30年前の未来は、現在の今?
ただいまトヨタ博物館(愛知県長久手市)にて企画展「30年前の未来のクルマ」が開催されています。約30年前の東京モーターショーに出展された貴重なコンセプトカーが一堂に揃っていますので、そのころまだ生まれていなかった世代には新鮮で、アラフィフ以上のクルマ好きには懐かしさを感じる企画展です。それぞれのコンセプトカーに盛り込まれたアイデアが現代のクルマにどう生かされているのか? また、なぜ実現しなかったのか?と探したり、考えたりしながらこれからのクルマを考えるのもなかなか楽しいものです。
■GTV(1987年)
●1987年「GTV」
「GTV」は東京モーターショーがまだ晴海で行われていた1987年に展示されたコンセプトカーです。“Gas Terbine Vehicle”を略した車名の「GTV」に搭載されていたのは小型の2軸式ガスタービンエンジン。当時低公害な動力源として注目されていたものの残念ながら実用化には至りませんでした。ただしこの「GTV」に搭載されたバックカメラやエンジンとトランスミッションの統合制御という考え方は現代のクルマに生かされています。クルマとしては商品化されなくても盛り込まれた技術がのちに実用化されるというパターンは意外に多いので、そんな技術を探してみるのもこの企画展の面白さの1つです。ちなみにこの年のトヨタブースのテーマは「Fun to Drive 」でした。
■4500GT(1989年)
●1989年「4500GT」
時代は平成に変わり、会場を幕張に移した1989年の東京モーターショーに出展されたのが「4500GT」です。正式には「4500GT EXPERIMENTAL」といいますが「4500GT」もしくは「トヨタ4500GT」と表記されることが多いようです。「トヨタ2000GTのような本格的スポーツカーを現在のより高度なテクノロジーを使ってふたたび開発したい」という想いが生んだショーモデルで、V型8気筒DOHC、4.5Lエンジンを搭載しています。そういえば1986年にデビューした70型スープラもデビュー当時トヨタ2000GTの精神と魂を甦らせたトヨタ3000GTだと謳っていました。トヨタ2000GTというのはいつの世もトヨタが目指す高性能GTのシンボルなんですね。
この年のトヨタブースのテーマは「Fun to Drive 自動車をとおして豊かな社会づくり ー新たな挑戦ー」
■RAV FOUR(1989年)
●1989年「RAV FOUR」
同じく1989年に展示されたのが「RAV FOUR」。今ではポピュラーなモノコックボディを採用した都会的な小型SUVです。キャッチコピーは「新感覚、都会派4WD」。といいつつこのコンセプトカーには従来のクロスカントリー4WDのワイルドさをまだまだ捨てきれないようでウインチまで備わっていますが、1994年にはすっかりワイルドさを拭い去りポップで遊び心にあふれた都市型SUV「RAV4」へと進化し市販化されます。ちなみに、この「RAV4」のデザインに携わった1人が当時デザイン部に在籍し、現在トヨタ博物館の館長を務めている布垣直昭氏です。
●左からコンセプトモデル「RAV FOUR」(1989年)、市販化された初代「RAV4」(1994年)、現在発売中の「RAV4」(2018年)
■AXV-IV(1991年)
●1991年「AXV-IV」
東京モーターショー史上はじめて来場者が200万人を突破した1991年のトヨタブースのテーマは「いいクルマってなんだろ」。
AXVは“Advanced Experimental Vehicle”の略。ボディシェルにはアルミ素材、フロアはアルミハニカム、ドアインナーやディスクホイールにマグネシウムを採用。バネ作用も兼ねたFRPサスペンションアームなどの技術も採用し徹底的な軽量化を果たした結果車重はなんと450kg。エンジンは2サイクル水冷直列2気筒DOHCスーパーチャージャーで64馬力。トヨタの技術で挑んだ地球にやさしい超軽量高効率パーソナルコミューターが「AXV-IV」です。
■AXV-V(1993年)
●1993年「AXV-V」
1993年にトヨタが出展したのが「AXV-V」。大人4人がゆとりをもって座れるパッケージでありながらCd値=0.2を達成しています。2L・4気筒のD-4エンジンを搭載し、空力と高効率エンジンの両面から低燃費を目指しています。究極の軽量化を目指した91年の「AXV-IV」とは違うアプローチで環境にやさしいクルマづくりを目指した1台です。この年のトヨタブースのテーマは「もっと、ハーモニー」。
■MRJ(1995年)
●1995年「MRJ」
1995年に出展された「MRJ」は2代目MR2をベースに2+2の4人乗車として電動ルーフを装備したコンセプトカーです。市販化には至りませんでしたが、トヨタの欧州デザインセンターの手によるデザインは1999年に発売されたMR-Sに継承されています。この年のトヨタブースのテーマは「a touch of happiness ~クルマによる新たな喜びの創造~」。
●「MRJ」は2+2の4人乗車として企画されていました
●デザインを担当したのは当時の欧州デザインセンターToyota Europe Office of Creation(Toyota EPOC)
■モーグル(1995年)
●1995年「モーグル(Mogules)」
「モーグル」は林業従事者の負担を減らすべく開発された山地走行実験車という変わり種。傾斜した不整地でもつねに車体の水平を保つ最大500mmの車高調整機能を備えています。また運転席を中央に配置し、フロントガラスの下端を低くして足元の視界を確保したインテリアなど、実用本位のデザインは林業に従事していない人にとっても個性的なRVとしてなかなか魅力的なクルマだと感じます。
■e・com(1997年)
●1997年 e・com
1997年に出展された「e・com」は街なかの近距離移動に絞った2人乗り小型電気自動車です。全長2790mm、車幅1475mmは1台分の駐車スペースで2台利用でき、AC100Vで充電できる手軽さも魅力です。デザインは自動車のほか船舶などさまざまなプロダクトデザインを手がけるトヨタデザイングループのテクノアートリサーチが担当しています。
●自動車のほか船舶などのデザインも手がけるテクノアートリサーチがデザインを担当しています
■セラ(1990年)※市販モデル
●1990年発売「セラ」(1987年「AXV-II」の市販モデル)
展示スペースの中央に展示されているのが1990年に市販された「セラ」。1987年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「AXV-II」の市販モデルです。グラスキャノピーやバタフライドアなど多くの特徴を備えた「AXV-II」でしたが、若い世代にはクルマ自体のアイデアもさることながら、このようなコンセプトカーが市販化にこぎつけたことこそが驚きだそうです。確かに30年前ってそういう時代だったような気がします。この企画展の中央に展示するにふさわしい象徴的な1台と言えるでしょう。
■トヨタ博物館のキャストの制服でみるファンションの移り変わり
企画展ではトヨタ博物館のキャストの制服の展示も行っています。航空会社のCA(客室乗務員)の制服コレクションは見かけることもありますが、そのトヨタ博物館バージョンと言えそうです。開館した1989年の春モデルから1999年の秋モデルまで8着を展示しています。
●写真左から 1989年春モデル 1990年夏モデル 1990年春モデル 1993年秋モデル
●写真左から 1994年春モデル 1996年秋モデル 1997年春モデル 1999年秋モデル
●現在の制服です
つねに次世代のクルマを提案し続けるコンセプトカーですが、夢と遊び心にあふれた80年代後半から、環境に対する配慮を強く打ち出した90年代とその立ち位置はさまざまでした。展示のためのクルマですから長い年月を耐えるような作りになっていないものも多いそうで、30年の歳月を経て展示された今回のクルマたちは非常に貴重な存在と言えそうです。
■問い合わせ先
トヨタ博物館
https://toyota-automobile-museum.jp
0561-63-5151
〈文&写真=高橋 学〉
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みんなのコメント
モーターショーの時はコンセプトカーの周りは混雑してなかなか近くで見れないが、後日ショールームなどで展示してもあまり注目されない印象がある。
1989年にモーターショーで4500GTを撮影して、ステイホーム中にフィルム写真のデジタル化をしていたら、4500GTの写真が見つかりました。
昔撮影した車が、平成を生き抜き令和に再開出来たのは、ちょっとした感動物でした。
会場には、プリンセス プリンセスの「ダイヤモンド」など懐かしい曲もかかってましたよ。