見た目どおりの高性能なスポーツカー、その逆に見た目は凄いけど実際に走らせてみるとショボかったクルマなどがあるいっぽう、昔からクルマ界では、見た目は普通なのに高性能が与えられたクルマに対して、『羊の皮をかぶった狼』とクルマ好きを熱くしてきた。
スポーツカー受難の現在では、見た目は普通なのに高性能というクルマは多く存在する。ミニバンなのにハンドリングがいい、SUVなのに走りが気持ちいいといったものもある。
嗚呼アコード、シビック……良い車なのになぜ? 売れていないホンダ車の事情
本企画では、走りに関してスポーツカー顔負けの性能や資質を持った現行国産車を3台、輸入車を1台松田秀士氏が選び、その魅力について考察していく。
文/松田秀士、写真:HONDA、MAZDA、SUBARU、VW、池之平昌信
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ホンダインサイト
価格:335万5000~372万9000円
4ドアクーペ的なフォルムが美しいインサイト。2020年5月にマイチェンを受けてリフレッシュ。シャープな顔つきもスポーツを感じさせる
インサイトはホンダのハイブリッドセダンで、スポーティなエクステリアデザインが与えられているものの、燃費志向の実用セダンというイメージがあるかもしれないが、走らせるとかなりの実力派なのだ。
まずはパワートレインから。
インサイトは実用域をモーターで走るe:HEVが搭載されているが、モーターのスムーズに回る気持ちよさがある。
100%電気自動車の日産リーフのような加速感はないものの、起動トルクが大きく、ストップ&ゴーが続く街中でも気持ちのいい発進加速によってキビキビと走ることができる。
インサイトは100km/hを超える領域でも加速が持続するのが気持ちいい。よく動くアシによってロードホールディング性にも優れている
日本も一部の高速道路は最高速度が120km/hになっていて、今後120km/h時代到来となる可能性が高いなか、インサイトは100km/hを超えても加速が伸びるのが気持ちいい。
日産のe-POWERが高速域で燃費が悪化するのに対し、e:HEVは100km/h以上ではエンジンが駆動用にも使われるので高効率。この高速域での効率、気持ちよさが余裕につながり、安全性の向上にも貢献している。
インサイトはe:HEVによる加速感がスポーティで気持ちがいいが、ハンドリングのよさもスポーツカー的と言っていい。
最近のホンダは足回りについて、サスペンションを動かすセッティングを施す方向になってきていて、インサイトのハンドリングもスポーツカーを凌駕するレベル。
高速走行時のレーンチェンジをした時などもアシの素性のよさがわかる。現代のスポーツカー的なハンドリングは隠れた実力派
ワインディングを走る場合でも、深くロールせずコーナーをうまくトレースし、セダンながら車高も高くないので非常にスタビリティが高い。
インサイトはドライビングポジションもスポーツカー的でその気にさせてくれるのもいい。
販売台数はそれほど多くないこともあり、街中でも目にする機会は少ないかもしれない。ただ、インサイトはエコ環境時代にスポーツできるセダンとして隠れた存在と言えるだろう。
マツダCX-5
価格:342万1000~365万2000円(2.5Lターボ)
マツダのミドルクラスSUVで販売も好調なCX-5には、ガソリンエンジンが3種類、クリーンディーゼルが1種類の合計4つのエンジンをラインナップ
今回取り上げるマツダCX-5はミドルクラスSUVなのだが、3列シートモデルのCX-8が登場した今では、全長4545×全幅1840×全高1690mmのボディは、全幅はあるが全長が短いので運転していて非常にコンパクトに感じる。
CX-5には2L、2.5L、2.2Lクリーンディーゼルに加え、2.5Lターボが追加され、合計4種類のエンジンをラインナップ。今のご時世、1車種に4種類のエンジンというのは非常に珍しい。
その中でスポーツカー的と言えば、2.5Lターボにとどめを刺す。
マツダのエンジンは昔からパンチがありながら高回転での気持ちよさも好演出している。
2018年に追加されたSKYACTIV-2.5Tは2.5L、直4DOHCターボで、230PS/42.8kgmのスペック。暴力的なまでの加速感が魅力
エンジンそのものだけでなく補機類やトランスミッションで工夫しているのが特徴だが、CX-5に搭載されている2.5Lターボは、エンジン単体で真っ向勝負している。
2.2Lのクリーンディーゼルは低速からのビッグトルクにより実用域での優れた加速性能を実現。有り余る余裕のトルクが魅力だが、高速でグイグイ加速するというタイプではない。
それに対し2.5Lターボ搭載モデルは、踏んだら踏んだだけ加速する気持ちのいいフィーリングが魅力。その加速感は暴力的でもあるから凄い。
この2.5LターボはCX-8にも搭載されているが、車重が増えることもあって、CX-5ほどの気持ちよさはない。
現在のターボエンジンはどれもがジェントルでおとなしいフィーリングになっているのとは対照的。こんな尖ったフィーリングのエンジンは今後出てこず最後になるのではないだろうか。そういった意味で貴重種だ。
このエンジンはかなり面白いです。
現代のターボエンジンがジェントルなフィーリングになっているのとは対照的にCX-5の2.5Lターボは非常にメリハリがあって、盛り上がるトルクが強烈
そして、元気なエンジンが堪能できるサスペンションセッティングが施されていて、ハンドリングもしっかりしている。
スポーツカーのように気ままに突っ走っていく気持ちよさがあると同時に、SUVということでアイポイントが高いため、見下ろして運転する快感もある。
2.5Lターボを搭載したCX-5は相当オモシロい。
スバルレヴォーグ
価格:310万2000~409万2000円
新型レヴォーグは、旧型レヴォーグに比べて足回りが非常に柔らかくなっているが、ハンドリング、乗り味は紛れもなくスポーツカー的だ
新型レヴォーグには新開発の1.8Lターボが搭載された。デビュー時点でのエンジンはこの1.8Lターボのみ。
この1.8Lターボはそれほどパワーがあるわけではないため、パフォーマンス的にはスポーツカー的ではない。
しかし、乗り味、ハンドリングについてはスポーツカーをも凌駕するレベルの仕上がりとなっている。実際にクォリティという点では、従来のレヴォーグに比べて2クラスくらいアップしている。
スバルグローバルプラットフォーム×フルインナーフレーム構造の採用により、新型レヴォーグのボディのしっかり感は凄い。これが走りにも好影響
ボクはボディ剛性そのものは重視していない。素材が鉄である以上、どうしても曲がる感じがあるからだ。しかし、新型レヴォーグについては、インナープラットフォームの採用によりボディが曲がる感じがまったくしない。このしっかり感はすばらしい。
そして足回りについては、ちゃんとストロークさせて曲がりましょう、ということを徹底している。
旧世代の人間の場合、スポーツカーの足はガチガチで、柔らかいアシはスポーツじゃないという感覚が根強く残っている。その考えの元で作られた国産スポーツカーもたくさん存在した。
新型レヴォーグほど柔らかくしなやかなサスペンションの日本車は存在しなかった。柔らかい=スポーティではないというのは過去の話
しかし、現在のスポーツカーはストロークさせるのが常識となっている。その最たるものがF1マシンで、昔と違いストローク量はケタ違いなのだ。
レヴォーグはコーナリング時にスムーズにロールしてしなやかに曲がっていく。こんなしなやかなアシの日本車は初めてだ。
これまでにも乗り心地を重視した柔らかいだけのアシのクルマはあったが、レヴォーグはそれらとは一線を画す。
硬いからダメなことはあっても、柔らかいからダメということはない、というのがボクの持論で、柔らかいクルマはコーナリング中に切り足しがきくというメリットもある。
スポーツカーでもレーシングマシンでも速く走る、気持ちよく走るためにはタイヤをしっかりと使い切ることが重要になる。
タイヤが常に最適なグリップを確保し、その変化が少ないため、ウェットなどの低μ路でも安心して走ることができるのは大きな魅力
アシが硬いとタイヤが跳ねてしまうのに対し、柔らかいアシではタイヤを路面に押し付けることができる。
新型レヴォーグは、デコボコな路面でもアシがしっかりと動くので、グリップを変化させずにコーナリングすることができる。
新型レヴォーグは新世代のスポーツカーのハンドリング、乗り味を持っていると言えるだろう。
VW T-ROC
価格:384万9000~453万9000円
T-ROCはゴルフベースのクロスオーバーSUVで、走りの質感が高い。特に室内の静粛性はセールスポイントだ
T-ROCはT-CROSSがポロベースに対し、ゴルフをベースとしたクロスオーバーSUVで、欧州では2017年8月に販売を開始している。
ボクはワールドCOTYの選考委員をしていることもあり、欧州デビュー後試乗した時に、その走りの気持ちよさから、すぐに日本に導入してほしいと感じたモデルだ。
欧州デビューから3年遅れではあるが、2020年8月からようやく日本でも販売を開始。
T-ROCは欧州ではガソリン、ディーゼル合わせて6種類のエンジンが搭載されているが、日本で販売されるのはクリーンディーゼルの2LのTDIのみとなる。
1580mmという低い車高はハンドリングに好影響。よく動くアシと低い車高によりスタビリティが高い。しかし乗ればSUVらしい見下ろす感じでもある
T-ROCの走りで最もすばらしいのは高速走行における直進安定性だろう。おまけにロードノイズなどもしっかりと抑えられていて、室内の静粛性が高く、乗り心地もいい。
1590mmというクロスオーバーSUVとしては低い車高により、コンパクトSUVのなかではハンドリングもいい。背は低いが乗り込んで運転すると、アイポイントが高いため、SUVであることを実感できるのもいい。
ここまで書いた時点では、T-ROCは単なる快適なクロスオーバーSUVじゃないか、となるだろうが、前述のレヴォーグ同様に、現代のスポーツカーに必要なタイヤをしっかりと使いこなせるポテンシャルを持っているのだ。
T-ROCの走りの特筆ポイントは直進安定性がすばらしいことで、スピードが上がるほど安定してくるのはさすが
足回りは前述のレヴォーグほどの柔らかさではないが、必要なぶんだけしっかりと動く。常にきちんとタイヤが接地しているので、コーナリングパフォーマンスが高くなると同時にドライバーに与える安心感も高い。
輸入車SUVはいろいろなタイプが登場しているが、走りの気持ちいい、質感の高いSUVとして覚えておいて損はないだろう。
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