■電動バイクに見る未来のカスタムバイク像
「メーカーの垣根を超えて“電動バイクが集結する”日本初のイベント」を謳い、2021年4月17日に静岡県函南町にある“バイカーズパラダイス南箱根”で開催された“電動バイクCAFEミーティング”ですが、当日は生憎の空模様ながら全国から約40台の電動バイクが展示され、訪れた観客の皆さんを大いに楽しませることとなりました。
これから来るであろう「EV化」の波……その中で今後も様々なマシンが生まれそうな予感を感じさせる同イベントでしたが、筆者(渡辺まこと)が、観覧前から最も興味を抱いていた車両がここに紹介する“オートスタッフ末広”による“zecOO”です。
ちなみにこの車両のプロジェクトが始動したのは今から10年近く前の2012年。トヨタ自動車出身のデザイナー、根津孝太氏が率いるznug design (ツナグ デザイン)とオートスタッフ末広の共同開発によって2015年3月に市販化されたのですが、今見てもまったく旧さを感じさせない高い完成度で仕上げられています。
その中で最も目を引くのが前後のサスペンション機構なのですが、フロントは片持ちタイプのハブセンターステアリングを採用。
ハンドルからのリンクを介してステアリングを動かすこの構造は、いわばフロントにスイングアームを備えるような機構なのですが、これは一般的なテレスコピックフォークと異なり、ブレーキング時にピッチング角が前傾するノーズダイブによってキャスター角やトレール量が変わる現象を抑制するのがメリットです。 現在ではビモータの TESI、また過去にはGPレーサーの“elf-3”などで採用されていたことでも知られているのですが、ルックス的なインパクトも絶大です。 ちなみにチョッパーの世界では、米国の著名なカスタムビルダーであるのアーレン・ネスが1977年に発表した代表作、“Twoo Bad”にハブセンター・ステアリングを取り付けたことが周知されているのですが、この“zecOO”にしてもスタイル的な効果を狙ってこのシステムを採用したとのことで、確かに1台のカスタム・マシンとしても見ても高い完成度のデザインとなっています。
■電動バイクならではの利点を生かしたデザイン
また、パワーユニットは出力50 kW(約68馬力)、トルク144 Nmを発揮するZEROモーターサイクル製のモーターゆえ、ガソリンエンジンのような発熱もないのでフレームはソレを挟みこむような構造のVertical Twin Frame(バーチカル・ツイン・フレーム※特許出願中)が採用されているのですが、こうした部分やフルカバードのボディなどは電動バイクならではの特性をポジティブに転化したものとなっています。
無論、電動バイクやクルマが一般に普及するには航続距離や充電など様々な問題が横たわっているのですが、それもこの先の技術革新によって、きっと解消されることになるのではないでしょうか。
たとえば充電方式もカメラのバッテリーなどのようにカセット式のアタッチメントとなることも考えられますし、バッテリーそのものの性能UPも必至です。
もちろん、内燃機関の終焉には一抹の寂しさを覚えるのが正直なところですが、時代の流れを考えると、そこに抗うのではなく、来る時代を如何にポジティブに捉えるかが「この先もカスタムを楽しめるか否か」の分水嶺になるでしょう。この“zecOO”のようなマシンを目にして筆者が個人的に感じたのは「カスタム」の未来に対する希望です。
たとえばチョッパーやホットロッドの世界では来る「2030年問題」を前に悲観的な意見を多く耳にすることがありますが、しかし、「カスタム」そのものが滅びるわけではないことを、この“zecOO”という存在が2015年の時点で既に証明しているように感じられます。
ガソリンだろうが電気だろうがクールなものはクール。この“zecOO”はそんな至極単純な解答を示してくれる存在といえるかもしれません。
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