「BMWパワーの新展開」最後のキーワードは「X:4輪駆動」。この「X」がもたらすBMWの走りの世界はいつのまにか大きな広がりを見せている。とくに、X3とX4のグレード数とエンジンのラインナップを見直すとその充実ぶりには驚かされる。単に人気だから選択肢を増やしたのか。いや、乗り比べるとそのほかの理由も見えてくる(Motor Magazine 2022年4月号より)
アグレッシブかつ未来志向のスタイリングへと進化
マイナーチェンジを受けたX3とX4をずらりと揃えて、その幅広いラインナップの魅力とBMWの戦略について探ってみようというのが本稿の趣旨である。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
昨秋に発表された新型のX3ならびにX4は、内外装のデザインが見直されるとともに運転支援機能を充実させたほか、一部モデルはパワートレーンが改良された。
たとえばX3のMパフォーマンスモデルであるX3 M40dには新たにマイルドハイブリッドシステムを搭載。最高出力を326psから340psへ、最大トルクを680Nmから700Nmと強化したほか、燃費も10%ほど改善している。さらには排出ガス規制の強化や安全装備の追加などで価格が上がるいっぽうの昨今、価格が6万円安くなったことも見逃せないポイントだ。
MハイパフォーマンスモデルのX3 MコンペティションならびにX4 Mコンペティションも最大トルクが600Nmから650Nmに引き上げられた(最高出力は510psで変わらず)。しかも、こちらはラインナップをコンペティションのみに絞ったうえで60~83万円もの値下げを実施したのだから、ファンにとってはたまらないニュースといえる。
そのほかのモデルの最高出力や最大トルクは従来と同様ながら、カタログ上の燃費データはいくぶん向上。さらにはハンズオフ機能付きの渋滞運転支援機能を搭載したりコネクテッド機能が強化されているので、数万円程度の価格上昇はやむを得ないところだろう。
デザインの変化も目覚ましい。ドマゴイ・ジューケッツ氏がBMWブランドのデザインを率いるようになって以降、アグレッシブで未来志向の強いスタイリングに順次生まれ変わっているBMWだが、X3やX4も同じ方向性で手直しを実施。
ヘッドライトは目力が強い「薄目タイプ」に改められたほか、バンパー下のエアインテークも直線基調の力強いデザインとされた。フロントグリルはいずれも縦格子だった先代と異なり、標準型ではX3が引き続き縦格子、X4は格子状に並べたドットパターンとして差別化を図った。
リアデザインも見直されたが、X3に採用された幾何学模様を思わせるテールライトはいかにもジューケッツらしいデザインで、X4のシンプルなテールライトとは好対照を成している。
ガソリン2機種とディーゼル2機種を乗り比べ
今回はX3 xDrive20d、X3 M40d、X4 xDrive30i、X4 Mコンペティションの4台を比較試乗した。わかりやすく説明すると、X3はディーゼルの標準モデルとトップモデル、X4はガソリンの標準モデルとハイパフォーマンスモデルに登場を願った格好だ。
最初にハンドルを握ったのはベーシックモデルのX3 xDrive20d。マイナーチェンジ前のX4 xDrive20dに試乗したことがあるが、これに比べるとエンジン始動時の振動やノイズが圧倒的に小さく、そのディーゼルらしからぬ洗練された振る舞いに大いに驚かされた。
エンジンの滑らかな印象は走り始めてからも変わらず、ディーゼルエンジンが苦手としている「低回転域からの力強い加速」を試してもキンキンというノイズを発することなく、スムーズに速度を上げていく。しかも、エンジン回転が上昇するスピードがディーゼルとは思えないほど素早く、ストレスを感じさせない。
やがてタコメーターの針はスルスルと4500rpm付近まで到達。さすがにこの領域になると回転数の上がり方に「息苦しさ」を感じるようになるものの、だからといってバイブレーションが増えるわけでもなく、5000rpmから始まるレッドゾーンまですんなりと到達してしまうのだから恐れ入る。しかも、いかにもディーゼルらしく中低速域のトルクはたっぷりしているので、実に扱いやすい。極めて魅力的なパワートレーンといっていいだろう。
乗り心地もしなやかで快適だった。引き続きランフラットタイヤを装着しているにもかかわらず、段差を乗り越える際にはタイヤに分厚いクッションが巻き付けられているかのような優しい感触を示してくれるのだ。これは試乗車がMスポーツではなくレギュラーモデルだったことが大きく関係しているはず。おまけに速度を上げてもボディを無理なくフラットな姿勢に保ってくれる。この洗練された乗り心地とパワートレーンの感触がよくマッチしていて、プレミアムカーと呼ぶに相応しい上質な世界を作り出していた。
失われていた直6特有の鼓動が復活したX4 M
このX3 xDrive20dの平和な世界と対極にあるのがX4 Mコンペティションである。最新のM4コンペティションと同じストレート6エンジンを搭載するX4 Mコンペティションは、どんな回転域からでもすさまじいばかりのパワーを発揮。
もはやパワーバンドという概念が不要なくらい、縦横無尽なハイパフォーマンスぶりを示す。しかもスロットルレスポンスが恐ろしいほど鋭く、ペダルを踏み込んだ次の瞬間にはパワーの奔流に呑み込まれてしまうほど、エンジン出力は鋭敏に立ち上がる。
ただし、そういった性能面以上に強調したくなるのが、なんとも心地いいストレート6のフィーリングである。BMWの直列6気筒エンジンがシルキースムーズと称されるほどの滑らかさを備えていることは周知のとおり。ただし、F30の3シリーズなどに積まれたターボ仕様あたりからストレート6特有のビート感が失われ、単なるデッドスムーズに変わり果ててしまったように思っていた。
しかし、最新のM3やM4ではスムーズななかにも直列6気筒ならではの規則正しい鼓動が感じられるようになり、その奥深い官能の世界にどっぷりと浸れるようになった。これこそ、ほかのエンジン形式では味わえない、ストレート6の世界といえる。
X4Mもこれと同じで、単純な滑らかさとはひと味もふた味も異なる魅惑的なバイブレーションを楽しめる。最近は他ブランドからもストレート6の個性を前面に打ち出したエンジンが登場しているので、「直6の本家」としてはこうした状況が看過できなかったのではないだろうか。
足まわりも、どこかM4コンペティションに通ずるロードホールディング重視のセッティングに変わっていた。ただし、重心高の高いSUVボディを支える都合か、路面からのショックをヤンワリとかわすのは苦手で、快適性の面ではM4コンペティションに大きく後れをとっている。つまり、X4Mの足まわりはあくまでもスポーツドライビング好きのための設定で、誰にでも安心してお勧めできる乗り心地ではなかったのだ。
3Lディーゼルは優秀だが乗り心地には不満が残る
X3 M40dはディーゼルエンジンながら、やはりストレート6の魅力に溢れたモデル。BMW製ディーゼルユニットの吹き上がりが鋭いことはX3 20dの項でも述べたが、X3 M40dは別格で、回転数の上昇の仕方は一部のガソリンエンジンより鋭いと思えるほど。そのうえでストレート6らしいビートが感じられ、ときにはガソリンエンジン顔負けの魅力的なサウンドを奏でてくれる。これまでにあまり例がない、極めて官能的で、しかも万能なパワーユニットといえる。
これに組み合わされるシャシはMパフォーマンスモデルゆえに硬め。いや、5シリーズや4シリーズのMパフォーマンスモデルのように「強靱ななかにもしなやかさが感じられる」タイプではなく、ゴツゴツというショックがやや不快に感じられるほどだった。エンジンが極めて上質な回り方をするだけに、この点は残念。いっそのことM760Liのように「ゴージャスなスポーツモデル」に仕上げたほうが、このエンジンの魅力を生かせたように思える。
最後にハンドルを握ったX4 xDrive30iはガソリンエンジンゆえに2台のディーゼルモデルよりさらに滑らかで静か。このパワーユニットが本領を発揮し始めるのは3000rpmを越えてからで、そこから6500rpmまで一気に吹け上がる。
その意味でスポーティな味わいを秘めたパワーユニットといえる。いっぽうで4気筒らしいバイブレーションや音は敢えて打ち消されていたが、いっそのことそれらを前面に打ち出したほうがBMWファンから喜ばれたのではなかろうか。
Mスポーツの足まわりは、ストロークの浅い領域に妙な硬さが残っており、そこからさらにストロークしたときに伝わるしなやかさとの間に軽いアンバランスが感じられた。個人的には、当たりが柔らかいレギュラーモデルのほうが好みだ。
X3とX4をとおしてBMWの戦略が明確に見えた
今回、試乗した4台は4気筒のガソリンとディーゼル、6気筒のガソリンとディーゼルという計4種類のエンジンを搭載。X3にはさらに4気筒ガソリンのプラグインハイブリッドが用意されるほか、BEVのiX3も含めればパワーユニットは合計で6種類になる。ひとつのセグメントにこれだけ多種多様なパワーユニットを用意している輸入車メーカーは、BMWだけだろう。
しかも、ボディはSUVとSUVクーペの2タイプを用意。2台の間には全高に50mm以上の差があるものの、身長171cmの筆者が腰掛ける分にはどちらも十分な室内スペースを備えていた。それはリアシートも同様。ただし、180cmを越える乗員がX4の後席に座るとやや窮屈に感じるかもしれない。この点ではX3のほうが有利だ。
私が計った範囲でいえば、ラゲッジスペースの床面積もX3とX4で変わらなかった。ただし、高さ方向に関してはx3のほうがたっぷりとしており、これが25Lという荷室容量の差につながっている模様。ただし、その差も決定的な違いとはいえないので、スタイリングの好みでX3かX4かを選ぶのが正解だろう。
以前、BEVがデザインに与える影響をジューケッツ氏に質問したところ、彼は「ひとつのボディに多様なパワートレーンを用意するのがBMWの戦略。どれを選ぶかはお客様次第」という趣旨のことを言っていた。なるほど、X3とX4はジューケッツ氏が主張したとおりのことを実現している。
それはレギュラーモデル、Mスポーツ、Mパフォーマンス、Mハイパフォーマンスの4タイプを揃えたグレード体系についても同様。この幅広い選択肢にこそ、BMWの魅力の根源があるといえる。(文:大谷達也/写真:永元秀和)
BMW X3 xDrive20d主要諸元
●全長×全幅×全高:4720×1890×1675mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:1880kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量:1995cc
●最高出力:140kW(190ps)/4000rpm
●最大トルク:400Nm/1750-2500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:軽油・68L
●WLTCモード燃費:14.5km/L
●タイヤサイズ:245/50R19
●車両価格(税込):733万円
BMW X3 M40d主要諸元
●全長×全幅×全高:4725×1895×1675mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:2050kg
●エンジン:直6DOHCディーゼルターボ+モーター
●総排気量:2992cc
●最高出力:250kW(340ps)/4400rpm
●最大トルク:700Nm/1750-2250rpm
●モーター最高出力:8kW(11ps)/10000rpm
●モーター最大トルク:53Nm/500rpm(原動機始動時)、35Nm/2500rpm(原動機アシスト時)
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:軽油・68L
●WLTCモード燃費:13.8km/L
●タイヤサイズ:前245/45R20、後275/40R20
●車両価格(税込):920万円
BMW X4 xDrive30i Mスポーツ主要諸元
●全長×全幅×全高:4765×1920×1620mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:1850kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1998cc
●最高出力:185kW(252ps)/5200rpm
●最大トルク:350Nm/1450-4800rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・65L
●WLTCモード燃費:11.8km/L
●タイヤサイズ:245/50R19
●車両価格(税込):854万円
BMW X4 Mコンペティション主要諸元
●全長×全幅×全高:4760×1925×1620mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:2020kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●総排気量:2992cc
●最高出力:375kW(510ps)/6250rpm
●最大トルク:650Nm/2750-5500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・65L
●WLTCモード燃費:9.1km/L
●タイヤサイズ:前255/40R21、後265/40R21
●車両価格(税込):1365万円
[ アルバム : X4 Mコンペティション/ X3 M40d/X4 xDrive30i Mスポーツ/X3 xDrive20d:明確に異なるそれぞれが目指すところ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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