンテッドなBMWの流儀に則ったもので、ダコタレザーシートなどが上質さを演出している。機能面では、タッチパネルやジェスチャーコントロール機能を備えた最新のiDriveナビゲーションシステム等を搭載する。また安全装備でも現行5シリーズに始まった部分自動運転を可能としたドライビング・アシスト・プラスを標準装備した。高速走行時などにカメラが車線や前方車両を検知してステアリング操作を補助してくれるステアリング&レーンコントロールアシストなどは、慣れてしまうとこれなしでは心許ないほど、長距離ドライブの助っ人として抜群の効果を発揮する。
走りも実用性も万能
足回りにはアダプティブエアサスペンションを標準装備している。そう考えれば冒頭の乗り心地のよさも合点がいく。近年のエアサスペンションの進化は、驚くほどに幅広いダンピング特性を実現可能にした。Mスポーツらしい乗り味を楽しみたいときには、ドライブモードをコンフォートからスポーツへ切り替えればいい。
エンジンはBMWが頑なに守り続けてきた直列6気筒の3リッターターボだ。BMWの直6エンジンは、吹け上がりが絹を彷彿とさせるほど滑らかなことから“シルキーシックス”と形容されたりするが、しなやかな乗り心地や高い静粛性もあいまって、高級感にあふれている。また出来のいい8速ATのおかげもあって、ゆっくりと走りたい場面でも、スポーティに走りたい場面でも、柔軟に対応してくれる。
荷室容量は、通常時は先代比で110リッター増しの610リッター。40:20:40の分割可倒式の後席の背もたれを前方に倒せば最大1800リッターもある。これは5シリーズツーリング(570/1700リッター)をも上回るものだ。
国内で販売する6シリーズGTは、「640i xDrive Gran Turismo M Sport」の一択だ。7シリーズより広い室内&余裕のある後席、5シリーズツーリングより広い荷室、クーペスタイルで立体駐車場にもぎりぎり収まる1540mmの全高、そして直6エンジンと4WDとMスポーツというぐあいに、6シリーズはBMWのもてる美味しい要素をぎゅっと詰め合わせた、いいとこどりのモデルというわけだ。
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