フォルクスワーゲンの未来を占う現在地の電気自動車が「ID.4」。フォルクスワーゲンにはIDシリーズとしてID.3、ID.5、ID.6も存在するが、日本に導入されたID.4はいわば世界中で販売される、フォルクスワーゲンの電気自動車の世界戦略車であり、1974年以来、世界のコンパクトカーのベンチマークであり続けてきたゴルフに相当する位置づけと言っていいかも知れない。というのも、現在のゴルフは8世代目でゴルフ8と呼ばれているが、ゴルフ7同様の後期型、ゴルフの最高傑作と呼び声の高いゴルフ7.5に相当する後期型の8.5は出てくるようだが、ゴルフ9は登場しないと予想されている。ゴルフの後継車はやがてフル電動のID.シリーズに引き継がれるようだ。
フォルクスワーゲンの電気自動車の世界戦略車
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2022年11月に日本に上陸したID.4は、ルーフレールを備えていることからも想像できるように、いわゆるクロスオーバースタイルを纏った電気自動車だ。また、フロント周りに空気を取り入れるグリルがないことが電気自動車の証でもある。
フォルクスワーゲンの電気自動車専用プラットフォームMEB(modular electric drive matrix)を用いたボディのサイズは全長4585×全幅1850×全高1640mm。ホイールベース2770mm。駆動方式は電気自動車として効率的であり、ボルボの電気自動車も採用するRR=後輪駆動となる。サイズ的には同じく電気自動車の日産アリアに近く、日本の路上での持て余さないサイズだと思えばいい。
プロとライトの2モデル展開
日本におけるID.4はまず、導入記念車的なローンチエディションから発売されたが、現在は上級のプロとライトの2モデル展開となる。両車の違いは少なくなく、プロの場合、最高出力204ps、31.6kg-m。バッテリー総電力量77kWh、いち充電走行可能距離618km(WLTCモード)。ライトは最高出力170ps、31.6kg-m。バッテリー総電力量52kWh、いち充電走行可能距離435km(WLTCモード)となる。モーターの最大トルクは同一だ(装備類の違いは後述)。
タイヤサイズも異なり、プロは下半身を引き締める前235/50R20、後255/45R20。ライトは前後ともに235/60R18サイズとなる。なお、価格はプロが648.8万円。ライトが514.2万円。価格差は134.6万円に達するものの、日本におけるざっくりとした販売比率はプロ8:ライト2だという。
今、電気自動車の購入予備軍が気になるいち充電走行可能距離だが、実際には公表されているWLTCモードより少ないのが当たり前である。が、プロのエアコンなどを使った実質走行可能距離は500km程度とみていい。ただし、具体的にはバッテリーを0%まで使い切ることはあり得ない。実例として、東京~仙台を走ると、走行距離は約380km。電費6.1km/kWhで、バッテリー20%残で到着できる。実質、400kmが無充電で安心して走れる航続距離ということだ(10%残として)。言い換えれば、片道200km程度のドライブ先なら、無充電での往復もできないことはないということだ(走行状況、気温などによる)。
フロントにエンジンを積まない電気自動車はパッケージング面でも有利だ。身長172cmの筆者のドライビングポジション基準でその背後の後席に着座すれば、ガラスルーフ付きのプロで頭上に120mm、膝周りに230mm(日産アリアは同120mm、300mm)の空間があり、フォルクスワーゲンのエンジン車と違い、フロアがフルフラットなため、後席の居心地は温度調整可能な後席エアコン吹き出し口もあって、すこぶる快適である。
後席使用時543L、後席可倒時1575Lの容量(ゴルフ7ヴァリアントは同605L、1620L/VDA)を持つラゲッジルームも十分なスペースがある。実測で開口部地上高750mm。奥行935mm(後席格納時のフロア長は1550mm)、幅995~1260mm、最低天井高590mm。床下には高さ120mmの隠しスペースも存在する。
スターターボタンやシフターが見当たらない!?
さて、ID.4プロの2023年夏登録の最新モデルに乗り込んでみる。始めてID.4を体験するならば、まずはスターターボタンやシフターが見当たらないことに戸惑うはずだ。
ID.4の先進性がそこにもあり、リモコンキーを携えてクルマに近づけばドアロックは自動で解錠され、運転席に乗り込み、シートベルトをしてブレーキを踏めば、メインシステムがONになって走行可能となる仕組みなのだ。よって繰り返すが、スターターボタンは、ない。
つぎに戸惑うのが走り出すためのDレンジに入れる操作だが、これはシンプルなメーターとセンターディスプレーが配置されたインパネ正面のメーターパネル右側にあるシフトダイヤルの操作になる。具体的にはダイヤルを回すことでD/B-N/Rレンジに入り、横のボタンを押せばPレンジに入る。一度覚えてしまえば、これがなかなかの操作性であることが分かるだろう。
シフターをインパネ、小型メーター横に置いたことで、センターコンソールは目いっぱい、収納となり、使い勝手面でも優位に働く。
シフトダイヤルをDレンジに入れて走り出せば、電気自動車だからロードノイズは別にして、ほぼ無音で走り始める・・・とはいかない。静かに走る電動車ゆえ、歩行者対応の「車両接近警報装置」が義務化(新型車は2018年~)されているため、フォーンという約3~30km/hで発せられる警報音がけっこう盛大に室内に侵入するのだ。
とはいえ、約30km/hを超えてからは、これぞ電気自動車!!と言える静かな走行が始まる。0-100km/h加速はプロの場合、8.5秒と俊足なのだが、センターディスプレー右下にあるドライブモード(エコ/コンフォート/スポーツ/カスタム)スイッチを操作してエコモードに入れると、アクセルレスポンス、加速はかなり穏やかになる。つまり、モーター駆動ならではのトルク感を味わうなら、コンフォートモードが基本のモードということだ。コンフォートからスポーツモードにセットすればアクセルレスポンス、加速力はグッと高まるものの、国産の電気自動車のように劇的に変化するわけではない。モーター駆動による直線的な加速力は高まっても、依然、ジェントルさを失わない加速性能であり(実際には速いのだが)、そこがフォルクスワーゲンの電気自動車らしさでもある。
乗り心地に関しては、ローンチエディション・プロの印象は、けっこう硬めだったのだが、走行数千kmでしかない2023年型の20インチタイヤを履くプロは、軽快さある走りが売りのライトとは違う、タイヤサイズ、搭載バッテリーの容量と重量増がもたらすドシリとした重厚感ある乗り味を示しつつ、マンホール越えや首都高の段差を超えてもショックはマイルド。かなり熟成された印象だった。
操縦安定性に関しては、電気自動車の場合、床下に重量物のバッテリーを敷き詰めているため、低重心であることは間違いないのだが、例えばゴルフあたりと比較すれば、さすがにクロスオーバーモデルらしい全高、着座位置もあって、”重心感”は高め。首都高のカーブなどでは、実際の安定感やシートのサポート性は文句なしなのだが、ちょっぴり緊張することになった・・・。これはシートのハイトアジャスターの高さ(位置)によって感じ方が異なるかも知れない。
フォルクスワーゲンのセンターディスプレーにはディスカバープロに代表されるインフォテイメントシステム、ナビが付いているのがこれまでのガソリン(ターボ)車の常識(マップは一部オプション)だったのだが、このID.4には上級のプロであろうと、ナビ機能、マップ機能は付かない。あくまで、スマホと連携させ、スマホ内のマップ、ナビ機能を使う前提のSIM非搭載のディスプレーなのである。スマホがデータ通信料の少ない契約だと、ちょっと困りそうだ・・・。
では、ID.4のお薦めグレードと言えば、プロとライトの価格差は134.6万円と大きいのだが、ファストカーとしてID.4を使うのであれば、プロを推奨する。装備類に関してライトになく、プロにあるのが、先進運転支援システムのオールインセーフティのひとつ、高速道路での渋滞時に大いに助かる同一車線全車速運転支援システムのトラベルアシスト、多数のより先進的なライトシステム、緊急時停車支援システム、LEDマトリックスヘッドライト、電動格納式リモコンドアミラー、3ゾーンフルオートエアコン(後席独立温度調整可能)、450W、12チャンネル、6スピーカーのフォルクスワーゲンサウンドシステム、パワーテールゲート、パノラマガラスルーフ、前席パワーシート、シートマッサージ機能、そして20インチになるタイヤサイズなどである。それらを換算すれば、むしろお買い得と言え、とくにトラベルアシスト、3ゾーンフルオートエアコン、シートマッサージ機能あたりは、あれば有難み十分の装備だと筆者は考える。日本における販売比率がプロ8割というのも頷けるというものだ。
しかし、このID.4がこの先、ゴルフに代わるクラスのクルマ、電気自動車だと思うと、現在、ゴルフ7.5ヴァリアントハイラインマイスターに乗る筆者としては、感慨深いものがある・・・。
フォルクスワーゲンID.4
文・写真/青山尚暉
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