エンツォの人生から1957年をクローズアップ
マイケル・マン監督が製作総指揮を務めた『フォードvsフェラーリ』(2019)では、登場時間は短いながらも強い印象を残したエンツォ・フェラーリ。今作は、そのエンツォの人生の中でも1957年に焦点を当てている。
以前の特報記事にも掲載しているが、あらためて本作のストーリーをご紹介しよう。
STORY
1957年、59歳だったエンツォの波乱と激動の1年を描く。難病を抱えた愛息ディーノを前年に亡くし、社の共同経営者でもある妻ラウラとの夫婦生活は冷え切っていた。さらに、秘かに愛し合っていた女性リナとその息子ピエロとの二重生活は、思いがけずラウラの知るところに。二人の女性との愛憎と婚外子の認知問題に加え、業績不振により破産寸前のフェラーリ社は、競合他社からの買収の危機に瀕していた。私生活と会社経営で窮地に立たされたエンツォは、起死回生を賭けてイタリア全土1000マイル縦断の公道レース「ミッレミリア」に挑む——。
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圧倒される、メインキャストたちの演技!
映画『フェラーリ』については、すでに自動車専門媒体でさまざまな歴史的考察があるのでそちらに譲るとして、本誌ではフィルムの中の演者たちにフォーカスを当てたい。なぜなら美術や衣装、イタリアの風景、再現された当時のマシンなどの映像面での見応え以上に、メインキャストたちの演技が素晴らしいのだ。
グレーヘアの老けメイクでエンツォを演じているアダム・ドライバーは、撮影当時はまだ40代に差しかかるところ。しかし、アダムの立ち居振る舞いや表情、ほんの少しの仕草からさえ、一代でスポーツカー界の名門フェラーリを築き上げながら、仕事にも私生活にも行き詰まっているエンツォの59年の歳月が見えてくる。一方で、苦悩ばかりではなく、レーサーやエンジニアたちに親しみと敬意を込めて「コメンダトーレ(社長・騎士団長)」と呼ばれたカリスマぶりも、画面の中で存分に発揮されている。高身長と相まって存在感がありすぎ、レース前のインタビューのシーンなどでは、場の花形であるレーシングドライバーたちの影が薄くなってしまうほどだ。わざわざ老けメイクを施してまで、20歳も若いアダム・ドライバーが59歳のエンツォを演じたことを不思議に思っていたが、実際に本作を観て、まさに適役だと感じた。
美貌は健在ながら、華やかさを封印した地味な装いとぼさぼさ髪で妻のラウラを演じるのは、ペネロペ・クルス。エンツォとの息子を失った悲しみを抱え続け、エンツォの愛人と隠し子の存在に傷つきながら怒り、しかし共同経営者として経営破綻寸前のフェラーリ社を崖っぷちで守ろうとする。複雑に入り交じる悲哀と矜持と威厳を、眼差しひとつ、歩き方ひとつで表現してみせる。
イタリア半島の1000マイルを走破するミッレミリアがクライマックスではあろうが、主体はエンツォを中心とした人間ドラマだ。『フォードvsフェラーリ』では、傲岸で尊大かつクールなフェラーリのアイコンと見えたエンツォ・フェラーリがこんな人生を送っていたのかと、時に激しく罵り合い、互いの腹を探り、赤裸々な感情を静かに吐露する二人の圧巻の演技に惹きこまれながら、興味深くも良き鑑賞体験となった。
劇場公開はまもなく!
7月5日の劇場公開を前に、迫真の本編映像を交えながらの、アダム・ドライバーとマイケル・マン監督のインタビュー映像も公開されている。“エンツォ・フェラーリ”の情熱と狂気、命がけの撮影秘話を明かす、貴重な特別映像だ。
市街地から田園、山岳地帯までのイタリアの美しい風景と迫力のレースシーンはもちろんのこと、演技派たちが繰り広げる迫真のドラマこそ、映画館の環境でじっくりと楽しみたい。
INFORMATION
『フェラーリ』
7月5日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
© 2023 MOTO PICTURES, LLC. STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
配給:キノフィルムズ
監督:マイケル・マン(『ヒート』)
脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
原作:ブロック・イェイツ著「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」
出演:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー
2023年|アメリカ|英語・イタリア語|カラー・モノクロ|スコープサイズ|原題:FERRARI|字幕翻訳:松崎広幸|PG12
www.ferrari-movie.jp
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