■マシンにアニマル、機械に生き物。 人気国産車のあのクルマも?
海外の自動車メーカーには、エンブレムに動物のモチーフを採用しているケースがあります。一見まったくの無関係に見えるクルマと動物モチーフのエンブレムには、どんな関係性があるのでしょうか。
まるでフェラーリ!? 新型「コルベット」が脱FR化した理由とは
●フェラーリ
イタリアのフェラーリは、1947年にレーシングチームのドライバー兼オーナーであるエンツォ・フェラーリによって創設されました。
エンブレムは黄色いバックカラーと跳ね上がった馬の姿が印象的で、通称「跳ね馬」とも呼ばれています。
じつはこの馬のデザインは、ドイツのシュトゥットガルト市と深く関係しているようです。
1921年にイタリアの古都ラヴェンナで開催されたレースで、エンツォ・フェラーリは見事優勝をします。
そして当時、そのレースを見て感銘を受けたバラッカ伯爵夫妻が、エンツォ・フェラーリに感動の証として譲り渡したとされているのが「跳ね馬」の紋章で、これがフェラーリのエンブレムの起源になったといわれているのです。
この跳ね馬の紋章は、バラッカ伯爵夫妻の息子であるフランチェスコ・バラッカ少佐が、自身の戦闘機に貼り付けていたものです。
第一次世界大戦で「撃墜王」と称されたバラッカ少佐は、宿敵であったドイツ軍の戦闘機を撃墜した際の戦利品として、あるマークを持ち帰りました。それが、撃墜させたパイロットの出身地であるドイツのシュトゥットガルト市のシンボルである、跳ね馬だったのです。
紋章には、「幾多の戦場でも生き抜いてきた息子のように、エンツォ・フェラーリにも幸運が訪れますように」という、バラッカ伯爵夫妻の願いが込められていました。
●ポルシェ
ドイツのポルシェは、1931年に技術者であるフェルディナント・ポルシェにより創設されました。そんなポルシェのエンブレムは、ゴールドの盾に「鹿の角」と「跳ねた馬」が描かれているのが特徴です。
前述したフェラーリのエンブレムも跳ねた馬のデザインがモチーフとなっていましたが、ポルシェも同様に本拠地のあるドイツのシュトゥットガルト市の紋章が由来となっています。
市の名称であるシュトゥットガルトは日本語に訳すと「馬の園」の意味を持ち、シュトゥットガルト市があるヴルテンブルグ州のシンボルは「鹿の角」。このふたつにドイツ国旗色の赤、黒、ゴールドが組み合わさったものが、現在のポルシェのエンブレムとなっているのです。
スポーツカーのパワーは馬力で表現されることが多いため、馬のデザインが採用されていると思われがちですが、フェラーリとポルシェのエンブレムが同じ馬に由来しているとは、意外と知らない人も多いのではないでしょうか。
●ジャガー
イギリスのジャガーは、1945年に前身である「SSカーズ」から「ジャガー」へと改名されて誕生しました。
ちなみにジャガーという名前は、SSカーズ社時代に販売されていた車種名から命名されています。
ネコ科ヒョウ属に分類されるジャガーは、美しいルックスでスマートに獲物を捕らえます。そのイメージが、当時発売された車種にピッタリだったため採用されました。
そして、第二次世界大戦後にSSカーズの社名はナチス親衛隊を連想させるとの理由で、ジャガーへと改名されることになります。
ちなみに、ひと昔前のジャガーには大きなボンネットの先端に立体的なジャガーのエンブレムが取付けられていましたが、衝突時の安全性の観点から現在の仕様へと変更されました。
●ランボルギーニ
イタリアのランボルギーニは、1963年にフェルッチオ・ランボルギーニによって創設されました。
エンブレムは力強く描かれた1匹の猛牛が特徴的で、猛牛がモチーフになった由来には、創設者が牡牛座だった説とフェラーリに対抗したという説が挙げられます。
当時のランボルギーニ氏は農業用トラクターを製造・販売していましたが、愛車であったフェラーリの故障が多いことに悩まされていました。
そして修理を依頼するも対応の悪さに憤慨し、「フェラーリを超えるスポーツカーを作って見返してやる」と決意してクルマの製造を始めたのが、自動車メーカーとなるきっかけとされています。
そのため、反発心の現れからフェラーリの「跳ね馬」に対抗し、あえて「猛牛」を採用したという説も。
ちなみにランボルギーニのトラクターは現在も製造されており、日本でも販売されています。
●アルファロメオ
アルファロメオは1910年に創設されたイタリアのメーカーで、かなり独特なエンブレムを採用。一見クルマメーカーのエンブレムとは思えないデザインで、左側には赤十字、右側には大蛇に食べられている人間が描かれています。
ミラノ市の紋章である赤十字は、十字軍の遠征時、聖地エルサレムに初めて十字架を建てた者が、ミラノ市の出身だったことに由来しています。
右側の大蛇はミラノ市の貴族であるヴィスコンティ家の紋章をモチーフにし、ヴィスコンティ家の祖先が森の中に住む人食い大蛇を退治したことが由来とされています。
創業105周年の2015年には新しいデザインに変更され、左右を分ける中央線をなくし、大蛇に食べられている人の色が赤からシルバーになったことで、スッキリとしたエンブレムへと生まれ変わりました。
●番外編:トヨタ ハリアー
国産車で動物のエンブレムを採用している代表的な車種が、トヨタ「ハリアー」です。
現行モデルの3代目は2013年に登場しましたが、現在でも月間平均3000台から4000台売れており、その人気は衰えることを知りません。
ハリアー(harrier)は猛禽類の一種である「チュウヒ」の英名で、正式な分類は動物界脊索動物門脊椎動物亜門鳥網タカ目タカ科チュウヒ属チュウヒとのことです。
チュウヒは漢字では「宙飛」と表現されるように、空中を舞うように飛行することが特徴で、低空飛行を得意とすることで知られています。このイメージのより、イギリスにはハリアーという名前が付けられた戦闘機も存在。
鷹は品格や能力の高いイメージがありますが、それは古来に鷹が食料や医薬品、家紋として使用されていたことに由来するといわれており、人々を助ける身近な存在として敬われていました。
ハリアーのキャッチコピーは「WILD but FORMAL」。野性的だが格式があるという意味で、タカ科チュウヒの運動能力と品格がイメージされています。
※ ※ ※
クルマという機械的な存在に、動物モチーフのエンブレムを採用しているのはユニークに感じます。それぞれの由来を知ることで、いままでとは違ったクルマへの愛着も湧いてきます。
自分が乗るクルマについて、エンブレムや車種名の由来など、ルーツを辿ってみるのも面白いかもしれません。
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