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【NISMO事業部設立から2年】NISMOが急速に浸透した事情と課題

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【NISMO事業部設立から2年】NISMOが急速に浸透した事情と課題

 2017年4月に日産はNISMOカーズ事業部の新設を発表。これは日産のプレミアムブランドとしてのNISMOロードカーのラインナップ充実が最大の狙いで、2020年代の前半には年間の販売規模を10万台以上に大幅拡大する目標を立てている。

 その構想発表から2年が経過。日産のNISMO戦略は軌道に乗り成功しているのかを鈴木直也氏が考察していく。

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文:鈴木直也/写真:NISSAN、SUBARU、平野学、ベストカーWeb編集部

価格が2倍でも買いたいと思わせるスポーツプレミアム

【画像ギャラリー:NISMOモデル】

 プレミアムカー御三家といえば、ベンツ、BMW、アウディのドイツ勢だが、いずれもその傘下にトンがったスポーツプレミアム部門を擁している。すなわち、AMG、M、クワトロという別会社なのだが、この別働隊がモータースポーツ活動をふくむ高性能バージョンの生産を担当している。

 はた目から見ると、これがじつに上手くいっているように見える。スーパーカー級のフラッグシップカーから、B/Cセグベースのホットハッチまで、標準ラインよりはるかに高価なバリエーションを揃えてユーザーの人気も高い。

NISMO戦略を積極的に展開する日産はルラインNISMOも現実的になってきた。スポーツカーだけでなく実用モデルにも設定していることが奏功

BMW M4クーペは 420i クーペスポーツの倍近いの1185万円。M4のエンジンスペックは420iの184ps/27.5kgmに対し 431ps/56.1kgmと強烈!!


 ちなみにその価格差は、C200 560万円に対してAMG C63は1235万円。BMW 420i クーペスポーツの596万円に対して、M4クーペは1185万円。アウディA4 2.0 578万円に対して、RS4アバントは1198万円。

 もちろんコストはかかるにせよ、ベースモデルに対して2倍の値付けで売れるなら、高級車市場に進出したメーカーなら誰もが「もやりたい!」と思う美味しいビジネスといえるだろう。

日本メーカーのブランド戦略も大きく変化

 日本のメーカーもそれはわかっていて、たとえば、トヨタがTRD→GR、日産がNISMO、スバルにはSTIといったスポーツブランドがある。

 ただ、これらはいずれもレース活動のかたわら、一般ユーザーに機能パーツやドレスアップ用品を供給するのがメイン。コンプリートカーを手がけるにはお金もかかるしリスクも大きいから、なかなかヨーロッパ勢の真似ができないのが現実だった。

トヨタはスポーツプレミアムブランドとしてGR戦略を推進していてGRスープラを登場させた。今後さらにハイチューンのGRモデルが追加されるのは間違いない

2017年10月にデビューしたS208は710万円と高価ながら限定の450台があっという間に完売。STIの手掛けるコンプリートカーはどのモデルも人気が高い

 しかし、ここ数年その構造が変化しはじめた。トヨタは章男社長肝いりでGRをスポーツブランドに育てる方針を明確化。手がけた86やヴィッツベースのコンプリートカーは従来より一歩も二歩も踏み込んだ本格派だし、復活したスープラも“GR”を頭に冠して「トヨタとは別物」という差別化をはかっている。

 STIもしっかりとブランドイメージを確立して、人気のコンプリートカーのSシリーズも絶好調で、発売即完売が続いている。

 これに負けじと元気がいいのが、日産のNISMOブランドだ。

 NISMOが日産から独立したのは意外に古く1984年のことだが、日産のブランド戦略の中でプレミアムスポーツブランドという立ち位置がハッキリしたのは、おそらく2013年の横浜鶴見への本社移転あたりから。これ以降、GT-Rを筆頭に、量産車でもNISMOの名を冠したバリエーションが増えてゆく。

NISMOの名前が一般にも浸透して大成功

NISMOカーズ事業部は2017年4月に設立されたが、遡れば2013年にNISMOがメーカー直系のチューナーから日産のスポーツブランドと位置付けられたことが大きい

 これを加速させたのが、2017年のニスモ・カーズ事業部設立だ。NISMOそのものはモータースポーツ活動を主体とする専門家集団で、コンプリートカーの生産が得意というわけではない。

 そこで、これまでもNISMOをふくむ日産系特装車の生産を担当してきたオーテックジャパンに、NISMOブランドを冠したロードカーの生産を統括する部門を新設。この時点で年間1.5万台規模の実績を、ゆくゆくは年間10万台程度まで引き上げる野心的なロードマップを描いている。

NISMOブランドは海外でも人気が高く、日本では販売していないセントラにNISMOを設定するなどロードカー戦略は国内だけにとどまらない

 現在では、EVのリーフ、コンパクトカーのマーチやノートをはじめ、SUVのジューク、ミニバンのセレナ、そしてフェアレディZやGT-Rなど、コンプリートカーとして7車種をラインナップ。

電気自動車のリーフは先代モデル、現行モデルともNISMOのモデルを設定。NISMOは赤いワンポイントを各所にあしらうのがアイデンティティとなっている

 新車不足の日産フリートのなかで、この陣容はなかなかの壮観といっていい。

 特に注目すべきは、ノートやセレナのような量販モデルでNISMOを選ぶユーザーが意外に多いという事実だろう。

 こういうファミリー向けの車種を買うユーザーは、パフォーマンスやスポーツ性に強い興味があるわけではないが、現場の声を取材すると「意外かもしれませんが、奥さま主導でNISMOを選ばれるケースが少なくないんです」という。

 つまり、内外装のデザインなどに表現されている、NISMOの“プレミアム感”を評価して購入しているということ。これは、ブランドとしてのNISMOが一般ユーザーまで広く浸透しつつある証しで、日本のスポーツブランドとしてはじめての現象。きわめて注目すべき事実だと思う。

ノート、ノートe-POWERのNISMOが売れている。これはNISMOの名前、ブランドイメージが一般に浸透しているのを実感させてくれる

ノーとともにNISMOの量販に大貢献のセレナNISMO。もともとセレナを選ぶオーナーはスポーティなものを好む傾向があり、NISMOが売れているのも必然と言える

GT-R NISMOの価格は大幅アップが濃厚!!

 というわけで、普及価格帯における浸透度という点ではかつてない成功を収めているNISMOだが、そうなるとむしろ課題は将来的なハイエンドモデルの育成になる。

 NISMOのフラッグシップはもちろんGT-R NISMOで、そのパフォーマンスやプレステージについては誰もが認める存在といっていい。

 2020年モデルの価格はアメリカでの価格が 21万740ドル(1ドル=108円で換算すると約2276万円)だから1870万200円だった前のモデルに比べると大幅アップとなる模様。

 ただ前評判を聞くとどうやら「その価値じゅうぶんにアリ!」らしい。

GT3のレーシングマシンからフィードバックされたターボ、軽量化などノーマルGT-Rとは一線を画すスペックを誇る。内容を考えれば2000万円超えでも高くない!?

 しかし、R35GT-Rは20年モデルが最終型となる気配だし、それに続くフェアレディZ NISMOも、後継モデルが見えてこない。この2車種がフェイドアウトすると、NISMOブランドのプレステージ性は大きくパワーダウン。やはり、こういうブランドには「フラッグシップとして世界トップクラスの高性能車を擁する」ことがきわめて重要なのだ。

モータースポーツはプレステージ性を高めるのに必須

 もひとつプレステージ性を高めるカギとなるモータースポーツ活動についても、NISMOは基本的に国内レース活動が主体。WRCやWECなど「世界選手権クラス」で活躍するトヨタGRに比べると、かなり見劣りするのは否めない。

日本のスーパーGTは日産&NISMOのモータースポーツ活動で今でも重要なポジションにあり、GT-Rでチャンピオン奪還を目指しまい進中!

 明るいニュースとしては、今年のニュル24時間でGT-Rが総合10位に食い込んだリザルト。

 トヨタみたいな大規模なモータースポーツ活動は無理としても、こういう風にテーマを絞って専門家筋に評価されるレースで実績を積むのは素晴らしいこと。その流れとして、レース用のGT3モデルやGT4モデルなどを、NISMOプロデュースで生産/販売するのも重要だろう。

量産EVで世界のイニシアチブを握っている日産はゼロエミッションのレーシングカーの開発にも積極的。リーフNISMO RCは先代モデルから大幅に進化している

NISMOヘリテージパーツの更なる拡大に期待

 また、日産の重要な資産として、歴史の長いレース活動から生まれたかずかずの名車たちの存在がある。初代スカG(S54)やGT-R(PGC10)はもはや神話の領域だし、R32GT-Rだってもう伝説の名車という扱い。

 こういう歴史遺産を大事にするという意味で、生産終了となった車の部品を供給する「NISMOヘリテージパーツ」などの活動も評価できる。

欠品となっているパーツをNISMOヘリテージパーツとして復刻。GT-Rだけでなく日産の多くの車種のパーツに拡大することに期待がかかる

 ゆくゆくは、名門スポーツカーブランドに見られるような、往年の名車を整備できる、オフィシャルなレストア部門などに発展してゆければ、日産にとってもNISMOにとってもプラス効果は大きい。

 現状、まずまずうまく回りはじめたといっていいNISMOのプレミアムブランド化戦略だが、気を抜くと途中でコケるのが日産の悪い癖。今後も息長く発展してゆくために、長期的な戦略を立てて頑張ってもらいたいものでございます。

【NISMOロードカーラインナップ&価格】
■GT-R NISMO(日本価格未発表・10月発売開始)
■フェアレディZ NISMO:629万3160円~
■リーフNISMO:403万2720円
■ノートe-POWER NISMO S:267万1920円/ NISMO:248万8320円
■ノートNISMO S:232万8480円/NISMO:212万2200円
■マーチNISMO S:184万2480円/NISMO:160万3800円
■セレナNISMO:342万4680円
■ジュークNISMO RS:346万8960円/NISMO:297万1080円

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