マセラティの新型SUV「グレカーレ」の国際試乗会(イタリア)に、松本葉が参加した。実車のリポート前に、まずはマセラティの歴史を振り返る!
マセラティのルーツ
自動車は時代の産物。新車は今の私たちをうつし出す鏡だ。一方で「今日」生み出された新車を「昨日」と切り離すことはできない。世界の流れ、社会の変動、なによりメーカーの歴史と深く結びついている。マセラティ・グレカーレもそんな1台。長い時間のなかで紆余曲折の末、揺るぎないポジションを獲得したイタリアの自動車メーカーのニューカマーである。
1914年、マセラティ兄弟がボローニャに開いた小さな町工場は、航空機エンジンや他社のコンペティションカーを手がける一方、雲母で絶縁したスパーキングブラグを製作、このプラグの成功によって資金を得た。
自社カー製作に乗り出したのは1926年のこと。ボローニャの広場にある像、海神ネプチューンの握りしめたトライデントがエンブレムとされ、町工場はオフィチーナ・アルフィエーリ・マセラティ株式会社に生まれ変わった。
1933年までのあいだに国際レースで百回の優勝を勝ち取ったというところに兄弟の才が伺えるものの、会社の経営権はわずか10年ちょっとで彼らの手を離れる。同社の高い技術力に目をつけた巨大企業のオーナー、Aオルシに乗っ取られたからだった。大河ドラマに喩えれば最初の危機、涙を誘う場面ながら、興味深いのは、兄弟が手塩にかけた会社を乗っ取った相手からの「10年は残って設計を続けて欲しい」という申し出をさらりと受け入れたこと。ひたすらクルマが作りたかったということであると思う。
経営の雑務から解放されることを喜んだ節もある。ちなみに10年後、母家を去ったブラザーズが立ち上げたメーカー、それがオスカである。歴史に残る素晴らしいコンペティションカーを少量生産した。
幸先のいい再スタートだったものの……
幸福だったのは兄弟なきあとも、技術/性能の面で彼らの志が引き継がれたことだろう。名エンジニアを迎え入れて設計されたマセラティ・マシンは多くのレースで活躍した。
転換期を迎えるのは1950年代終わり。コンペティションカー製作で培った技術力をもとに量産メーカーへとシフトし、大排気量、高出力、高性能で豪華なグランツーリズムの生産を開始した。当時のイタリアは戦争復興期から経済ブームへの移行期にあって、富裕層はバカンス用にゴージャスな高性能車を求めた。
250Fを駆ってJMファンジオがF1チャンピオンに輝いた1957年、3500GTがデビュー。基本設計がしっかりしていたことから多くのカロッツェリアやデザイナーがボディを架装、美の競演が繰り広げられた。同社は幸先のいい再スタートを切ったと言える。
1960年代はじめのマセラティはセブリング、ミストラル、クアトロポルテのデビューによって大いに活気づき、その名を不動のものとする。高性能ラグジュアリー・グランツアラーというアイデンティティを確立、それでも経営的には安定とはほど遠いものだった。
1968年、SM用のエンジン開発と引き換えにシトロエンの資金援助を受けることになるが、第一次オイルショックに見舞われたこともあって、なんと親亀のシトロエンが経営難に陥ってしまう。
資金援助はストップ、両社の関係は白紙に戻された。
デ・トマゾ時代とクライスラーとの関係
存亡の機に立たされたマセラティは、1976年に国の意向でGEPIというホールディングカンパニーの管轄下となり、おなじく親会社の経営難により行き場を失ったイノチェンティのランブラーテ工場とカップリングされて嫁入り先探しが行われる。
ここで名乗り出たのが、イタリア系アルゼンチン人のドライバー/ビジネスマン/自動車製作者Aデ・トマゾ、彼が新たな経営者となった。
デ・トマゾが目指したのはマセラティをさらなる量産車メーカーに成長させること。「ユーザー層を広げるべき」。
彼の目論みを具現化したモデルが1981年にデビューしたビトゥルボだ。が、真の目論み、野心はアメリカに向けられていた。当時クライスラーを率いたLアイカコッカと組んでマセラティ車両をかの地で生産/販売しようと水面下で投資を開始したのである。これがデ・トマゾとマセラティを窮地に追い込む。アイアコッカが梯子を外したからだった。それにしても、この時点でクライスラーが(ほぼタダで)フィアット・グループに買収される運命にあることを誰が想像しただろうか。
資金繰りに困ったデ・トマゾはどうしたか? イノチェンティの工場ではビトゥルボと共に、ダイハツ製3気筒エンジンを搭載したイノチェンティ・ミニがアセンブリーされていた。おそらくこれを利用したのだと思う。
「日本企業がイノチェンティ工場を買収する」「(フィアットと袂を分かったイタリア/アメリカの自動車ビジネスに精通した)Vギデッラがマセラティに興味を持っている」、こんなふたつの噂を流す手に出たそうだ。
どこまで本当かはわからないが、デ・トマゾの波瀾万丈の生涯を想うとさもありなん、こんな気がする。マセラティ時代の彼にインタビューしたとき、キミは何処に住んでいるのか?と聞かれ、トリノですと答えたら、「フン、あんな汚い街によく住むな」こう言われて返す言葉を失った。トリノはフィアットのお膝元、あれは今想うとフィアットとの買収交渉の最中だった。
守り抜いたアイデンティティ
イタリアで生まれた自動車は母国に残るべき、当時これをモットーとしたフィアットは噂、いや”デマ”にすぐアクションを起こす。
1989年からデ・トマゾと買収交渉を開始。数年後に買収劇は完了、マセラティはフィアット・グループ傘下となった。一方デ・トマゾは、イタリアでもっとも難航する労働組合との交渉中に心臓麻痺に襲われ、これが引き金となって一線から退く。2003年に亡くなり、モデナの墓に埋葬された。同じ墓地には決して良好な関係とはいえなかったEフェラーリが眠る。
フィアット・グループはクライスラーを統合、FCAとなったが、この時の立役者であるSマルキオンネによってそれまでモデナに限られていた製造場所が広げられ、マセラティ車両は年間4000~6000台から5万台へと生産台数を大幅に伸ばした。彼もまたマセラティのパフォーマンス、ブランド力、イタリアニティを認めた経営者だ。
一時期、フェラーリの元に置かれて品質管理などをブラッシュアップした同社は現在、FCAとPSAグループの融合によりステランティスの一員となっている。昨年1月にはナイキとコンバースで実績を上げたイタリア人、DグラッソがCEOに就任した。フランス側から送り込まれなかったところに、グループ傘下にあって独自性をキープする姿が感じられる。プレミアムを持たないPSAが最も欲しかったブランド、それがアルファ・ロメオとマセラティだったはずだ。
最初のトライデントから数えて96年、うねる道を歩み続けたマセラティは「高性能ラグジュアリーGT」というアイデンティティを守り抜いた。
「高性能と優雅さを共存させた自動車で長距離ドライブを」。
同郷のフェラーリともランボルギーニとも異なる立ち位置だ。この立ち位置を守り抜いたことが現在の発展に結びついたのだろう。2016年にはレヴァンテを発表。SUVという新たなカテゴリーに進出したが、ここでもDNAは守られサクセスモデルとなった。高評価と好調な販売に後押しされて登場したのが、グレカーレ。半導体不足の余波で半年ほど遅れてアンベールされたニューモデルは、レヴァンテの年子の弟とでも言えそうな、ひとまわり小さいSUVである。
と、ここまで記したところで搭乗開始のアナウンスが流れた。マセラティ社が企画したニューモデル試乗会に参加するため、これからミラノ行きの飛行機に乗る。フライト掲示板にはミラノの天候は「曇り時々雨」と記されている。ちと残念ながら、4WDと電子制御デバイスの助けを借りてドライブを楽しむつもりだ。
では、行ってきます。
文・松本葉
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