2018年7月12日にグッドウッドで世界初公開されたマクラーレン600LT。7月30日には日本でもお披露めされ、話題を呼んだのも記憶に新しい。今回はハンガリー・ハンガロリンクサーキットで開催された、その国際試乗会の模様をレポートする。(Motor Magazine 2018年11月号より)
ボディを軽量化した効果は絶大、軽いから楽しく扱いやすい
マクラーレン570Sから今回の主役となる600LTに乗り換えて、ハンガロリンクサーキットを走り始めた瞬間、600LTの“軽さ”を体感できた。スロットルレスポンスが鋭くて、わずかに右足を踏み込んだだけでも羽毛をフッと吹き飛ばしたかのような軽快さで加速する。
ハンドル操作に対するレスポンスの良さも同様だが、それ以上に印象的だったのが、路面のざらつきまで感じられるほどハンドルから得られるインフォメーションが豊富だったことだ。これは、サスペンションのバネレートを570Sに比べて前/後=13%/34%引き上げるとともに、タイヤを570SのピレリPゼロコルサから、一段とスポーティなトロフェオRに変更した影響だろう。
ボディを軽量化した効果はサーキットを本格的に走ることでさらに深く理解できた。それは単に操舵へのレスポンスが鋭いとか、加速感が軽快であるとかといったことだけに留まらない。
たとえば、タイヤのグリップ限界に近いコーナリング時には、リアが流れ始めるのをいち早く感じ取れる。それと同時に、ドライバーが適切な修正操作をすればクルマは直ちに反応し、もとの安定した姿勢を素早く取り戻してくれることからも、その効果は確認できる。
13項目の軽量化プログラム同時に空力性能をより強化
こう聞くと、600LTをサーキットで操るには高度なドライビングテクニックが必要と思われるかもしれないが、実はその反対だ。
重いクルマは、滑り出しの挙動が鈍いためにドライバーが気づくのも遅れがちで、修正を行ってもこれに反応するまでに時間がかかり、結果的にカウンターステアが間に合わずにスピンモードに陥ることがままある。つまり、重いクルマの方がドライバーは自分の感覚を鋭敏に磨き上げ、何か起きたときには瞬時に素早く、正確に反応することが求められるのだ。
しかし、軽いクルマは滑り出す動作も速いかもしれないが、ドライバーはいち早くそのことを察知できるうえ、修正動作に対する反応も速いので結果的に扱いやすいと感じることが多い。600LTはまさにその典型。そのハンドルを握れば、軽量化設計がすべてドライビングプレジャーに結びつけられていることを実感できる。
このクラスでは珍しいカーボンモノコックを採用する570Sですら乾燥重量は1330kgプラスアルファと、かなりの“ライト級”。それが600LTでは1247kgと、ここからさらに100kg近いダイエットを実現したのだ。ボディパネルの一部カーボンコンポジット化、超軽量シートの採用(これだけで何と21 kg減!)、サスペンションパーツの軽量化、全長が短い軽量エキゾースト系への換装など、その軽量化への取り組みは実に13項目にも及んでいる。
ちなみに600LTで重量増を招いたのは固定式リアウイングの装着だけだが、装着ステーを含むその重量はわずか3.5kgで、マクラーレンの軽量設計思想はここにも息づいていることがわかる。
600LTのもうひとつの特徴が、優れたエアロダイナミクスだ。250km/h走行時におけるダウンフォース量は、ベースとなった570Sより100kgも増えている。前述のリアウイングに加えて、大型のリアディフューザー、前方に向けて大きく突き出したフロントスプリッターによって生み出されるものだが、その効果は絶大。240km/hオーバーからのフルブレーキングでもボディはまったく揺るがなかった。この超高速域でのスタビリティ感の高さ、いかにもマクラーレンらしいものだ。
価格はおよそ3000万円。動力性能はポルシェ911 GT2 RSとほぼ同等で、車重は600LTのほうが100kg以上も軽い(マクラーレン調べ)と聞けば、そのパフォーマンスの高さがご想像いただけるはず。
生産台数に上限を設けるのではなく、2018年10月から1年間だけ受注を受け付ける販売方法も600LTを確実に手に入れたいと願うファンには朗報といえる。(文:大谷達也)
マクラーレン 600LT 主要諸元
●全長×全幅×全高=4604×2095×1191mm ●ホイールベース=2670mm ●車両重量=1530kg(欧州値) ●エンジン=V8DOHCツインターボ ●排気量=3799cc ●最高出力=600ps/7500rpm ●最大トルク=620Nm/5500-6500rpm ●トランスミッション=7速DCT ●駆動方式=MR ●最高速=328km/h ●0→100km/h加速=2.9秒
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