■「ヤリス」より高価でも魅力的? トヨタ「ヤリスクロス」
トヨタが2020年2月10日に発売したコンパクトカー「ヤリス」は、日本自動車販売協会連合会の登録車販売台数ランキングで4月、5月、7月、8月に首位を獲得。トヨタを代表するコンパクトカーに相応しい売れ行きを見せています。
しかし、実際の販売現場で話を聞くと、ヤリスの人気を揺るがす意外な伏兵がいるというのですが、いったいどのような事態になっているのでしょうか。
ヤリスはトヨタがコンパクトカーの世界標準をつくろうとの気概のもと、トヨタが持てる技術を結集して開発されました。
トヨタのラインナップのなかでは比較的廉価なモデルではあるものの、世界トップクラスの低燃費性能や、右折時の対向直進車や右左折後の横断歩行者を検知対象とした衝突被害軽減ブレーキなど、「トヨタ初搭載」として装備されるさまざまな先進装備が特徴です。
そんななか、好調なヤリスの売れ行きを揺るがしかねないのが、トヨタのコンパクトSUV「ヤリスクロス」です。
ヤリスクロスは2020年8月31日に発売。8月上旬には販売店で事前受注がスタートしていたといいますが、トヨタの販売店スタッフは次のように説明します。
「事前受注していた頃から見られた現象として、ほかのクルマを見に来た人がヤリスクロスに流れる、というものがありました。
なかでも、ヤリスを見に来た人にヤリスクロスを案内すると、そのままヤリスクロスを契約される人がいらっしゃいます」
ヤリスとヤリスクロスは、ともに「ヤリスシリーズ」を構成するモデルで、共通のプラットフォームを採用。そしてヤリスに搭載される先進装備はヤリスクロスにも搭載されます。
また、ヤリスと同じ新開発ハイブリッドシステムを搭載するヤリスクロスですが、SUVであるヤリスクロスの方が燃費では不利となり、燃費もヤリスにはおよびません。
しかし、事前受注の台数を比較すると、ヤリスは2019年12月上旬から2020年3月9日まで(約4か月)の事前受注を含んだ受注台数が約3万7000台だったのに対し、2020年8月上旬から2020年8月30日まで(約1か月)の事前受注のみでヤリスクロスは約1万2000台の受注台数を記録しており、ヤリスクロスの人気がうかがえます。
ヤリスよりヤリスクロスの方が高価格帯であるにも関わらず、ヤリスの購入ユーザー層までも巻き込んで人気を獲得していくヤリスクロスが、2020年9月の登録車販売台数ランキングで、どこまで健闘するのかが注目されます。
■爆売れコンパクトSUV「ライズ」に対する販売店の声は?
コンパクトサイズのSUVが注目される流れは、ヤリスクロスの登場以前から起きていました。
日本市場でコンパクトSUVのジャンルを確立したのは、2010年に日産が発売した「ジューク」で、それ以降はホンダ「ヴェゼル(2013年)」、マツダ「CX-3(2015年)」、トヨタ「CH-R(2016年)」と続々と登場しています。
その後も、2018年にはスズキ「ジムニー/ジムニーシエラ」が20年ぶりのフルモデルチェンジ。
2019年には、10月にマツダ「CX-30」、11月には、ヤリスクロスよりもコンパクトなSUVのトヨタ「ライズ」がダイハツ「ロッキー」のOEM車として発売され、またたく間に人気を獲得しています。
日本自動車販売協会連合会による2020年1月から6月の登録車販売台数ランキングでライズは総合首位を獲得し、半年間の販売台数は5万8492台にもおよびました。
トヨタの販売店スタッフにライズの購入ユーザーのイメージについて聞くと、「いま、ライズを見に来る人はライズと決めてから来店する印象で、一定数の指名買いユーザーが存在すると感じます」と話します。
そして、コンパクトSUV人気はホンダにも波及しており、2020年2月14日に発売された4代目「フィット」は、コンパクトカーでありながらフィットとして初のSUV風グレード「クロスター」を設定。
4代目フィットの2020年3月16日までの受注台数(3万1000台)のうち、クロスターは約4300台の受注を獲得。コンパクトカーでありながらSUV風のスタイルも求めるという一定の需要に応えています。
ホンダの販売店スタッフに聞くと、次のように話します。
「いまは、各車の新型SUVが群雄割拠する状態といえます。近年のユーザーの声を聞くと、本格的な走破性ではなくゴツくて迫力あるスタイルをSUVに求めているといいます。SUVの迫力ある見た目が、コンパクトカーユーザーにも支持されているということでしょう」
※ ※ ※
発売から6年以上が経ちモデル末期となったヴェゼルについては、近々フルモデルチェンジを受けると予想されています。
新型ヴェゼルがフルモデルチェンジで商品力を向上させれば、同じホンダのラインナップ内でフィットクロスターとユーザーの取り合いになる可能性も無いとはいい切れません。
かつてのSUVブームによって、ミドルクラスSUVがミニバンとは違う新たなファミリーカーというカテゴライズをされたように、コンパクトSUVは現在進行形でコンパクトカーの購入ユーザー層を奪う存在となりつつあるのかもしれません。
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