■扱いやすく多様性を持ったオールラウンドモデル
1990年代を中心に、ドゥカティのシェア拡大に大きく貢献したモデルがありました。それが通称SS(エスエス)と呼ばれた「スーパースポーツ」シリーズです。2006年に一度生産を終えたものの、その名前が2017年に復活。まったく新しいスタイルと機能を身に着けて登場したモデルが、この新生スーパースポーツなのです。
ドゥカティは、初の4気筒エンジンを搭載したモデル「Panigale V4(パニガーレV4)」を発売
ところで、今スーパースポーツと言えば、一般的にはレース上等のハイスペックモデルのことを指します。ドゥカティならパニガーレ、ヤマハならYZF-R1といった200ps級のマシンがそれに当たりますが、ここからはそれとの混同を避けるために「SS」と記していくことにします。
そもそも、なぜこのタイミングでSSがよみがえったのか? その事情をドゥカティジャパンのPR&マーケティングダイレクター五条秀巳さんに聞いてみました。
「近年のドゥカティには様々なキャラクターのモデルがあります。速さを突き詰めたパニガーレ、冒険の旅を可能にするムルティストラーダ、大型クルーザーにはディアベル、我々がポスト・ヘリテイジと呼ぶクラシックスタイルにはスクランブラー・・・・・・といった具合に実に幅広いカテゴリーをフォローし、それぞれ得意分野を持っています。そんな中、今のドゥカティに足りないものがあるとすればなにか?それを真剣に検討していった結果、このSSのスタイルに辿り着いたのです」
つまり、なにかに特化しているということは決定的に苦手な部分があることを意味します。現在のドゥカティは良くも悪くもそういうキャラが立っていて、スタンダードと呼べるのはモンスターくらいでしょうか。とはいえ、そのモンスターもネイキッドゆえ、高速巡航時の快適性は優れているとは言えません。
そこでドゥカティの開発陣はこう考えました。「ストリートで扱いやすく、ロングランも快適で、ドゥカティらしいスポーツ性とスタイリッシュなデザインを併せ持つ、そんな多様性に富んだモデルを作るべきじゃないか」と。かつてのSSはそれに近い性能を持っていたため、意見が一致。言わば、全ドゥカティのイイトコ取りをした究極のオールラウンダーとして送り出されたのです。
■上質で穏やかな乗り心地はライダーの好みに合わせることも可能
果たしてそんな都合のいい話があるのか? ここからはそれを試していきましょう。
まずライディングポジションですが、セパレートハンドルは高い位置にセットされているため、上体の前傾度は緩やかです。しかもハンドルとシートの距離は比較的短く、小柄なライダーでもバイクがコンパクトに感じられるでしょう。
アシスト機能付きの軽いクラッチレバーを操作しながらスタートすると、たっぷりとしたトルク感にまず驚かされます。3000回転で最大トルクの80%を発揮するということなのでそれも納得。極低速でややギクシャクするのはドゥカティの宿命のようなものでしたが、SSにそれは当てはまらず、ペースの遅い街中でもスムーズと走らせることができます。
このフレキシブルな特性はコーナリングでも有効で、立ち上がる時にスロットル全閉、あるいは低回転域だったとしても右手をひねるだけで回転は軽やかに上昇。気難しさはまったくなく、その時にタイヤから伝わってくる「タタタンッ」というトラクション感に2気筒エンジン特有の魅力が詰まっています。
そのまま回転数を上げていっても出力特性が急変する領域はありません。それでも手に余るようなら、スポーツ/ツーリング/アーバンの3種類が設定されているライディングモードの内、アーバンを選べば問題は解決。最高出力が110hpから75hpに抑制され、トラクションコントロールの介入度も早くなるからです。
ハンドリングもエンジンの穏やかさに合ったものです。オーリンズ製のサスペンションはしなやかにストロークし、ブレーキングや加速に応じて車体は明確にピッチングしてくれます。そのため挙動が掴みやすく、上質な乗り心地をキープしたままタイヤはしっとりと路面を追従。ライダーはおっかなびっくりすることなく、理想のラインを描くことに熱中できるのです。
■フレンドリーなドゥカティ、それが「SS」
多くのドゥカティは、排気量やパワーがどうであれ、限界点を探りながら少しずつ一体感を高めていくような慣れが求められます。ところがこのSSはそのプロセスを必要としません。長年の愛車のように最初から体に馴染む、おおらかさが最大の魅力と言えるでしょう。
また高速巡航にも優れ、高さ調整が可能なスクリーンやフルカウルのおかげで抜群のウインドプロテクション性能を披露します。サイドケースなどのオプションも充実しているため、荷物を詰め込んでロングツーリングに出掛けるもよし、レーシングスーツを積載してサーキットでスポーツ走行するのもよし、とその楽しみ方はオーナー次第です。
「オーナーになられた皆さんはエッジの効いたスタイルからは想像できない快適性に驚かれています。傍目にはまるでスーパーバイクのようにも見えますが、またがった時のフレンドリーさにいい意味でのギャップを感じて頂いています。また、ビギナーの場合、ドゥカティに乗りたくても車体の大きさやパワーで断念せざるを得ず、消去法的にモンスターを選ばざるを得なかった方も少なくありません。そこにSSという選択肢が加わったわけですから、ぜひ試して頂きたいですね。また、スーパーバイクはそろそろ体力的に不安というベテランの方にも高い評価を頂戴しております」と五条さん。
誰が乗っても純粋に「楽しい!」と思えるドゥカティがこのSSなのです。
今回は前後にオーリンズ製サスペンション、ギヤのアップにもダウンにも対応するクイックシフター、リヤシートカバーを標準装備した上級グレードの「スーパースポーツS」に試乗しました。価格は180万9000円(レッド)と183万9000円(ホワイト)です。
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