FCV(燃料電池車)として登場したホンダクラリティ。そのクラリティをより実用性の高いプラグインハイブリッドとしたのがクラリティPHEVだ。
登場当初から588万円という値付けに多くのジャーナリストから批判があったが、実際に乗ってみての評価はさまざま。
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今回はそんなクラリティPHEVと登場から5年が経過したBMW i3を試乗車として用意。新時代のパワーユニットを乗り比べます。
文:水野和敏/写真:池之平昌信
ベストカー2018年2月26日号
■試乗前の外観チェックで浮き彫りになる設計思想
さて、今回は来るべき「電動化時代」に向けたクルマを取り上げていきたいと思います。
ホンダのクラリティPHEVとBMWi3です。i3はずいぶん前に、日本に導入された直後、試乗会にお邪魔して評価をさせていただきました。
あれから5年経ち、改良も進んでいるでしょうし、また、その時は都内の一般道のみでの試乗だったので、やはり"いつもの"コースで確認をしたいと思います。
クラリティPHEVは純粋な電気自動車ではなくプラグインハイブリッド車ですが、ホンダのこのハイブリッドシステムは一般道を走る速度域ではモーターだけで走り、エンジンは発電に使われるのみ。走行感覚はEVそのものです。
比較的容量の大きなバッテリーを搭載し、EV航続距離が長いというのがクラリティPHEVの特徴ですが、それにしても価格が高い。
588万円というのは、ちょっと現実的な価格ではありません。北米では3万3400ドルなので米国人にとっての価格感覚だと350万円程度です。
この程度が妥当な価格と言えるのではないでしょうか? 実際にクルマを見ても400万円を超える質感や仕様を感じるクルマではありません。
350万~380万円程度がリーズナブルな価格でしょう。
i3は発電用補助エンジン付きのタイプです。やはりピュアEVだと都内から箱根方面の往復だと、ちょっと不安です。
高速道路SAでは各所に急速充電機がありますが、30分の充電時間は急いでいるときには厳しいですし、必ずしも空いているとは限りません。
レンジエクステンダー搭載だと安心できます。
クラリティのエクステリアを見ると、外板のパーティングの作りが粗く、隙間の大きい部分では内部の臓物が見えてしまっていますし、グリルとフードの繫がり部分などでも大きな段差ができてしまっています。
正直なところ、500万円を超えるクルマの作りや、価格に見合ったパーシブドクォリティは感じられません。
造形部門が出したデザイン3Dデータに"規定のパーティング線をCADで入れただけの設計と作り"を感じます。
はたしてCADのオペレーションさえあれば専門技術もノウハウもクルマの開発には不要なのでしょうか?
「下から見る時、上から見る時、そして斜めに見る時」など、見る条件や「斜め傾斜面、前後にずれた分割面、変化する曲面」など、パーティングを設ける目線の位置や面の形状によってパーティング隙間は「広く見えたり狭く見えたり、波打って見えたり」と変化します。
このような見栄えに影響する条件を推定し「隙間の見栄えが一定になるように補正すること」こそが質感作りで、このためには補正する技術やノウハウが必要となり、これこそが"設計する"ということだと思います。
ベンツなどは完璧にパーティング隙間の見栄えを補正して設計しています。原価も時間もかかりません。
大切なのはエンジニアの技術とノウハウと質感への訴求力だけなのです。500万円以上という値付けに対して、クラリティの答えはどうなのか、ということです。
■リアにスパッツを設ける必要性が本当にあるのか?
リアの荷室を開けると、支えのダンパーが弱すぎて、今日のように風が吹いている状況では勝手に閉まってしまいます。
もうちょっとダンパーを強くしないと危ないと思います。荷室そのものもけっして広くはありません。
下にバッテリーが収められているとしても、ちょっと荷室床面が高すぎます。形状にもうちょっと工夫がほしいです。
エンジンルームは、まあ取り立てて特別なことはありませんが、特にカバーなどで覆われているわけではなく、ごくごく普通のエンジンルームといった雰囲気。
ただ、クルマのサイズを考えると、エンジンルームのスペースは大きい。ベンツならばCクラスレベルの大きさです。
大きさのわりに細部の設計が上手く生かされていない印象です。例えばエンジンの吸気パイプですが、スロットルチャンバーから各気筒へのインテークへカクッと90度曲げている。
レゾネーターも容量が小さすぎて吸い込んだ空気が均等化しません。これでは奥の3番、4番シリンダーに優先して吸気が流れて、1番や2番シリンダーへの吸気は不足気味になってしまいます。
せっかくエンジンルームに広さがあるのだから、もっとパイプの取り回しやレゾネーターの容量に余裕を持たせることができるはずです。
燃費が重要なクルマなのでデザイン形状だけでなく、空力についてもきちんと重点訴求してほしいです。
フロントバンパーのヘッドライト下の部分など、こんなに尖らせてはその後ろは渦の発生源。
さらにLEDのアクセサリーランプが入っている左右の角の部分も同様です。バンパーの尖った部分との段差があり、この段差で風の流れが乱れ、渦ができてしまいます。
さらに、サイドに回り込む部分がフラットな形状となっていますが、これでは前輪のホイール面にもろに風がぶつかってしまい、また渦ができる。
この後端部分は、風が外側に変化するフィレット面を作り、タイヤに直接風を当てず、むしろホイールハウス内部に溜る空気を吸い出す形状にして、空気抵抗と、持ち上げる力=リフトを低減させた方がよいと思います。
ただし、そもそもホイールアーチが大きすぎるので、フェンダー内部に風を巻き込み溜め込んでリフトや抵抗を発生してしまいます。
サイドからリアにかけての形状は……、うーん、リアドア下部に整流のためのダクトを設けています。
これにより後輪ホイール側面にスムーズに風を流そうとしているのはわかります。しかし、もともとの形状でホイール側面と外板に段差があるため、このような後処理的な仕掛けが必要なのです。
トランクリッド上部後端も直線的ですが、この部分はちょっと風が上方に流れるような形状としたいです。
現状の形状だと、ちょっと濃色ガラスになっているガーニッシュ部に渦ができて負圧となるために、雨の水滴や跳ね上げる泥がこの部分に付着し、汚れてしまいやすくなります。
クラリティのリアフェンダー部分はタイヤを上半分覆うスパッツのような形状としていますが、これは空力技術が古かったころの処理。
最新のBMW5シリーズのCd0.22とか、ベンツEクラスCd0.23でリアにスパッツが付いていますか? ということです。
■シティコミューターとしてi3の実力はいかに?
一方、i3はシティコミューターというコンセプトでもあり、ハイスピードクルーズをするクルマでもないので、そもそも空力をそれほど追求していないでしょう。
これはこれでいいと思います。
それにしてもi3は今見ても"近未来"で、新技術の展示会みたいなクルマです。
BMWにしてみれば、このモデルは「とにかく新しいコンセプトでEVを作りましたよ」というところで、一番の関心事は「次の一手」です。
新素材を開発し、新たな工場でCO2を低減して生産していくなど、これらの技術を今後次期型でどのように発展させていくか? どのようなクルマを作っていくか? です。
とはいえ、初期モデルからずいぶんと変わりましたね。細かいところを改良して洗練されています。
都内から箱根まで約100km走って来て、まだ40km走れるバッテリー残量があるのですから、かなり実用的だと思います。
レンジエクステンダー分も合わせれば走行可能距離は140km残っています。他車での採用には至っていませんが、i3のタイヤは実に合理的なのです。
155/60R20という、細くて大径というのが一番いいのです。転がり抵抗が少なく、ブレーキ接地長がとれる究極は自転車の大径細幅タイヤです。
幅広タイヤで接地面積を稼いでも、実際のコーナリングではキャンバー角の変化が発生して接地面変化が起こるので、実はあまり意味がないのです。
むしろ路面に対して縦方向の接地面積を大きくすることで転がり抵抗を小さくしながら駆動や制動時の接地や旋回時のタイヤCPをより大きく確保できるようになるわけです。
クラリティのタイヤは、サイズ的には一般的な235/45R18ですが、転がり抵抗を大幅に低減する仕様を採用しています。
トレッド面とサイドウォールを繋ぐショルダー部がものすごくソフトで薄い構造。路肩干渉などでの破損を考えなければ、転がり抵抗低減のキーとなる技術なのです。
■i3には使いやすさの点で改善を求めたい
i3の充電ポートはフロントフード内にあるので、ちょっと使いにくいです。
冬の寒い日に帰宅してフードを開け、200Vの充電をセットし、冷え込んだ翌朝出かける時にフードを開けて太くて硬く汚れたコードを束ねて収納して……というのは、やはり不便。
一戸建てならばまだいいですが、マンションの駐車場などでは充電用電源が用意されていたとしても、使いにくさを感じます。
コードを車体にビルトインして、掃除機コードのように、シュルシュルと出し入れできる充電ケーブルはできないものでしょうか? これではEVの普及など進みません。
もちろんこれはi3に限った話ではなく、すべてのEV、プラグインハイブリッド車共通の話です。
雨の日や雪の日など、クルマが汚れていたりしたら、ケーブルの抜き差しは衣服が汚れますし、かなり面倒です。
屋根付きの駐車場に止めている人など、ほんの一部です。クラリティの室内をチェックします。
センターコンソールにしても、ナビモニター画面にしても、すべてが取って付けたようなデザインで、インテリアに溶け込んでいません。
モニター画面はタブレットをポンと置いたような、今どきの室内感覚効果を狙ったデザインなのでしょうが、一体感がなく、高級感はありません。
シートはいいです。フィット感があります。高級感のある座り心地です。バイザーの表面にカードポケットがありますが、これはダメ。
見える場所にこのようなものを付けては盗難の対象になってしまいます。カードポケットを付けるのならバイザーの裏側の見えない場所にすべきです。
後席は足元の広さ感を感じます。ただ床はちょっと高く、膝が上がってしまう姿勢を強いられます。
一方、頭上スペースはルーフ後端部でドア開口部に繫がる両サイドが低い。頭上の高さそのものは充分クリアランスがありますが、後席にしっかりと座ると頭側面がちょっと気になります。
トランクリッド後端の、ガーニッシュ部がガラスになっていますが、意味が不明です。おそらく、バッテリー搭載により荷室床面が高くなり、荷室容量確保のために高さをとる必要があり、後方視界が悪くなるのを避けるため、ということでしょう。
それはわかるのですが、だったら、トランクリッドを保持するために、パーシェル部左右に這わせ、下に出っ張っているトーションバーをやめて、アーム部分にコイルスプリングを入れてやればいい。
トーションバーを外すことで10センチ程度はパーセルを下げることができるので、こんな覗き窓は必要なくなります。もっといろいろな工夫があると思います。
i3は後席を前倒しできますが、ドイツ車にしては珍しく荷室から完全フラットなフロアにできるのは感心します。クラリティの後席も前倒できますが、ロック部の引っかかり金具が床面に出っ張っていて、荷物を積む際に邪魔になります。
i3の後席はボディサイズを考えれば足元も頭上も充分なスペースが確保されています。ちょっと床が高く膝が上がってしまいますが、充分許容範囲です。
シートそのものは前後席ともに見た目にはずいぶんと薄っぺらく見えるのですが、座り心地はフィット感があって不満はありません。
旅客機のエコノミーシート技術です。シートはクッションが厚ければいいというものではないのです。
■i3に乗ってみて感じることとは?
アクセルペダルを離すと強力な回生ブレーキで後ろから引っ張られるように減速します。馴れてしまえばアクセルペダルの踏み加減だけで速度調節が可能。
街中でもブレーキペダルをほとんど踏むことなく走ることができます。走りは静かで上質感があり、よいです。
モーターの後輪駆動なので、後ろからグイグイ押し出す感覚が気持ちいい。上り坂でも動力性能は2Lエンジン級の感覚。
アクセル操作に対するレスポンスはガソリンエンジンの比ではなく、踏めば瞬時に反応し、トルクがドンと出てくる。
リアがどっしりしていて、フロントが軽快に動くという、スマートの運転感覚に似ています。小回りも効くし、運転していて楽しいです。
細いタイヤですが大径なので接地長が確保されており、充分な横グリップが出ていて、操舵に対しジワリとフロントが反応し、リアはどっしり安定しています。
長手方向に接地面を取っているタイヤなので、操舵に対し接地面がよじれるような動きをします。
そのため初期の応答性はけっしてシャープではないのですが、ジワリとスリップアングルが付き、グリップがスパッと抜けるようなことがなく、とても安定しているのです。
ただ、タイヤのエア圧の管理はシビアだと思います。内圧が下がるとタイヤがよれてしまいます。
車高は高いのですが重心の高さは感じません。バッテリーが低い位置に搭載されているためとても安定しています。
■クラリティPHEVは乗ってどうだ?
このクルマはタウンスピードだとモーターだけで走行しているのですが、アクセルペダルを大きく踏み込むと、発電量を大きくするためエンジン回転が上昇するので、あたかもエンジンで走っているような感覚になります。
大容量のバッテリーを低い位置に搭載しているため、重心の低さを感じます。ドッシリとした動きです。乗り心地はとてもいいです。
タイヤがちょっとよれる印象です。サスペンションやボディはガッチリとしています。特にボディのリアは頑強。
リアフロアとキャビンが一体となりしっかりしています。サス自体もガッチリとしていて無駄な動きはありません。
操舵に対する反応の遅れはすべてタイヤのヨレが原因。低転がり抵抗のエコタイヤにすると、どうしてもショルダー部をソフトにするため、この部分でのヨレが出てしまうのです。
これは現在の技術ではやむを得ない部分です。このタイヤのソフトさが乗り心地のよさにも繫がっています。
ロードノイズも小さいです。一方サスペンション自体はけっこう固いです。タイヤに合わせたチューニングです。
乗り心地が硬くなることを厭わなければ、スポーツタイヤでも充分に履きこなせる足とボディの底力は持っています。
ピュンピュン走るスポーティなハンドリングになります。1850kgという重たい車体を支えるためには、ガッチリしたボディ剛性と硬いサスペンションが必要なのです。
重さはベンツEクラスやBMW5シリーズ級です。このあたりはとても上手にセットアップしていると思います。
ただ、トータルでのECO、地球環境ということを考えた場合、ここまで重いクルマというのが果たして本当に良いことか? という疑問があります。
このサイズならば1500kg程度が一般的。つまり350kg程度重いわけです。重ければタイヤにもブレーキにも負担がかかるし、製造時や廃却時の資源負担も大きい。
エコロジーは製造から使用、そして廃棄までトータルで評価しなければならない問題だと思います。
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