ロードスポーツ、スクランブラー、デュアルパーパス、そしてアメリカン(今で言うクルーザー)など、得意分野に特化したモデルの作り分けは1970年代から見られたものの、1980年代に入ると、国内市場ではさらに多様化。
「これはどんなカテゴリー?」と、不思議に映るモデルが時に登場した。話題をさらったものから、時代にフィットせずにスルーされたものまで、当時カテゴリー不明に思われたモデルの数々を当記事では紹介していこう。
ヤマハ タウニィ(1980年3月発売)「男だってソフトバイク!?」
【画像21点】タウニー、ラクーン、シルクロード、ビート、FT400……80年代の国産車はジャンル分け不能だ!?
買い物袋を手にした男(サックス奏者の渡辺貞夫)がバイクに戻ってくると、工事現場のおじさんがそれをしげしげと見つめている。「いいなぁ、これ」「いいでしょ、これ」。見慣れないバイクを前にした、ぼんやりした会話のテレビCMが流れたのは1980年──。
気軽に乗れる移動手段としてスクーターとも異なるソフトバイクというカテゴリーが1970年代に生まれたが(基本、50ccの原付)、アンダーボーンフレームの小柄な車体やAT変速装備で、ほとんどが女性向けのモデルだった。
そこに登場したのが、直線的なフォルムと大きめの前後輪を採用したタウニィ。キャッチフレーズは「男のソフトバイク」。宣伝効果もあり同車はヒットしたが、「ソフトバイクと男」は高性能車で盛り上がっていた時代には結果的にフィットしなかったのだろう。最高出力2.8psの空冷2ストエンジンにはオートマチック2段変速を組み合わせ、シャフト駆動を採用。当時価格は8万9800円。
ホンダ ラクーン(1980年3月発売)「原宿バイクでアライグマ!? 色んな意味でクロスオーバーな混迷モデル」
原付50ccにも、ロードとオフモデル、そしてアメリカン風モデルが揃えられるようになった1980年前後。ホンダがオンロードのMB5、オフロードのMT50に続いて同系2スト単気筒エンジン搭載で発売したのがラクーン。
車名は行動的で可愛らしい「アライグマ」(当時の認識。近年は放逐されたペットなどが害獣化し、負のイメージが強い)に由来し、キャッチフレーズは「ザ・原宿バイク」。おしゃれな街に似合うカジュアルなレジャーバイクをねらったものの、マシン自体はアメリカン風フォルムのマニュアル変速車。
ペットネーム付きの可愛いレジャーバイクといえば、モンキーやダックスなどが連想されるが、このフォルムでアライグマって? と、思う人は多かろう。カタログ表紙は妙に弾けている。最高出力7ps、当時価格13万6000円。
ホンダ CM250T シングルシート&リヤキャリア付き仕様(1980年10月発売)「和製アメリカンで実用車仕様という変化球」
1970年代後半、チョッパースタイルの車体に既存のロードモデル用エンジンを搭載した、日本製アメリカンが各社から登場。
自由で大らかなスタイルで走る開放感がイメージされるカテゴリーだが、日本人は働き者だ。くたびれたオジサンだって、疲れないポジションだから仕事の足に使ってくれるだろうと思ったのか定かではないが、シートは完全に単座としてリヤキャリアを標準装備したモデルが現れてくる。
おしゃれとは真逆の「アメリカン実用車」は、カテゴリーが構築されるまでには至らなかったが、その後125ccクラスも含めて意外と根強く存在。その一例がCM250Tだが、同車はCB250Tホーク系空冷2気筒エンジン搭載で、最高出力26ps。テイスティではなかろうが、実用的で乗りやすかったはず。当時価格は33万8000円。
ホンダ シルクロード(1981年3月発売)「夢多き大人たち向けに生まれたトレッキング・バイク」
オンオフ系モデルは、1970年以降各社で種類が豊富になったが、前輪23インチのホンダXL250S(1978年~)が特に林道ブームの立役者になった。そしてこのカテゴリーは需要の細分化がまだ可能と考えたのか、よりニッチなモデルを発売。
壮大なスケールの印象的な車名で、あえて採用したシングルシートの理由をカタログでは「リアに旅の小道具を積むための、いわば、男のキャパシティを確保するための配慮です」と記す。「男の道具。トレッキングバイク」の表現もあり、「男の~」がそこかしこで使われ時代を感じさせる。
車輪はオフ系で主流の21インチではなく、19インチ。積載性重視の仕様も含めて今のアドベンチャー系に通ずる面があるものの、1速より低いスーパーローギヤなど、同車のキャラクターを混迷させる装備も付く。だが、そんな希少性も含めて愛好家がいたりもする。XL250S系の空冷4スト単気筒は最高出力20ps、価格は33万8000円。
ホンダ モトコンポ(1981年10月発売)「久びさに出た4輪収納系バイク」
1970年前後、ホンダはレジャーバイクのモンキーとダックスに前輪分離機構を採用。4輪のトランクに積める機能をアピールしたものの、そうしたニーズがさほど高くないことで長続きしなかった。
だがそれから約10年、ホンダはまた車載に特化したコンパクトモデルを開発。車名はモト(=モーターバイク)+コンポ(=コンパクトオーディオの通称)という合成造語。初代4輪シティのトランクにぴったり積めるという特殊なアピールで、ハンドルとシート、ステップを箱型ボディに収納できるのが特徴。
シティを買わなくても単体購入できるが、セット販売のイメージを抱かれてか販売台数は伸び悩んだ模様。2スト空冷単気筒搭載で、最高出力2.5ps、価格8万円。ほぼ同時期に、ハンドル折りたたみ機構を採用したタイプも設定された同種のミニスクーター・スカッシュ(8万8000円~)も発売された。
ホンダ ストリーム(1981年11月発売)「第3のクルマを標榜したスリーター」
流麗なフォルムを持つトランク付きのフロントボディ、スクーターのようなステップボードの後方には背もたれ付きのシート、そして独立したエンジン&駆動部は左右に小径ホイールの2輪。前=1輪、後=2輪のスクーターとしてスリーターの造語とともに登場した同車。
新しい乗り物の流れ=ストリームを目指す意図から生まれた新種で、エンジンハンガーのスイング部にナイトハルト(ゴムスプリングの捻じれによる復元力を持つ構造)機構を装備。前ボディが左右にバンクする新感覚の安定した乗り味をねらった。
ホンダは同構造のロードフォックス、ジョイ、ジャストなども発売したが、いずれも短命だった。空冷2スト単気筒49ccエンジンは最高出力3.8ps、価格19万8000円。なお、車名は2000年以降4輪のミニバンに使われ、そちらの知名度のほうが高いだろう。
ホンダ FT400/500(1982年6月発売)「フラットトラッカーとは? 時代を先取り過ぎたダートラ風レプリカ」
FTとは=フラットトラッカーの頭文字から取られたものだが、1980年代前半に、こう聞いてフラットな土路面のオーバルコースを周回するアメリカのレースを想像する日本のユーザーはなかなかいなかったはずだ。
同車がどんな意図で作られ、どんな受け入れられ方をしたか別記事にまとめたことがあるが、実際に同車はマニア受けした一方で、広く受け入れられずに一代限りで終了。
最高出力は27ps(FT400)/33ps(FT500)、当時価格は42万3000円(400)と42万8000円(500)だった。
その後、実質的な後継車として1986年にFTR(250cc)が発売されるが、FT400/500同様に火は着かず。ただし絶版となってしばらく、1990年代後半から2000年代前半にかけストリートカスタムのベース車として中古FTRの人気が高騰。その影響もあってFTR223が2002年に発売されダートトラッカーブームは小開花したものの、1カテゴリーに発展するほどには至らなかった。
ホンダ モトラ(1982年6月発売)「高い登坂力やタフな積載力は、誰のため?」
モーターサイクルにトラックのような無骨さと積載性を盛り込んだ造語を車名に、突如市場にリリースされた印象の強い50ccレジャーモデル。特殊なバックボーンフレームに搭載されたスーパーカブ系の4スト単気筒エコノパワーエンジン(49cc)は、通常の3段に低速3段のサブミッションを装備。荷物を積載しつつ約23度の勾配を登れる力をアピールした。
ボディ前後に荷物を安定して積めるパイプ製の大型キャリアを装備し、積載時にも安定した走行性を誇ったものの、高性能でレーシーなモデルがもてはやされた時代の中で、そのアピールは響かなかったが、今ならその希少な面白さに注目する向きは存在するかも。最高出力4.5ps、価格16万5000円。
ホンダ ジャイロX(1982年10月発売)「今なお続くスリーターシリーズ唯一の成功例」
ホンダの前1/後2輪のスリーホイールモデル、スリーターシリーズの第2弾で発売されたのが、実用的な荷台を前後に備えたジャイロX。スリーター系モデルの中で、今に続く唯一の成功例だ。
ワンタッチパーキングや、ノンスリップデフ、スイング機構など76(特許、意匠、実用新案の出願合計件数)ものホンダ独自の先進技術が入っているというジャイロシリーズは、屋根付きのキャノピーなどバリエーションも拡大し、エンジンは空冷2ストから水冷4ストに変更され、各部を進化させつつ現在も販売される。
異例の長寿シリーズながら、ほかにライバルモデルが不在のためカテゴリーは生まれなかったが、ジャイロがそのカテゴリーを象徴する存在とも言えよう。初代は空冷2スト単気筒搭載で、最高出力5ps、当時価格は17万9000円。
ホンダ ビート(1983年12月発売)「突き抜け過ぎた!? 高感度スクーティング」
スクリーン付きで大きく傾斜したカウルのフロントノーズが目を引き、スクーターカテゴリーから突き抜けたビート。ビンビン反応「高感度スクーティング」をキャッチコピーに、攻めたデザインのボディだけでなく、パフォーマンスも飛び抜けていた。50ccスクーター初となる水冷2スト単気筒エンジンを搭載し、最高出力は当時の原付の自主規制値上限である7.2psを誇ったのだ。
そして、左足ペダルでトルク特性を切り替える排気デバイス「V-TACS」も同車の大きな特徴だった。低回転域でトルク感を補助するサブチャンバーを中回転以上で閉じ、高回転域での高出力をねらった機構だ。
また、密閉型MFバッテリーや2灯式ハロゲンヘッドライトなども2輪車として世界初採用。「技術のホンダ」が詰まった意欲作で、原付スクーターレベルを突き抜けた内容だったものの、15万9000円という高価な価格とスクーターを越えたデザインが、若者には刺さらなかったのか──。
後にも先にも見かけない同車は、スクーターなのにスクーターらしくないという意味で、カテゴリーレスなモデルと言えるかもしれない。
まとめ●モーサイ編集部・阪本 写真・カタログ●八重洲出版アーカイブ
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