車の最新技術 [2023.11.06 UP]
シートレールがなくなる!? 「THK」の次世代スライド機構【石井昌道】
文●石井昌道 写真●THK
ジャパンモビリティショーを総括する【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
11月5日に閉幕したジャパンモビリティショー。自動車を含むモビリティを中心に、他産業やスタートアップなど新しい仲間を加えて東京モーターショーから名称変更した初めてのショーは、来場者数目標100万人のところ111万2000人を達成してひとまず成功に終わった。たしかに、自動車だけではなく空飛ぶクルマや個人用モビリティなどが目をひくとともに、自動車メーカー以外の出展も興味深いものが多く、視野が広げたことがショーの内容を濃くしたように思える。
THK LSR-05
ある意味では今回のメインともいえる次世代モビリティ関連のエリアでひときわ目立っていたのが、THKのEVプロトタイプカー“LSR-05”。
ショー向けに着飾っただけのコンセプトカーではなく、法規対応なども考慮した現実的なカタチをしながらじつにスタイリッシュであることに目を奪われ、じっくり観察しようと近づいていったら、側にいすゞや日産で辣腕を奮ったカーデザイナーの中村史郎さんが取材の対応をされていた。それで合点がいった。中村さんが手がけたからこそのクオリティなのだ。
過去に海外のモーターショーで何度も日産やインフィニティのデザインコンセプトカーの取材をさせていただいたのだが、それらとも共通する、存在感が抜群に高いのに、押しつけがましいところがなく、気品のあるLSR-05のデザイン。個人的には、新しいけれど、どこか懐かしいと感じたのは、過去に取材した中村さんが手がけたコンセプトカーに通じるところがあったからだろう。
THK LSR-05
中村さんは日産を勇退した後、株式会社SN DESIGN PLATFORMを立ち上げ、今回のジャパンモビリティショーでは4台のデザインを担当したという。
THKは自動車部品や産業機器、医療機器、ロボット、IoTサービスなど幅広い分野を手がける大手機械要素部品メーカー。1972年に、レールの溝をボールなどとかみ合わせてスムーズに直線運動を行う“直線案内機器(LMガイド)”を世界で初めて製品化し、現在でも閣内70%、世界50%超のシェアを誇る。
LSR-05は創業50周年を機に、自社製品の評価のために、本物の自動車を製作しようというプロジェクトから生まれた。全長4995×全幅1965×全高1530mmのクロスオーバー4シータークーペ。プラットフォームにTHK独自開発の93kW(800V仕様)の可変磁束型インホイールモーターをリアに2基、フロントには220kWのモーターを1基搭載した4輪ステア機構を採用している。アクティブサスペンション、MR流体減衰力可変ダンパー、電動ブレーキなども採用して上質な乗り味を目指したという。
THK LSR-05
インテリアではステルスシートスライドシステムを採用して完全なフラットフロアとなっている。これのコアは同社がパイオニアであるLMガイドであり、シートレールなしに、シートのロングスライドを実現している。
中村史郎さんに、自動車メーカーでの仕事と何か違うことはありますか?と質問すると、
「現実的な設計の上で、自分達の技術力をいかして理想を追求しようというプロジェクトでやりがいがありましたね。現実的というのは、たとえば観音開きドアですが、きちんとBピラーを持たせていることや、衝突安全などを考慮していることです。LSR-05でワクワクしたのが、ステルスシートスライドシステム。シートレールというのは本当に無粋でね。自動車メーカーにいた頃も、何とかなくせないものかと考えていたけれど、コストの制約などでできなかった。それがTHKのLMガイドで実現したのが感動的でした。これは画期的なので、とくに高級車では需要があると思いますよ」とのこと。LSR-05のコンセプト作りから深く関わってきただけに充実した仕事ができたようだ。また、シートレールはカーペットなどで隠しても目立ってしまううえに、ゴミやホコリもたまりやすく、なくすことができるのであれば理想的。いまのところ、採用すればコストはそれなりにかかるだろうが、将来的には一般的なモデルまで広がっていくかもしれない。
THK ステルスシートスライドシステム
LSR-05は実走行実験などもしているそうで、デザイン的にも技術的にも、これで終わらせてしまうのはもったいない。ソニーが2020年に、やはり実走行可能なVISION-Sを製作してから、ソニーホンダへと発展して2025年発売予定のアフィーラに繋がったように、何らかのアクションが起きることに期待したいものだ。
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みんなのコメント
まあ、THK製品を使える所に使いまくって頑張った車。