2007年、ボルボV70がフルモデルチェンジして登場した。ひと回り大きくなって新しい世界へと踏み出したV70はどんなクルマだったのか。Motor Magazine誌はこの新しいV70に注目、ライバルとなるBMW5シリーズ/アウディA6/アルファ159と比較しながら多角的に検証している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年12月号より)
先端技術が投入されたエンジンへのこだわり
ボルボV70はフルモデルチェンジによって先代モデルよりも上級クラスへと移行した。これまではBMW 3シリーズツーリング/アウディA4アバント/メルセデス・ベンツCクラス ステーションワゴンなどがライバルだったものが、5シリーズ ツーリング/A6アバント/Eクラス ステーションワゴンの土俵へと上がってきたのだ。もちろんその分、価格も上昇したが、同じ台数が売れればより利益が上がる、という図式だ。
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新型V70は、上級クラスを狙うために、まずはエンジンを換えてきた。2006年春からS80に搭載した新しい直列6気筒エンジンを採用している。つまり、S80のワゴンモデルをV70というネーミングにした、という見方もできる。
直列6気筒エンジンを横置きにして使うのは、エンジン長が大きいから難しいと思われてきた。しかしV8エンジンもそうだが、ボルボは徹底的に小型軽量化した直列6気筒エンジンを作ってみせた。そこまでして直列6気筒エンジンを使うメリットは、そのダイナミックバランス性能の高さにある。回転数が高くなるほどに、芯が出たコマのように振動なくきれいに回るのが直列6気筒の特徴だ。これにより質の高い走行感が得られ、上級クラスらしい走る歓びを受けることができる。
これは、BMWが直列6気筒にこだわる理由と同じだが、新しいV70では上級クラスに移行するためのひとつの重要なアイテムとなった。
さて、日本へ導入されたばかりのV70には、まず新しい3Lターボモデルと、S80と共通の3.2L NAという2種類の直列6気筒エンジンが用意される。ターボは4WD、NAはFFという組み合わせだ。2.5L直列5気筒ターボエンジン(FF)のベースモデルと、4WDの3.2L NAモデルは、2008年のからの導入となる。
今回、ライバルモデルとして用意したのは、BMW5シリーズ ツーリング、アウディA6アバント、アルファロメオ アルファ159スポーツワゴンの3車種。もちろん、メルセデス・ベンツEクラス ステーションワゴンも、V70のライバルとなる。
この中で直列6気筒エンジン搭載モデルが用意されているのはBMW5シリーズだけだ。試乗車は最上級モデルの550iだからV8エンジンだが、525i、530i、530xiは直列6気筒エンジン搭載車である。BMWの直列6気筒は、最先端技術満載のエンジンといっていい。軽量化のためにシリンダーブロックにマグネシウム合金を採用し、中空構造のカムシャフトを作り、電動ウォーターポンプ、容量可変型油圧ポンプなどに加え、燃費とパワーの両立を図るバルブトロニック機構を備えるという具合だ。
アウディの2.8Lエンジンは、直噴式のV6である。ル・マン24時間レースで何回も優勝した実績を持つFSI(直噴)エンジン技術を量産車に反映させたもので、低燃費かつ高出力が売りのエンジンだ。
アルファ159スポーツワゴンの3.2L V6エンジンも、JTSダイレクトインジェクションと呼ぶ直噴式のエンジンである。さらにツインフェイザーテクノロジーと呼ぶ連続可変式バルブタイミング機構も備え、ユーロ4という厳しい排出ガス規制にも対応している。そして、高回転まで元気よく回るアルファらしさも味わえるエンジンだ。
V70の直列6気筒エンジンは、1シリンダー当たり4バルブ方式のDOHCで、可変バルブタイミング機構とリフト量可変機構が付いているだけだから、ごく標準的な構成だ。やはり小型軽量化が、このエンジンの最大の特徴といってもいいだろう。
ドライビング面でもそれぞれの個性がある
室内に乗り込むと、V70のゆったりした広さが、近場のファミリーユースでも長距離のドライブ時でも、ゆとりを感じさせてくれる。シートの大きさと形状にも余裕を感じる。あえてスポーティなバケット形状のシートにしないで、大きなところへ座らせることで、乗った人が室内の広さを感じ取れるようになっている。バックレストも十分に高く、ヘッドレストの高さもあるので座高の高いドライバーでもゆとりがある。
リアシートの居住性も、フロントシートと同じように良い。ボディ横幅の広さを生かして、幅広のアームレスト、その中に2個のカップホルダー、さらにカバーを開けると小物入れがある。リア中央席にも、ボタンを押して持ち上げるタイプのヘッドレストと3点式シートベルトが用意されている。またリアシート用エアコン吹き出し口や2つの独立したソースで聞くことができるヘッドフォン用コネクターも装備(T-6は標準、その他はデラックスパッケージオプション)される。
リアシートでは、可倒式バックレストの分割方法が実にボルボらしい。それは40:20:40という細かい分離ができることだ。右側の40と中央の20を合わせて倒すことも可能なので、様々な使い方ができそうだ。
メルセデス・ベンツEクラス ステーションワゴンの広さは必要十分であるが、V70はインテリアデザインがあっさりしている分だけ、より広く感じるようだ。
BMW5シリーズ ツーリングも、Eクラス ステーションワゴンと同じくらいの広さである。大きな人でも窮屈に感じることはないが、5シリーズはシートにサポートがありスポーティな分だけ、V70の方がゆったりしていると感じる。
アルファ159スポーツワゴンが、今回の中ではもっともタイトな感じである。何かが迫ってくるというわけではないが、コクピットにドライバーがスッポリと納まる感覚なので、ドライビングに集中しやすい環境が作られている。そもそもアルファ159スポーツワゴンは、室内の広さやゆとりを狙ったクルマではない。だからV70とはライバル関係ではあるが、競合はしないモデルかもしれない。アルファ159スポーツワゴンが狙っているのは、一体感のある楽しいドライビングだ。
その点でV70にはアルファのようなキビキビ感はない。だが、なかなか良いハンドリングである。ドライバーが急がず、ゆとりを持って走れるように、心を落ち着かせることができる点がいいと思った。
ターボエンジンと4WDを組み合わせるT-6は、やや軽めのハンドルの手応えで軽快に走れる。ハンドルのアシスト量を3段階に調節できるので、重めにして落ち着いたドライビングもできるし、女性ドライバーには軽めにして楽に走るというチョイスもできる。ダンパーの硬さも、コンフォート/スポーツ/アドバンスドの3つのポジションから選ぶことができる。乗り心地とハンドリングのバランスが変わるから、走る条件に合わせれば楽しさも増す。
3.2SEは、NAのFFであるが、ハンドルのアシスト量調整機構はなく、基本的にはT-6より重めである。またT-6にあるダンパーの調節機能もないが、ボクにはこの3.2SEの方が自然な感じでより走りやすく感じた。そのひとつの理由は、車両重量にあるかもしれない。フロントが軽い分、ハンドルを切っていくときにノーズがより素直に入ってくれる感じなのだ。
広い室内を持っているのにハンドリングがスポーティなのは、BMW5シリーズ ツーリングだ。フルタイム4WDのxiを除けばアクティブステアリング機構が標準装備になるから、リアが滑ったときの自動カウンターステアを感じなくても、低速時にシャープになるバリアブルギアレシオのメリットは日常で感じることができるだろう。前後50:50という重量バランスによってコーナリングのしやすさ、ハンドルを切ったときのノーズの入りやすさなど、ドライバーの意思に忠実なハンドリングが目立つ。2007年のマイナーチェンジからは、ハンドルの切り始めでの過敏な動きは影を潜め、スムーズで扱いやすくなっている。
ユーザーへの心配りが生み出す新しい満足感
アウディA6アバントに新しく加わった2.8FSIクワトロであるが、アウディらしい軽い手応えのハンドルによって、ドライバーは負担を感じないでドライビングを楽しめる。切った分だけよく曲がる、という印象ではあるが、ターンインからコーナリング状態の間、フロントヘビーの感触は残る。しかしグラベル路へ入ったときに、アクセル全開でゼロ発進を試みてみたところ、4輪ともまったくホイールスピンを感じさせない鋭いスタートをすることができた。これは、クワトロのメリットを大いに感じる部分である。
同じように、BMW550iツーリングでも試してみた。DSCがうまく作動して、ほとんどホイールスピンせずに鋭いダッシュができる。DSCをカットした場合には、ホイールスピンをしながらも、十分なダッシュ力は感じられた。
アルファ159スポーツワゴンは、少しフロントがホイールスピンしている感じはあるが、4WDだけにその加速力は十分に強かった。
V70 3.2SEはFFなので少しホイールスピンするものの、DSTCの働きもあって十分な加速力はある。T-6は4WDだから、グラベルでもほとんどホイールスピンをせずターボパワーでダッシュしていく。この4WDのセンターデフは、電子制御湿式多板式のハルデックス式だ。基本はFFなのだが、発進時はリアに80Nmまでプレチャージしているという。これは雪道での発進時に最初から滑らないようにする対策だそうで、このグラベル路でもそれが生きていたようだ。
V70の装備でボクが気に入っているのはBLIS(ブラインドスポットインフォメーションシステム/T-6に標準、他モデルはオプション)である。これはS80にも用意されているが、ドアミラーの室内側にあるインジケータが点灯しているときは、横に他車がいることを知らせてくれるというものだ。CCDカメラによってサイド後方をモニターして、映像処理によって障害物を判断してくれる。もちろんBLISだけに頼ってしまうのは好ましくないが、うっかりして死角にクルマがいるのに車線変更してしまうというミスを防止するためには役に立つ。
ボルボV0は、しっかりと上級クラスに移行してきた。ライバルたちとは違った個性を持っていることも、上級クラスに相応しい。今後、さらに凝った装備アイテムを増やしていくことができれば、上級クラスの定番モデルになれるだろう。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2007年12月号より)
ボルボV70 T-6 TE AWD主要諸元
●全長×全幅×全高:4825×1890×1545mm
●ホイールベース:2815mm
●車両重量:1900kg
●エンジン:直6DOHCターボ
●排気量:2953cc
●最高出力:285ps/5600rpm
●最大トルク:400Nm/1500-4800rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:750万円(2007年)
ボルボV70 3.2 SE主要諸元
●全長×全幅×全高:4825×1890×1545mm
●ホイールベース:2815mm
●車両重量:1770kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:3192cc
●最高出力:238ps/6200rpm
●最大トルク:320Nm/3200rpm
●駆動方式:FF
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:575万円(2007年)
BMW 550iツーリングM-Sportパッケージ主要諸元
●全長×全幅×全高:4855×1845×1475mm
●ホイールベース:2885mm
●車両重量:1920kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4798cc
●最高出力:367ps/6300rpm
●最大トルク:490Nm/3400rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:1044万5000円(2007年)
アウディA6アバント 2.8FSI クワトロ エアサスペンション装着車 主要諸元
●全長×全幅×全高:4935×1855×1475mm
●ホイールベース:2845mm
●車両重量:1860kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2772cc
●最高出力:210ps/5500-6800rpm
●最大トルク:280Nm/3000-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:686万円(2007年)
アルファロメオ アルファ159スポーツワゴン 3.2JTS Q4 Qトロニック ディスティンクティブ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4690×1830×1465mm
●ホイールベース:2705mm
●車両重量:1830kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3195cc
●最高出力:260ps/6300rpm
●最大トルク:322Nm/4500rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:600万円(2007年)
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