スバルBRZの受注のうち約4割がMT(マニュアルトランスミッション)車だそうだ。しかも年齢に偏りがあまり見られないそうだ。FRのMTも今や絶滅危惧種を通り超えて新しいものとして再認識されているのだろう。
こんな話がある。
新型シビックタイプR目撃情報相次ぐ! 独特なカモフラージュの意味を開発責任者に聞いた
修理屋に久しぶりにMT車が来た。そこのオヤジさん、ガレージにしまおうとしたがエンジンが掛からない。
「まったく、こんなクルマ持ってきやがって」とぶつくさ言いながら、バッテリーを外して充電器に繋ぐがそれは正常、しかし元に戻してもセルは回らない。
そう、今のMT車はクラッチを切らないとエンジンはかからない。笑い話のような実話である。とオイラも笑ってはいられない。今回、BRZに乗り込んで、あれ?あれあれ?と慌ててしまった。
以前、トヨタ86でラリーをやっていたときにはこのクラッチのスイッチはカットしていたのだ。
なぜか。SS(スペシャルステージ)でスピンしたりしてエンジンをストールさせたときに、1秒でも早くエンジンをかけるためにだ。例えば半クラッチでエンジンをかけながら動き出せば、コンマ数秒は得する。しかしこのクラッチスイッチがあると半クラではエンジン始動できない。
だから今でも新しいMT車のエンジン始動の儀式に慣れないのだ。まあ、それぐらいMT車に乗るのが久しぶりだという現実もある。
そしてスポーツスノードライビングもだ。
ここ群馬サイクルスポーツセンターはよく全日本ラリーのSSで走った場所。狭くバンピーでハイスピード、言い換えれば危ないコースで、雪のときに走りたい場所ではない(笑)。だからといって、ゆっくり走ればいいのだがそんなわけにはいかない。
怖さと面白さは紙一重、もろ刃の剣なのである。
3速から4速でアクセルを踏んでいくと、狭いコースのさらに狭いタイヤが通るワダチの中、雪の凹凸とアクセルによってリヤタイヤが左右にスライドしている。これを小刻みなステアリング操作で抑え込んでおかないと突然テールブレークして雪壁に飛び込むことになる。そういった情景をいやでも想像しながら全開にするのだからアホである。
しかしこのヒリヒリするような緊張感がスノードライビングの醍醐味。たまらなく快感なのである。この感覚はラリー中ともまた違う。純粋にドライビングを楽しんでいる状況なのだ。
新型BRZはボディがしっかりしている。それはブレーキングでABSの作動が少なく、減速感が高いところで感じた。ボディのおかげでサスペンション、そしてタイヤ、どれもがしっかり働いて前後バランスよくタイヤが抑え込まれるようにブレーキが利いている感覚だった。
そして昔のFRとは全く違う動きのクルマである。
アクセルで向きを変え、カウンターステアで姿勢コントロールするような動きは向いていない。言い換えればテールブレークする前にトラクションの掛かりがいいからクルマがどんどん前に出て行く。だから姿勢変化させるのに低いギヤでアクセルを踏むのは無駄な動きをクルマにさせているようなも。昔ながらのフルカウンターでリヤサスが沈み込んでトラクションがかかっている、というスタイルではないのだ。
雪道のコーナリングでさえグリップ感覚。比べ物にならないぐらい速いスピードでクリアしていく新世代のFRカーがBRZなのだ。
そして新井大輝選手の横に乗せてもらった。ヨーロッパで速かったドライバーは、とにかくクルマを前に出すのが上手い。それは彼が日本のラリーに復帰してからも同じで、コーナーの立ち上がりでのロスがとにかく少なく見えた。
迎え撃ったライバルたちにとって、大輝選手の日本復帰は“黒船”だったに違いない。だがトップクラスがみんなそこに気づいて、最近はだいぶアドバンテージが少なくなったみたいだが、2020年にしっかりと全日本ラリー選手権でチャンピオンになったのはさすがである。
同乗で見たその走りだが、マスターバック付きのブレーキでも左足ブレーキでクルマの動きを繊細にコントロールしていた。
コーナー曲率に合わせてブレーキの強弱で穏やかに向きを変えていく。ちょっと多めにスライドしても右足はつねにアクセルに乗せているから、間髪入れずにパワーを掛けてクルマは前に。大きくカウンターステアを当てることはないのだ。やはりクルマを前に進めるのが上手く、その結果、速いのだ。
そのうちマネをしてやろう!
BRZで少し気になったのがブレーキペダルとアクセルの高さが大きく違ううえに離れていること。とにかくヒールアンドトゥがやりづらい。
ペダルの踏み間違えなどの安全対策らしいが、このあたりはMT車の基幹といってもいい操作系。リズミカルにドライバーが操作できるような、もう一工夫が欲しいところだ。
さんざん走り回ってもう満足というころ、ちょっと油断してスピンした。ちょっとした轍からタイヤが1本ずれててもう動けない。FR車の悲哀である。楽しい雪道もワンミスでこういった事態に。というわけで、雪道に遊びに行くときのリヤドライブカーの一番の友達を紹介しておこう。
1に金属チェーン、2に牽引ロープ、3,4がなくて5がスコップ。出かけるときは忘れずに!
夜、家に着くと右足ふくらはぎが痛い。久しぶりに長時間アクセルを開けていたせいだ。
〈文=三好秀昌 写真=山本佳吾〉
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みんなのコメント
塩カルやらで下回り腐食させたくないし。