ピニンファリーナによる優雅なボディ
イタリアのデザイン企業、カロッツエリアのピニンファリーナ社が迎えた往年の黄金期では、プジョーとの結びつきが商業的に重要な意味を持っていた。1955年の中型モデル、403を皮切りに、フランス人に身近なクルマへ洗練されたスタイリングが施された。
【画像】ピニンファリーナの美ワゴン プジョー504 ブレークリビエラ 現行の308と508のSWも 全99枚
プジョー504 サルーンが発表されたのは1968年。その仕上がりが評価され、1969年の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。1982年までに合計280万台を生産し、先代の404が築き上げた成功を継承した。
スタイリングだけでなく、ボディ製造もピニンファリーナ社が担当することで、美しい504 クーペとカブリオレも生み出された。フランスの優れた設計を、イタリアの優雅なボディが包み込んだ。
504 サルーンのスタイリングを手掛けたのは、ピニンファリーナ社に在籍していた巨匠、アルド・ブロヴァローネ氏。一方のクーペとカブリオレは、1920年代から創業者のバッティスタ・ファリーナ氏と仕事をしていた、フランコ・マルティネンゴ氏だった。
美しい2種類の2ドアモデルは、マルティネンゴのキャリアの最終章として素晴らしい仕上がりにあった。4灯の長方形のヘッドライトが、大きく口を開いたフロントノーズに収まっていた。滑らかな曲面がボディサイドを覆い、ふくよかなリアへ展開していた。
1.8Lと2.0Lの4気筒ほかV6 PRVユニットも
控えめで情緒豊かなスタイリングを目の当たりにし、心が動かされたプジョーの経営陣は量産化を決定。13年間に3万5000台がオーナーのもとへ届けられた。販売台数でいえば、フィアット124やアルファ・ロメオ・スパイダーの方が多かったけれど。
ちなみに、当時のピニンファリーナ社は好調の波に乗っていた。フェラーリ365 GTB/4 デイトナやフェラーリ・ディーノ206 GTなどの傑作も、同時期に生み出している。
504 クーペとカブリオレの発表は1969年のジュネーブ・モーターショー。ホイールベースはサルーンより7インチ(約178mm)短く、2+2のパッケージングを得ていた。504では最も高額な、燃料インジェクション版サルーンの約半額という価格設定だった。
ピニンファリーナ社の工場で製造されたボディは、フィアットやランチア、アルファ・ロメオなどのからの受注モデルと同様に塗装され、ボディトリムもイタリアで装着。アルプス山脈を越えてフランスへ届けられた。
プジョーが設計したサスペンションは、フロントがストラット式で、リアがセミトレーリングアーム式。ドライブトレインはリアタイヤへ効率的に駆動力を伝達する、トルクチューブが採用された。
当初の1.8L 4気筒エンジンへ燃料を供給したのは、クーゲルフィッシャー式の機械式インジェクション。1970年には2.0Lへ拡大され、1974年にはプジョーとルノー、ボルボの3社で共同開発された、V型6気筒のPRV「ドゥヴラン」エンジンへ置換されている。
クーペをベースにしたブレークリビエラ
V6エンジンを搭載した504 クーペは、燃費は褒めにくかったものの充分な速さを披露。1976年のサファリラリーでは、プジョーのワークスチームへ優勝をもたらしている。
一方で市場ニーズとしては4気筒も根強く、1977年に復活。V6エンジンはカブリオレでオプションという設定に切り替えられた。
504 クーペとカブリオレの右ハンドル車は、プジョーは生産しなかった。それでも、ホーデック・エンジニアリング社によって100台の2.0L 4気筒モデルがコンバージョンを受け、英国へ上陸している。
そして、これらとは別に広く知られていない、もう1つのピニンファリーナ版504が存在した。1971年のパリ・モーターショーに出展された、ハンサムなシューティングブレーク、「ブレークリビエラ」だ。
ピニンファリーナ側は、クーペをベースにした自主製作のワンオフモデルとして発表した。とはいえ、流麗なスポーツワゴンでプジョー側の反応をうかがっていたことは間違いない。実物大模型のモックアップも含めて、3台が作られたという説がある。
残念ながら、それらの行方は不明。プジョー・ミュージアムが秘蔵しているという噂もあるが、確かではない。
1台をスペインのカーマニアがコレクションしていた、という情報もある。1972年5月のバルセロナ・モーターショーを最後に公の目には触れていないため、信憑性は高いのかもしれない。
不発に終わったシューティングブレーク
当時のスペインを率いていたフランコ政権は、モーターショーの各ブースに最低5台は展示するようメーカーへ指示を出していたらしい。規模によってはプロトタイプが含まれても当然といえ、ピニンファリーナ社が会期後に現地で1台を処分した可能性はある。
同時に、不発に終わったシューティングブレークを当初からバルセロナで片付けようと考えていたのかどうか、疑問は残る。パリではライトブルーに塗られていたボディは、バルセロナではダークグレーに塗り替えられていた事実もある。
プジョー側の反応も、はっきりはわかっていない。パンフレットまで準備されたと話す人もいるが、いずれも確証はない。
ブレークリビエラのアイデアが実現に至らなかった理由は想像できる。開発資金や生産能力の不足、充分な市場規模がないという読みなどだ。新しいシューティングブレークというジャンルに、プジョーが二の足を踏んだとしても不思議ではない。
その後、ピニンファリーナ社はフィアットとランチアにも、同様のワゴン・コンバージョンをそれぞれ提案している。フィアット130 クーペをベースにした1974年の130 マレンマは完成度が高かったが、オイルショックで実現しなかった。
1982年には、ランチア・ガンマ・クーペがベースのガンマ・オルジャータが発表された。しかし、既にガンマのモデルライフは終わりに近く、充分な反応を得ることはできなかった。
この続きは後編にて。
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