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コロナ禍で一部グレード受注停止も、ヴェゼルが好調を持続する作り込みの秘密

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コロナ禍で一部グレード受注停止も、ヴェゼルが好調を持続する作り込みの秘密

 2021年4月に発売開始されたホンダのコンパクトSUV ヴェゼル。2021年の1カ月平均登録台数は4389台と、ライバルSUVと比較しても十分に渡り合う好調な売れゆきが続く。ヴェゼルの堅調な売り上げの背景にあるものはなにか? 自動車評論家 渡辺陽一郎氏が、ホンダのクルマ作りの本質に迫る。

文/渡辺陽一郎、写真/HONDA、TOYOTA、NISSAN、MAZDA、SUBARU

コロナ禍で一部グレード受注停止も、ヴェゼルが好調を持続する作り込みの秘密

■堅調な売れゆきが続くコンパクトSUVのヴェゼル

ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」。コロナ禍にありながら2021年の1か月あたり販売台数は平均4389台と、堅調に推移した

 今はSUVが人気のカテゴリーになった。SUVはもともとジープのような悪路走行を目的とするクルマだったから、大径タイヤの装着など外観には野性味と存在感が伴う。

 ボディの上側はワゴンスタイルだから、居住性も優れ、荷物を積みやすい。つまりSUVは、カッコよくて実用的なことから人気を得た。

 SUVのなかでも特に注目される車種がコンパクトなホンダのヴェゼルだ。2021年には、コロナ禍により納期を遅らせながら、1カ月平均で4389台を登録した。

 トヨタのヤリスクロス(ヤリスとGRヤリスを除く)は2021年の1カ月平均が8670台、トヨタのライズも6823台だから、ヴェゼルは特に多くはない。それでも売れゆきは堅調だ。

 ホンダとトヨタでは、販売店舗数も異なる。トヨタは4600カ所の国内全店で、ヤリスクロスとライズを売るが、ホンダの店舗は2200カ所だ。販売網はトヨタの半分だから、1店舗当たりの取り扱い台数ではヴェゼルも健闘している。

 2021年におけるほかのコンパクトSUVの売れゆきは、日産キックスの1カ月平均が2920台、マツダCX-30は1613台、スバルXVは1314台という具合だ。

 ヴェゼルは前述の4389台だから、ライバル車にも充分に対抗できている。

■ヴェゼル人気の背景にある複数の理由

 ヴェゼルが人気を得た背景には複数の理由がある。まずはボディサイズだ。全長が4330mm、全幅は1790mm、最小回転半径も5.3~5.5mに収まり、水平基調のボディは視界もいい。従って混雑した街中や駐車場でも運転しやすい。

 また、ボディがコンパクトなわりに居住性は良好だ。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシふたつ半に達する。

 前後方向の足元空間は、クラスが上のホンダCR-Vやトヨタハリアーと同等に広い。前後席ともに座り心地もよく、4名で乗車して、長距離を快適に移動できる。

 後席の足元空間が広いので、荷室長(荷室の奥ゆき寸法)はキックスよりも短いが、ヴェゼルはシートアレンジが多彩だ。燃料タンクを前席の下に搭載するので、後席を床面へ落とし込むように小さく畳める。荷室容量を充分に確保した。

 後席の座面を持ち上げることも可能で、車内の中央に背の高い荷物を積める。荷室の使い勝手を総合的に判断すると、SUVのなかでも優れた部類に入る。

■上質な内装と割安な価格も後押し

 内装も上質だ。インパネには横長のパネルが備わり、エアコンのダイヤルスイッチも含めて、ていねいに作り込んだ。

 特にe:HEV・Zとe:HEV・PLaYでは、内装の装飾類も豊富に採用した。ヴェゼルe:HEV・Zとe:HEV・PLaYの質感は、CR-Vを上回り、クラスを超えた印象を受ける。

 冒頭で「SUVはカッコよくて実用的なことから人気を高めた」と述べたが、同じことがヴェゼルという商品自体にも当てはまる。

 運転しやすいサイズなのに、車内は広く上質で、大げさにいえば「小さな高級車」風のプレミアム感覚も味わえる。居住性や走行性能も含めて、魅力を多彩に備えることで人気を得た。

 割安な価格も大切な特徴だ。車内が広く内装も上質で、1.5Lノーマルエンジンを搭載するGの価格は227万9200円に収まる(価格はすべて2WDで表記)。

 ハイブリッドのe:HEVを搭載したベーシックなXは265万8700円だから、ノーマルエンジンとの価格差を37万9500円に抑えた。

 ハイブリッドとノーマルエンジンの価格差が40万円以上の車種も多いから、ヴェゼルのe:HEVには割安感が伴う。

 しかもe:HEV・Xを買う時に納める税金は、ノーマルエンジンのGよりも約9万円安い。実質差額は約29万円に縮まる。

 このようにヴェゼルの価格は全般的に割安で、e:HEV・Xは、ノーマルエンジンのGよりもさらに買い得だ。

 そして中級のe:HEV・Zは、ベーシックなe:HEV・Xに、後方の並走車両を検知して知らせるブラインドスポットインフォメーション、進行方向を照らすLEDアクティブコーナリングライト、ハンズフリーアクセスパワーテールゲート、フルオートエアコンの左右独立温度調節機能などを加えた。

 アルミホイールは18インチに拡大され、内外装の装飾も上級化している。

 これらのe:HEV・Zでプラスされた装備を価格に換算すると、約29万円に相当するが、価格の上乗せは23万9800円だ。

 e:HEV・Zは、ニーズの高い実用的な装備を豊富にそろえて、価格は289万8500円と割安だ。

■ホンダにはヴェゼルと同様「これで充分」と感じさせる人気車が多い

コンパクトなわりに居住性が広く、内装も上質、そして割安感ある価格と、ユーザーに「これで充分」と思わせる魅力を備えたのがヴェゼルの勝因と言える。そしてそれは、現在のホンダにユーザーが抱くであろうブランドイメージとも符号する

 以上のようにヴェゼルのグレード/装備/価格を見ると、ノーマルエンジンのGよりも、同程度の装備にハイブリッドを組み合わせたe:HEV・Xが割安だ。e:HEV・Zに上級化すると、買い得度は一層強まる。そのためにe:HEV・Zは販売比率も高く、ヴェゼル全体の76%を占める。

 総じてヴェゼルは、内装の質から価格の割安感までさまざまな要素を高水準に仕上げ、ユーザーは「これで充分」と実感できるから人気車になった。

 そしてホンダには、ヴェゼルと同様、「これで充分」と感じさせる人気車が多い。

 超絶的に売られている軽のN-BOXはその代表だ。軽自動車なのに車内は広く、内装も上質で、乗り心地や静粛性も満足できる。

 フィットも同様だ。全高は立体駐車場を使いやすい高さに抑えられ、視界の優れたボディで街中でも運転しやすく、後席の足元空間はヴェゼル並みに広い。シートアレンジも充実させて、価格は割安だから人気を得た。フリードも然り。

 これらのホンダ車は、「幅広い機能を両立させた買い得車」という点で共通する。

 そのために2021年におけるホンダの販売状況を見ると、国内で売られた新車の33%がN-BOXだった。N-WGNなども加えた軽自動車全体では53%に増えて、ヴェゼル、フィット、フリードも加えると84%に達する。

 今のホンダの国内販売は、排気量が1.5L以下の車種で完結しているのだ。

 その結果、ホンダのブランドイメージもコンパクトになった。

 かつてはシビックやスポーティなプレリュード、その後はオデッセイやCR-Vに移り、今は軽自動車とコンパクトな車種が支える。

 ヴェゼルが堅調に売られる背景には、ボディが小さなSUVだから、ホンダのブランドイメージに適している事情もある。

■CR-V低迷の理由 新型SUVも苦戦する!?

 上級SUVのCR-Vは、ヴェゼルとは逆に販売を低迷させている。

 2021年の1カ月平均登録台数は373台だから、ヴェゼルの8%しか売られていない。確かにCR-Vは、内装の作りに不満があり、そのわりに価格は高い。

 売りにくいクルマだが、今のホンダのブランドイメージに合わない影響もある。

 そうなると今後登場するヴェゼルとCR-Vの中間に位置するSUVも、今の状態では好調に売るのは難しい。ヴェゼルの存在感が強く、ホンダのSUVは「これで充分」と思わせるからだ。

 価格も課題になる。新型SUVはミドルサイズで、プラットフォームはシビックと共通だから、e:HEV搭載車の価格はインサイトLXの335万5000円と同等だろう。

 ヴェゼルe:HEV・Zの289万8500円に比べると、約46万円高くなってしまう。

 ちなみにCR-V・e:HEV・EXの価格は392万5900円だから、インサイトLXと比べても約57万円高い。そうなるとヴェゼルe:HEV・Z、新型SUVのe:HEV、CR-Vのe:HEV・EXは、約50万円刻みで設定される。

 そこにホンダのダウンサイジングされたブランドイメージを当てはめると、CR-Vほどではないが、新型SUVも割高に受け取られる。

■ダウンサイジングしてしまったブランドイメージを戻す努力が急務

「幅広い機能を両立させた買い得車」というイメージが、現在のホンダの売れ筋の中心だろう。しかしそれはかつてのホンダのブランドイメージからすれば「ダウンサイジング」されたものという印象も否めない。「これで充分」は上級志向のモデルの販売を阻むのだ

 この点を考慮すると、新型SUVを堅調に売るには、ヴェゼルが備えていない新しい魅力が必要だ。

 悪路向けSUVのような最低地上高と野性的な外観、ハンズフリー走行を可能にする先進の運転支援機能、ヴェゼルよりも明らかに上質な内外装などだ。

 これらを備えたうえで、価格はヴェゼルに近付けて、買い得度を強調する必要がある。

 新型SUVを堅調に売るためにも、小さくなったホンダのブランドイメージを元に戻さねばならない。

 まずは5月26日に正式発表(同月27日に発売)されるステップワゴンを確実に販売して、ブランドイメージのダウンサイジングを食い止めたい。

 その後に新型SUVを導入すれば、先代ヴェゼルからのアップサイジングなど、堅調に販売できる糸口も見つかるだろう。

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みんなのコメント

30件
  • あなた、墓穴掘った書き方してるよ。
    「これで十分」って思ってるのが
    みーんなN-BOXへ流れてるんだろ。
  • SUVカッコイイか?
    シャシーの上にボディが浮いた様に見えるか、ボディ側面がダラッと下にのびて胴長短足にみえて自分はどうもそう思えない。
    使い勝手いいのが先じゃないかな?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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