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山岳救助隊に欠かせない4WD車 過酷な現場で選ばれるクルマとは

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山岳救助隊に欠かせない4WD車 過酷な現場で選ばれるクルマとは

いま、英国の山岳救助隊で選ばれるクルマとは

「しっかりつかまれ」

【画像】人と動物の命を救う山岳救助車両【英セントラル・ビーコンズのいすゞDマックスを、標準車と写真で比較する】 全74枚

何の変哲もない言葉だが、これから金属製の担架に括りつけられて65度の急坂を下るという時に聞きたい言葉ではない。さらに別の言葉が脳裏に浮かぶ。「ボランティアを切り上げて早く帰りたい」

セントラル・ビーコンズ山岳救助隊のボランティアたちがこの恐怖を克服するために何をしたのかはわからないが、その30秒後には筆者は再び大地に立ち、空を見つめて、7人の救助隊と長さ数mのロープに全幅の信頼を置いているのである。

AUTOCAR取材班は英ウェールズにあるブレコン・ビーコンズ国立公園で、ウォーカーやサイクリスト、ライダー、羊の救助に命を捧げるボランティア隊員と一日を過ごしている。ランドローバー・ディフェンダーのフルモデルチェンジ後、このような過酷な労働環境で一体どんなクルマが使われているかを知るために、ここにやってきたのだ。

新型ディフェンダーは非常に印象的なモデルだが、経済性とデザインのために、初代をアイコンにしていた労働者たちの目には留まらなくなってしまった。現在、カンブリア州パタデールの山岳救助隊で使用されている1台があるが、多くのチームは別のクルマを検討・導入している。

セントラル・ビーコンズもその1つ。これまではランドローバー・ディフェンダー110とフォード・レンジャーを使用していたが、活動拠点の火災で乗り換えが早まった。代わりを探すのに手間がかかったものの、見つけ出したのは興味深いクルマだった。

セントラル・ビーコンズは、英国の他の山岳救助隊と同様、ボランティアであることを強調しておきたい。隊員たちには皆、本業があり、家庭があり、赤いジャケットを脱いだら「普通」の生活に戻るのだ。出動回数は月に130回(夏場が最も多い)、そのほとんどが週末で、1回あたり3~4時間かかるのが常である。

求められるのは快適性と実用性 オフロード性能は?

他の地域の山岳救助隊もそれぞれ独自の車両を検討しているが、すぐにわかったのは、彼らは縄張り意識が強いということ。異なるチームの地域間の境界線は「血で描かれることもある」と、事故処理担当のジョン・ゴダード氏は冗談交じりに話している。それに、クルマに求められる要件も地域によって変わってくる。セントラル・ビーコンズでは、ほとんどのエリアが林道なので、並外れたオフロード性能は必要ない。必要なのは、オンロードでもオフロードでも快適であること、そして実用的であることだ。

ゴダード氏は、その理由をこう説明する。「救助アイテム、医療キット、急流救助用具の運搬という基準を満たす必要がありました。また、将来性も考慮しなければいけません」

「ディフェンダーは山岳救助で活躍した歴史があり、装備も素晴らしいのですが、旧型の110は快適性や実用性に欠けるのです。わたし達の場合、作業の95%はオンロードで行われるため、積載量と快適性が必要でした」

当然のことながら、コストも大きな要素だ。ランドローバー・ディスカバリー5も検討したが、購入価格がネックになった。結局、いすゞのDマックス(いすゞが海外で販売しているピックアップトラック)を2台購入し、コストの5万6000ポンド(約920万円)は寄付金と拠点火災後の保険金で賄った。

国内の山岳救助活動を統括する慈善団体マウンテンレスキュー・イングランド&ウェールズは、英財務省から年間合計25万ポンド(約4100万円)を受け取り、国内の各救助隊に振り分けている。セントラル・ビーコンズでは、救助車両の再配備に22万6000ポンド(約3700万円)を費やしたので、この団体にとっては時間と費用の面で非常に大きな投資となったのである。

メカニカルな面では、導入されたいすゞDマックスに大きな変更はないものの、アンダーボディプロテクションを追加装着している。また、前後にウインチマウントを設置し、ロープを直接車体に取り付けられるよう、取り付けポイントも増やした。つまり、Dマックスが巨大なランドアンカーになるわけだ。

ウインチにも工夫が凝らされている。セントラル・ビーコンズでは、1台に2個のウインチを取り付け、前後どちらからでも引っ張れるようになっている。そのため、どの方向にスタックしても、自力で脱出することができるのだ。「前方にウインチをつけても、さらに泥沼に引きずり込まれるだけで、あまり意味がありません」とゴダード氏は説明する。

大きな変更点はリアのポッドで、旧型ディフェンダーよりもはるかに便利な代物だ。左右と後ろの計3枚のドアを開けると、きちんと区分けされた収納スペースがあり、それぞれにラベルが貼られている。奥行きは収納する機材と同じくらい。カラビナからロープ、ビレイデバイス、ストレッチャー、救急医療機器まで、文字通り必要なものはすべてここに収められている。さらに金庫が2つあり、厳重に管理された痛み止めの薬を保管している。

扱いやすいDマックス 実際の救助活動に同行

停車してから30秒もしないうちに、必要なところに必要なキットが展開されるのだ。筆者のような初心者にも、このクルマがいかに扱いやすく有効的であるかは明らかだ。今回は比較的明るい日だったが(とはいえほとんど曇り、ウェールズらしい)、夜、風雨の中では、その使い勝手の良さが文字通り生死を分かつことになる。

これらを使って、実際にどんな活動が行われているか。今日は、2つの救助現場に同行させてもらった。1つ目は、崖下に落ちたと思われる犬の救助。ちなみに、山岳救助の世界では、携帯電話のGPSを利用してピンポイントで死傷者を特定できる技術が発達したとはいえ、広大な距離をカバーできる救助犬は、依然として主要な役割を果たしている。

ブリーフィングを受けた後、チームを乗せたDマックスは崖に向かって出発する。過剰なオフロード性能を必要としなかった理由はよくわかった。鋭利な石を除けば、トヨタのRAV4でも十分対応できるだろう。最後の数mは、隊員の1人がクルマを誘導し、崖の上の作業スペースを十分に確保する。さぁ、犬を助ける時間だ。

7人がかりの救助活動だが、混乱はない。各自が自分の役割を理解し、それに専念している。多少のおしゃべりはあっても、目の前の仕事を邪魔するようなことはなく、驚くほど規律正しく進んでいく。クルマにロープをかけ、車輪の前にタイヤストッパーを置き(いい練習になるが、クルマを崖の下に引きずり込むには、相当な猟犬でないと無理だろう)、救助隊員がハーネスをつけ始める。

Dマックスは静止したまま、ポッドを開けて待っている。必要なキットだけを引っ張り出すので、救助現場は驚くほど整然としている。クルマが背景に溶け込み、人間たちが動き回る。少し雨が降ってきているが、作業スピードに差がないことから、彼らは雨に慣れているのだろう。

ロープ、ハーネス、結び目など、驚くほど多くのダブルチェックが行われているが、どれも無駄には感じない。すべては効率的に運用され、5分後には、濡れた犬とその飼い主が崖の上まで滑車で運ばれているのだ。

無駄がない救助活動 クルマは素晴らしい脇役だった

そして、筆者の番だ。幸いにもウェールズの天気雨は弱まり、青空がぼんやりと見える中、「足を折って落下したバカ」としての演技が始まる。筆者の「救助」には7人の隊員がついて、まるで本番さながらに作業をこなしていく(これだけ近代的な技術が発達しているのに、人助けがいかに労力のいることか)。モルヒネとガスと空気が提供され、筆者の足はバキュームスプリントで固定され、ストレッチャーに吊り上げられる。

ストレッチャーに括り付けられ、ウェールズの男女グループに振り回されるのは奇妙な気分だ。ラグビーでどこを応援しているかは、言わないほうがよさそうだ。筆者はリアノン・チャルマース・ブラウン隊員を先頭に斜面を下り、あとは滑車で上まで上がっていく。Dマックスは下でじっと待っている。

何かドラマチックなことが起これば、もっといい話になるのだが、残念ながら報告することは何もない。カメラマンのリュック・レイシーが別の角度から撮影している間、急斜面から吊り下げられていることさえ、簡単に感じられた。

平地に戻り、キットを片付ける。ストレッチャーを簡単に収納し、5分後には出発できる。機械、人、車両など、あらゆる要素がドリルダウンされた特異性が、最も印象的だった。無駄がない。

ちょっと不思議なのは、クルマが主役ではないということ。しかし、それこそが最高の賛辞なのだ。Dマックスは設計通りの性能を発揮し、レーザーのように真っ直ぐな目的を持って、セントラル・ビーコンズ山岳救助隊にベストを尽くさせているのだ。

走りはどんな感じ? 山岳救助隊のDマックスに試乗してみた

山岳救助用のいすゞDマックスはいささか運転しにくそうに見えるが、心配はご無用。拠点から国立公園に向けて出発したとき、背中に「G」を感じることができた。ポルシェ911のようなフラット6サウンドはないが(まあ、ほとんどのクルマはそうだけど)、スポーツカーに近いものがある。チームは緊急の出動要請があることを周囲に示したいのだろう、コーナーを曲がるときにはかなりのヨーイングがある。

しかし、ブレコン・ビーコンズの岩場やなだらかな丘陵地帯では、まさにうってつけのマシンだ。ここではスピードは必要ないし、たとえ必要であっても、Dマックスは一歩一歩着実に前進していく。快適で静かで暖かい、山岳救助に欠かせない3つの要素を備えている。

しかも、シンプルだ。ジョン・ゴダード氏は、過酷な状況下でも操作しやすいようにと、あえてAT車を選んだ。外気温がマイナス10度でも、急勾配でも、クラッチと回転数のバランスに悩まされることはないのだ。

ダイヤルで2輪駆動、4ハイ、4ローを選択し、シフトレバーでドライブモードとマニュアルモードを切り替え、大きなボタンでヒルディセント・コントロールを操作する。必要最低限の機能しかない。

BFグッドリッチのオールテレインタイヤに助けられ、急勾配の砂利道も見事にこなす。1.9Lディーゼルエンジンから十分なパワーも得られる。

もっと立派な電子機器や装備を誇るピックアップトラックもあるが、Dマックスの適性には異論がない。

灰の中からの再起

2017年11月25日は、セントラル・ビーコンズにとって良い日ではなかった。通行人が彼らの拠点から煙が出ているのを発見し、消防隊が炎を消した時には、3台のレスキュー車両はすべてボロボロになっていたのである。

「構造的に問題なかったものの、煙による被害が大きすぎたため、保険では3台とも直すことができませんでした」とジョン・ゴダード氏。

驚くべきは、セントラル・ビーコンズの日々の救助活動にほとんど影響を与えなかったことだ。活動拠点は地元の消防署に移され、他の山岳救助隊も車両を貸してくれた。「誰も立ち止まることはなかった」と、ゴダード氏は皆が示した適応能力を誇らしげに語る。

4年後、彼らは同じ建物に戻ることができた。技術も向上し、道具の保管やトレーニングのための部屋も改善された。外観は何の変哲もないが、機能は必要十分である。用具の充電器のプラグは自動で外れるようになっていて、誰かが急いでクルマを発進させても、後ろの壁を全部持っていかれることはない。さらに、スプリンクラーも付いている。

選択肢いろいろ レスキュー車両

山岳救助には、さまざまな車両が用いられる。代表的な4台を紹介しよう。

ファットトラック

決して安い買い物ではないので、電力会社が主な買い手となっている。低圧タイヤは環境への影響を最小限に抑え、水に浮くこともできる。ディフェンダーにはない能力だ。

メルセデス・ベンツ・ウニモグ

象徴的な存在だ。鉱山における救助活動に特化したカンブリア鉱山救助隊のようなチームがウニモグを好む理由は、非常に重い荷物を運搬できることにある。最大7500kgの積載量と、比較的安価な中古車価格が魅力だ。

トヨタ・ハイラックス

ハイラックスの不滅の信頼性は昔から高い評価を得ており、最新モデルもそれを受け継いでいる。いすゞDマックスと似たようなモデルだが、より充実した装備を選ぶことができる(その分高くなる)。

ポラリス・レンジャー

ポラリス・レンジャーは小型で軽量、そして地上を素早く移動できるという利点があるため、ロッセンデールやペンドルなど、アクセスしにくい場所にいる救助隊が好んで使用している。キャビンは暖房が効くので、冬の活動にも適している。

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みんなのコメント

1件
  • 日本の狭くて急峻な林道を考えるとジムニーが最有力だけれど、
    救助者を寝せて運ぶには荷室長さがネックになるかもしれません。
    ハイラックスかスバルのワゴンかでしょうか?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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