1999年に日本でデビューして以来、高い人気を誇っていたフォルクスワーゲン ニュービートルが、2005年9月8日にデザインをリフレッシュして登場している。Motor Magazine誌では「シャープさとダイナミックさ」を加えたこの新しいニュービートルに試乗し、あらためてこのモデルの不思議なスポーツ性を検証している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2005年12月号より)
速さだけではない価値観、ルーフを開けて見える景色
「黄色いビートルを見ると幸せになる」……25年ほど前、どこから出たウワサ話かはよくわからないが、それにつられて小中学生(主に関東エリアの)たちが町中や街道筋でビートルの姿を追いかけるという不思議な現象が起きた。
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オリジナル・ビートルは基本設計がおそろしく古く(第二次世界大戦前ですよ)その当時でもすでに快適なクルマとはいえなかったが、「なんかいい感じのクルマ」という心理が日本人にはあった。ビートルの中古車が出回ると、若く経済力のないユーザーにも手頃な存在となり、湘南方面ではサーファー御用達車の様相を呈したほど。それは北米の西海岸で巻き起こったビートルブームに連動しているのだが。
そんなわけでアメリカ人、日本人にとってビートルは、「なつかしい」、「遅いけれども楽しい」というイメージが強く刷り込まれている。
時が過ぎ、フォルクスワーゲンは半ば遊び気分でゴルフIVをベースとしたコンセプトカー(ニュービートルの原型)を作り、アメリカのショーに出展したら予想外の大反響。慌てて生産化して、大成功を収めた。
ところでニュービートルが売れている市場は、言うまでもなく北米市場がダントツの1位だが、2位はなんと我が日本。3位が本国ドイツというのが面白い。日本上陸は1999年からで、これまで約5万8000台が販売され、昨年(2004年)度は輸入車販売台数ランキングの10位に入っているから恐るべしである。
前置きが長くなった。今回の注目はボディの変更を受けた新型ニュービートルである。もともと、新型ニュービートル/同カブリオレともに「高性能」を標榜するような仕掛けはない。
今回のエクステリアのデザイン変更点はフェンダーのアーチラインにエッジを効かせたこと、フロントバンパーのエアインテークを3分割化してワイド感を創出したこと、ヘッドランプ/テールランプの意匠変更などである。
従来型に比べ、明らかにシャープになり、どこかマンガっぽい、あるいはオモチャっぽい外観がグンと精悍になった。どこかポルシェっぽくなったとも言える。なので、停まっている姿を眺めると「スポーツしてるぞ……」である。
ニュービートルは1.6Lのベーシックモデル「EZ」が222万9500円、対してカブリオレは313万9500円。価格差は84万円あるのだが、その差は幌をオープンにして走り出すと納得せざるをえない。
当たり前のことだが、周囲の景色がまるっきり違って見え、風の中を走る快感を味わえる。そしてこれも重要なことだが、街行く人々の視線も違ってくる。「幌の屋根のクルマ」はみんなの憧れなのである。現在流行になりつつあるデタッチャブル式メタルルーフ車は、クーペとオープンの1台2役で気密性、対候性に優れるけれど、「格式」は幌の方が上。なんといってもエレガントさが違う。
ニュービートルは運転席がホイールベースのほぼ中間にあり、フロントウインドウの下端がはるか前方にあるので最初は多少面食らう。しかしシートアジャストとステアリングホイールの調整機構が適切なので、ドライビングポジションはぴたりと決まる。
カブリオレに搭載されるエンジンは2Lの116ps版のみ。平凡なスペックだが中低速のトルクが厚く、ゴルフV譲りのティプトロニック6速ATと絶妙にマッチングする。とても高級感があるのだ。
このATは、おもてなしのココロと戦闘能力向上心が同居する感じでとても頼もしい。シフトゲート右側でティップ機構をちょこちょこと必要もないのにシフトアップ&ダウンして遊べるのも楽しい。エンジンは非力でも、うまい具合にその能力を引き出してくれるから、ゆったり流しても、急ぐ時でも「スポーツ気分」に浸れる。
フルオープンなのにボディ剛性はしっかり確保されユサユサガタピシしないし、パワーステアリングの操舵感も上等。ベースが一世代前のゴルフIVといっても、各部はリファインされているからなんら問題はなく、きわめてマジメにちゃんと曲がり止まるから、その気になって走れば十分なハイペースだって保てる。
ところで、今回カブリオレは、あえて鉄チン製のホイールでカバー付きのモデルを選んだ。なぜなら、私にとってビートルのイメージはあくまでスチールホイールということと、細目のスポークのアルミホイールは似合わないと思ったからだ。それに、このアルミを付けると、今となってはとても小径のブレーキローターが丸見えとなってしまう。ブレーキそのものの効きは十分だが、見た目がサビシクなってしまうのは、ちょっとイヤでしょ? 本革シート付きのLZという豪華仕様(349万6500円)も用意されている。
マネージメントする喜びから自然に生まれる余裕と愉しさ
新型ニュービートルのセダンでは、EZをチョイスした。1.6Lエンジンを搭載した最も安価な、いわゆる「素」のモデルだ。しかしこれが、実に好ましい。どこが? それは、上位グレードはすべて2Lだからである。
排気量が小さいから、高速道路や急勾配の登坂などでは、その分、余計に仕事をしてもらうことになる。つまりアクセルコントロールに気を遣い、エンジンと相談する必要がある。排気量が大きければボケーッと走っていられるが、1.6Lではそうはいかないシーンも多々あるのだ。そのマネージメントをドライバー自身が行う。ここのところが「スポーツ」なのですね。
トランスミッションは、ザンネンながらセダンは4速ATのみ。1.6はファイナル比が低められていることと、エンジンの低速トルクがあるので発進加速は思うほど悪くはないが。
自動車専門誌でよく言われるのが「マニュアルシフトで楽しもう」……なのだが、私は「そうばかりではないよ」と思っている。4速ATには4速ATなりの走らせ方、もっといえば楽しみ方もあるのだ。
平坦な一般道ではDレンジに入れっぱなしでもちろんいい。しかしひとたび山道に入ったら、勾配やコーナーの緩急に応じて、3または2のポジションにホールドする。ティプトロニック機構はないから。そしてこれは、ブレーキに余計な負担をかけない走り方でもある。下りコーナー手前で、3から2に落としてエンジンブレーキでクリアするか、3のままでチョンと軽くブレーキングして車速を落としてクリアするかは状況次第だが、これがツボにはまると楽しい。
EZは「絶対的な速度」ではハイパワーの高性能モデルたちに遠く及ばない。しかし「リズム」に乗って走れば、スポーツカーにもなる。この「リズム」とはビギナーがこわごわ走る「マイペース」のことではもちろんない。
ゴルフ(クルマではない)界のスーパースターはタイガー・ウッズだが、ドライバーのヘッドスピードは驚異的に速い。だから飛距離が300ヤードを軽く超えるのだが、アドレスからスイング開始までの動きはゆっくりしたリズムだ。ちばてつやのゴルフ漫画、「した天気になあれ」の主人公、向太陽も「チャー・シュー・メン」というスローテンポでスイングしていた。
クルマの運転、いわゆるスポーツドライビングにもこの「ゆっくリズム」を見習う必要があると思う。ゆっくりとドライビングポジションを決め、ゆっくり走り出し、慎重に周囲を確認してズバッとアクセルを踏み込む……。要はメリハリが大事ということです。
EZはそんなリズム感にマッチするクルマだ。後方から急ぐクルマが迫って来たら、見通しがよく安全に追い越しが出来る場所で道を譲ってあげよう。うまく「パスさせる」こともスポーツドライビングの重要なテクニックのうち。ニュービートルに乗っているとそういった「ココロの余裕」が生まれる気がするんですね。
蛇足ながら、ニュービートルのセダンをお求めになるなら、幸せの黄色でなく、渋いアクエリアスブルーのEZをお薦めします。一番渋く、かっこいいと私は思うので。(文:御田昌輝/Motor Magazine 2005年12月号より)
フォルクスワーゲン ニュービートル カブリオレ(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4130×1735×1500mm
●ホイールベース:2515mm
●車両重量:1390kg
●エンジン:直4SOHC
●排気量:1984cc
●最高出力:116ps/5400rpm
●最大トルク:172Nm/3200rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:313万9500円
フォルクスワーゲン ニュービートル EZ(2005年)主要諸元
●全長×全幅×全高:4130×1735×1500mm
●ホイールベース:2515mm
●車両重量:1250kg
●エンジン:直4SOHC
●排気量:1595cc
●最高出力:102ps/5600rpm
●最大トルク:148Nm/3800rpm
●トランスミッション:4速AT
●駆動方式:FF
●車両価格:229万9500円
[ アルバム : フォルクスワーゲン ニュービートル はオリジナルサイトでご覧ください ]
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