■全体を見せて詳細を隠すテストラッピングの広告戦略
開発段階のクルマをサーキットや街中で極秘にテストする際、デザインや外観パーツがわからないようにカモフラージュを施します。
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その多くは、渦巻き模様やモノクロの迷彩がほとんどですが、なかにはカモフラージュ柄を逆手にとって宣伝カーとして利用しているメーカーも存在します。
一見、ただのカモフラージュ柄のようですが、各社にはそれぞれ意味のあるデザインのようです。どのような意図でテストモデルはカモフラージュされているのでしょうか。
カモフラージュ柄テストモデルは、車体外観をラッピングで覆っています。従来は、宣伝文句やイラストなどを描き、宣伝用として街中を走らせるという形で古くから存在します。
当初は、ペイントを直接クルマに書き込んでいましたが、宣伝期間が終わったあとに塗り直さなければいけませんでした。そのような背景のなかで、1990年代中盤にラッピングという技術が誕生した結果、表現の自由が飛躍的に発展し、現在のテストカーに採用されるようになったのです。
ではなぜ、市松模様や渦巻き柄といったデザインになったのでしょうか。第一の理由は、車両デザインのディテールを伏せることです。極秘開発のクルマが人目に晒された場合でもラッピングを施すことで、デザインやパーツの細かな部分をカモフラージュできます。
基本的に開発車両は、テストコースで走行させた後、一般道を走ることになります。模様が細かく、スピードが出るほどデザインがぼやけ、全体像がつかみにくくなるのです。
さらに、カモフラージュ柄には宣伝効果を狙った要素も存在します。広告代理店の自動車メーカー担当者は「テストモデルによくある奇抜なデザインのクルマが街中で走行すれば、目立って仕方ないと思うかもしれませんが、それもメーカーサイドの狙いのひとつでもあります。
謎のクルマを走らせることで、『なにか新しい車が発売されるらしいぞ』という期待感をユーザーに与えることにつながるほか、サーキット上で走らせても実際のディテールはつかみにくいため、そのわからなさがユーザーの興味を引き立たせます」と話します。
※ ※ ※
このような宣伝手法を「ティザー広告」「覆面広告」と呼び、商品の詳細をあえて知らせず注目を集めるという、自動車業界では広く使われている方法です。
代表例として、17年ぶりに復活を果たしたトヨタの新型「スープラ」があります。スープラの日本正式発表は2019年5月17日でしたが、それ以前に東京オートサロンやさまざまなイベントで一般ユーザーの前で、幾度となくカモフラージュモデルがお披露目しています。
この手法は、欧州の自動車メーカーでよく見られ、あえて人が多く集まる場所に出向きテストモデルをアピールしているのです。大手自動車メーカーの関係者は、「スープラのようなインパクトがあるクルマは、クルマ好きの興味を惹かなくてはいけません。そのため、クルマ好きが集まるイベントなどで露出することで大きな宣伝効果が期待できるのです」
■迷彩からスパイダーマンまでメーカーの遊び心と実用性
ひと口にテストモデルのカモフラージュ柄といっても、デザインはさまざまです。基本的に、全体像をぼかすことが目的なので、必然的に細かい、茫洋とした模様が多くなります。
そのなかで、多く目にするのが「デジタルカモフラージュ」。いわゆる「迷彩」なのですが、ミリタリー関係で用いられるような緑と茶色の迷彩ではなく、縞模様や唐草模様、渦巻き模様などがあり、主に白と黒とのモノトーンで描かれるケースが多く見られます。
ミリタリーの迷彩は、周囲に溶け込むことを目的としていることに対し、テストモデルに用いられる迷彩は、細かい模様が動くと画像認識能力が低下するという人間の特性を利用しており、あくまでもクルマが動いていることを想定した迷彩です。
また、第一次世界大戦中に多用された、戦艦の前後をわからなくさせるための「ダズル(幻惑)迷彩というデザインが採用されたこともありました。
ほかにも、カラフルなモザイク模様や花柄のような模様をラッピングするなど多岐にわたります。過去には、アメリカンコミックの「スパイダーマン」とコラボレーションした蜘蛛の巣柄なども存在。各メーカーのコンセプトや遊び心が反映されているのがテストモデルのラッピングでもあるのです。
現在、国内のテストモデル事情はどうなっているのでしょうか。大手自動車メーカーにデジタル迷彩のラッピングカーについて質問したところ「開発段階の車両のことですので、残念ながらテストスケジュールなどを情報公開することはできません。使用しているカラーリングに関しても、その意図や経緯をお話しすることは難しいです」とコメントしています。
クルマ好きの人がブログなどで「テストカーを目撃した!」と投稿していることもありますが、新型車のテストカーは、自動車業界のみならず社会的にも注目を集める存在です。
ネットニュースやSNSで大きな話題になるのも、その証拠といえるでしょう。とはいえ頻繁に見られたらスクープではなくなるため、テストモデルと出くわすのは幸運なことだといえます。
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