現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > SUVとスポーツカーの壁は過去のものになった──新型アストン・マーティンDBX707試乗記

ここから本文です

SUVとスポーツカーの壁は過去のものになった──新型アストン・マーティンDBX707試乗記

掲載 1
SUVとスポーツカーの壁は過去のものになった──新型アストン・マーティンDBX707試乗記

アストン・マーティンのスーパーSUV「DBX707」に、あらためて試乗した今尾直樹が驚いたワケとは?

「スポーツカーのソウルをもつSUV」

新型ヒョンデ・コナ登場──日本にもやってくるぞ!

SUVのスーパーカーの新しいチャプターが始まった。アストン・マーティンDBX707で初めて箱根ターンパイクを走って確信した。

小山のようなSUVなのに、DBX707はスポーツカー顔負けの動力性能とハンドリングを持っていたのである。昨年、都内で試乗したときから、そうだろうなぁ、と思ってはいたけれど、実際に体験してみると、もうビックリ!

SUVでも、もうちょっとコンパクトなクラスでは前例があるかもしれない。でも、DBX707はホイールベース3.0m超で、全長×全幅×全高=5039×1998×1680mという巨体である。車重はこのクラスでは軽量とはいえ、2310kg(車検証値)ある。スーパーヘビー級であることは疑いない。

スーパーヘビー級というのはどうしたって動きは遅い。それがDBX707は違うのだ。京の五条の橋のうえ、大の男の弁慶が長い長刀振りあげて、(中略)前やうしろや右左、ここと思えば、またあちら、燕のような早業に、牛若丸をあやまらせちゃったみたいなことをやってのけるのだ、このイギリスの名門が生み出したスーパーラグジュアリーSUVは。ビックリ! と、何度繰り返しても、つーか、繰り返すほどにマジメにとられない可能性もあるけれど、本当にビックリなんである。

これほどの速さと人馬一体のドライヴィングフィールを、この巨体で実現していることの秘密を紐解けば、2019年にアストン・マーティンが発表したDBXがすでにしてそうだった。

1913年創業のサラブレッド・スポーツカー・メーカーにして、1950年代にはブリティッシュ・フェラーリの異名をとったアストンが初のSUVであるDBXに与えたキャッチコピー。それは「スポーツカーのソウルをもつSUV」であった。

実際、DBXはアストン・マーティンのGTカーと同じ手法でつくられている。モノコックのボディシェルはアルミ押し出し剤を接着剤でくっつけてDBX専用で、アストナイズ、すなわち独自の改良を加えてアストン化したメルセデスAMGのV8ユニットを搭載、54:46の理想的な前後重量配分を実現している。それを1960年代の「DB4」、「DB5」を思わせる流麗なボディで包んでいるのだ。

“707”の特徴そのDBXを「世界でもっともパワフルなSUV」へと昇華させたのが、2022年発表のDBX707である。開発陣はまずパワートレインの強化に着手。3982ccのV8ツイン・ターボのポテンシャルを最大限引き出すべく、より大型のボール・ベアリング・ターボチャージャーに交換、圧力を25%増しに、ECUのマップを書き換えることで、最高出力を550psから707psに、最大トルクを700Nmから900Nmへと、3割近いアップを達成している。

157psと200Nmも増加したパワー&トルクに耐えられるように、ギアボックスを同じ9速オートマチックでも、トルク・コンバーター式ではなく、SUV では初の湿式多板クラッチ式に変更してもいる。ZFのこの湿式多板クラッチは、トルコン式より30%も速く変速できる。おまけにトルコン式よりコンパクトで、前後重量配分は52:48(交渉値。車検証値だと53:47)と、DBXよりフロントの荷重が若干軽くなっている。

最終減速比を3.07から3.27に低めていることもあって、DBX707の0~100km/hはDBXの4.3秒から3.3秒へと1秒も短縮している。トラクションに優れる4WDということもあって、現行アストンで最速を誇る数字だ。最高速は291km/hから310km/hへと向上し、スーパーカーを名乗るにふさわしい高性能を得ている。

およそ3割増のパワートレインに合わせて、エア・サスペンションを備える足まわりはもちろん、48Vのアクティヴ・ボール・システムや電動パワー・ステアリングなど、電子制御関係のデバイスも、モノとしてはDBXと同じだけれど、制御の最適化が図られている。前後トルクは100%後輪駆動から、前輪に最大47%、ほぼ50:50まで状況に合わせて配分される。リアには電子制御のリミテッド・スリップ・ディファレンシャルも組み合わされており、つまりDBX707というのは、現代の高性能スポーツカーがそうであるように、電子制御の塊なのだ。

空力も改善されている。特徴的なグリルはDBXのそれより面積を27%広がっていて、ラジエターをふたつにしている。中東でも対応できるように冷却能力を50%の向上させている。フロントのバンパーのダクトは標準装備のカーボン・セラミック・ブレーキに効率的に空気を流すためだ。リアにスポイラーを付加することで、リフトを20%減らしてもいる。

エキゾーストは4本出しで、アクティヴ・エキゾースト・システムのセンター・コンソールのスイッチを切り替えるか、もしくはGTモードからスポーツ・モードに切り替えると、アストン独特の雷鳴のようなサウンドを室内に轟かせる。

カーボン・セラミック・ブレーキ(CCB)の標準装備も運動性能に大きく寄与している。制動力が上がっただけではない。バネ下が33kgも軽減したことで乗り心地に貢献しているのだ。ブレーキパッドの粉の出方が少なくなって掃除の手間が省けるというオマケの、でもオーナーにとってはうれしいメリットもある。

意外なほどエレガント乗り始めたとき、低速でゴツゴツ感があるのは、試乗車がオプションの23インチ仕様だったこともあるだろう。フロントは285/35、リアは325/30で、ともにZR23。名実ともにスーパーカー・サイズのピレリPゼロを装着している。

標準は22インチで、23インチを選ぶことによってタイヤがより扁平となり、ドライバーはステアリングの入力に対してより俊敏なレスポンスが得られる。その代わり、低速では多少ゴツゴツする。首都高速の目地段差を通過する際には、目地段差を押し潰して平たくしちゃうような力強さを感じる。

厚木から小田原厚木道路に入ってすぐのうねった路面だと、うねりにきれいに沿って走っているような脚の動きを感じたりもする。707psと900Nmという数字から暴力的な速さだとか、ガチガチの乗り心地を想像する方もいらっしゃるかもしれないけれど、そうではない。エレガントなのだ。路面のうねり具合と速度によって、2.3tもあるのに、ふわり、という浮遊感を伴いつつストロークしたりもする印象もある。

メカニズム上は、大容量のエア・サスとCCBによるバネ下軽減の相乗効果、ということになるのだろうけれど、エレファント並みの巨体をかくもエレガントに振る舞わせることに感銘を受ける。路面によっては23インチの巨大なホイールがドシンドシン、上下に動く。そういう場合でも、乗員に伝わる振動はぶ厚いカーペットが間にある感じがする。

山道ではドライブモードをGTからS、さらにS+に切り替えてみる。S+だとステアリングがさらにちょっぴり重くなり、足まわりが引き締まる。だけど、依然しなやかではある。V8の発する雷鳴のごときサウンドがさらに大きくなるような気もするけれど、それは気のせいかもしれない。まったくもって男っぽい、男性的なサウンドである。

猛烈な勢いでコーナーが近づく。おっかないのでブレーキを踏む。グオンッ、グオンッとブリッピングを自動的に入れながら9速オートマチックがダウンシフトする。エイペックスを過ぎたらアクセル・ペダルを踏み込む。

グオオオオオオッと怪物が大音量で吠える。

なんちゅうか、あー、えー、おー。言葉が浮かばない。SUVは背が高い。DBX707だって最低地上高はデファクトのGTモードで190mmある。クロスオーバーSUVではない、本格4×4オフローダー並みの数値だ。スポーツモードに切り替えると15mm下がるとはいえ、ペッタンコのスポーツカーに較べれば、重心はそうとう高いはずで、運動性能のことを考えたら極めて不利である。これから100m走なりサッカーなりテニスなり、野球でもセパタクローでも鬼ごっこでもやろうというのに下駄を履いてくるヤツは、昔はともかく、現代ではいない。

SUVというのは、その成り立ち上、下駄を履いていて重心が高いわけである。もともと道なき道、荒野とかぬかるみとか砂漠とかで走ることを想定しているからだ。現在SUVと呼ばれているこのセグメントは、ちょっと前までオフロード4×4と呼ばれていたのである。そのオフロード4×4の、ワゴン・ボディと相まったマルチ・パーパス能力を日常生活のなかでも享受できるように革新したのが「レンジ・ローバー」であり、BMW「X5」であり、ポルシェ「カイエン」だった。アストン・マーティンDBX707に至りて、筆者は思うのである。いまやSUVとスポーツカーとの間にあった溝は埋められ、垣根も壁も叩き壊された。テクノロジーによって過去のものになった、と。

具体的申し上げれば、重心が高いのにロールがうまく制御されていて、なおかつ乗り心地が快適なのは、エアサスとか電子制御の4WDシステムとかいろいろあるだろうけれど、DBX707でいえば、エレクトロニック・アダプティヴ・ロール・コントロールの存在があるにちがいない。DBX707ではこれら電子制御デバイスの連携によって、ごく自然な動きをつくりだしている。そこがスゴイ。

アストン・マーティンはさる2月10日、DBX707による富士スピードウェイでのテストドライブを企画していた。それは韓国、マレーシア、オーストラリアなど、アジア・パシフィック地区のジャーナリストを招待してのイベントになるはずだった。あいにく降雪で、サーキット走行はできなかったけれど、アストン・マーティンの自信を大いに表していた。

SUVとスポーツカーの壁は過去のものになった。といっても、DBX707それ自体は3000万円級のスーパーラグジュアリーSUVである。一般庶民には関係ないじゃん。と思われるかもしれない。

そうではないのです。だれかが壁を打ち壊せば、それに続く者が必ず現れる。スポーツカーのSUV、あるいはSUVのスポーツカーは今後ますます増えることが予想される。スポーツカーだって、ポルシェの「911ダカール」、ランボルギーニ「ウラカン・ステラート」だとかがすでに現れている。マツダ「ロードスター」の4×4だってアリだろう。

文・今尾直樹 写真・アストン・マーティン・ジャパン 編集・稲垣邦康(GQ)

こんな記事も読まれています

ル・マン24時間レース決勝速報|フェラーリ、逃げ切り2連覇達成! トヨタとの近年稀に見る大接戦を制す
ル・マン24時間レース決勝速報|フェラーリ、逃げ切り2連覇達成! トヨタとの近年稀に見る大接戦を制す
motorsport.com 日本版
マイチェンで「歴代最強」 フォルクスワーゲン・ゴルフ R 試作車へ試乗 最高水準の魅力に揺るぎナシ!
マイチェンで「歴代最強」 フォルクスワーゲン・ゴルフ R 試作車へ試乗 最高水準の魅力に揺るぎナシ!
AUTOCAR JAPAN
初心者でも安心! 自分のレベルに合わせてサーキットを楽しめる「GR Garage」主催の走行会に人気集中。ゲストドライバーに松井孝允選手も
初心者でも安心! 自分のレベルに合わせてサーキットを楽しめる「GR Garage」主催の走行会に人気集中。ゲストドライバーに松井孝允選手も
Auto Messe Web
“直線番長”プジョー9X8、劣勢も決勝に自信「正しいアプローチかどうかは、レースで分かる」/ル・マン24時間
“直線番長”プジョー9X8、劣勢も決勝に自信「正しいアプローチかどうかは、レースで分かる」/ル・マン24時間
AUTOSPORT web
前年から運用方法が一部変更。2024年のル・マン24時間セーフティカールールをおさらい
前年から運用方法が一部変更。2024年のル・マン24時間セーフティカールールをおさらい
AUTOSPORT web
伝説の「6輪F1マシン」を生んだ小屋 70年前のティレル工場が移転保存 英国
伝説の「6輪F1マシン」を生んだ小屋 70年前のティレル工場が移転保存 英国
AUTOCAR JAPAN
JAFが義務化しているユニバーサルロゴの意味は? 実際にラリー車両に貼ってモータースポーツ参戦している人の声を聞いてきました
JAFが義務化しているユニバーサルロゴの意味は? 実際にラリー車両に貼ってモータースポーツ参戦している人の声を聞いてきました
Auto Messe Web
余裕と安心の「サイレント」スポーツ ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(2) 創業者も認めた1台
余裕と安心の「サイレント」スポーツ ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(2) 創業者も認めた1台
AUTOCAR JAPAN
ロールス・ロイス傘下の「ダービー」世代 ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1) 端正なコーチビルド
ロールス・ロイス傘下の「ダービー」世代 ベントレー 4 1/4リッター・ヴァンデンプラ(1) 端正なコーチビルド
AUTOCAR JAPAN
日産「新型“超凄い”スカイライン」まもなく登場! 420馬力の“史上最強”モデルはまさに「集大成」! もはや「次期型」に期待な“NISMO”実際どう?
日産「新型“超凄い”スカイライン」まもなく登場! 420馬力の“史上最強”モデルはまさに「集大成」! もはや「次期型」に期待な“NISMO”実際どう?
くるまのニュース
日本のキャンピングカーは仕上がりが違う! 知られざる「キャブコン」の製造工程とは
日本のキャンピングカーは仕上がりが違う! 知られざる「キャブコン」の製造工程とは
WEB CARTOP
首都高つながらない「関越道」どう行く? 渋滞を“まるっと避ける”マル秘ルートとは “練馬から正面突破”は最悪?
首都高つながらない「関越道」どう行く? 渋滞を“まるっと避ける”マル秘ルートとは “練馬から正面突破”は最悪?
乗りものニュース
テインの純正互換ショック「EnduraPro」シリーズに『カローラ』『シエンタハイブリッド』など6車種の適合が追加
テインの純正互換ショック「EnduraPro」シリーズに『カローラ』『シエンタハイブリッド』など6車種の適合が追加
レスポンス
メルセデスF1、トモダチ改造計画でW15を“ドライバーの味方”に「改善のためにマシンをいじめ抜く」
メルセデスF1、トモダチ改造計画でW15を“ドライバーの味方”に「改善のためにマシンをいじめ抜く」
motorsport.com 日本版
最高出力830PS、最高回転数9500rpm!フェラーリから自然吸気V12エンジン搭載モデル「12チリンドリ」が登場
最高出力830PS、最高回転数9500rpm!フェラーリから自然吸気V12エンジン搭載モデル「12チリンドリ」が登場
@DIME
高速道路で「人が旗振ってる!」意味わかりますか? 見かけたらそこは「危険」
高速道路で「人が旗振ってる!」意味わかりますか? 見かけたらそこは「危険」
乗りものニュース
軽自動車の「白っぽく見えるナンバー」なぜ増えた? 軽であること隠したい!? 導入7年「図柄入りナンバー」の現状は?
軽自動車の「白っぽく見えるナンバー」なぜ増えた? 軽であること隠したい!? 導入7年「図柄入りナンバー」の現状は?
くるまのニュース
61年の歴史で初 ハイブリッド化されたポルシェ改良新型「911」に熱視線! SNSでの反響とは?
61年の歴史で初 ハイブリッド化されたポルシェ改良新型「911」に熱視線! SNSでの反響とは?
VAGUE

みんなのコメント

1件
  • でもファミリーBEVに無音であっという間に抜き去られると?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2500.03119.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1728.04500.0万円

中古車を検索
DBXの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2500.03119.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

1728.04500.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村