今回は2017年10月5日(木)から8日(日)までメッセ・ベルリンで行われたクラシックカーのイベント、MOTORWORLD Classics Berlin(以下、モーターワールド・クラシックス・ベルリン)についてレポートします。初日に記録的な大嵐に見舞われ、公共交通機関が麻痺するなどのアクシデントがありましたが、週末には天候も回復し、のべ2万8千人以上が訪れる盛況となりました。2015年から始まったばかりのまだ若いイベントですが、とても興味深い展示やショップが多く、多くの来場者で賑わっていました。さっそく紹介していきましょう。
ベルリンの代表的な国際展示場、メッセ・ベルリン
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会場となったメッセ・ベルリンは、ドイツの首都ベルリンの代表的な国際展示場で、日本でもIFA(Internationale Funkausstellung=国際コンシューマ・エレクトロニクス展)の開催場所として知られています。今回のモーターワールド・クラシックス・ベルリンは「メッセ・ベルリンの一部分を使用して開催」とのことでしたが、それでもかなり広大な面積で展示やショップが展開されていて、じっくり見て回ると丸1日かかってしまうほど。会場内には多数のカフェやランチスポット、そしてビールを提供するスタンドが用意されていて、休憩場所が足りないということもなく、快適に会場を回ることができます。
会場では時折、音楽の演奏やステージでのパフォーマンスが行われていて、賑やかながら終始ゆったりとした雰囲気に包まれていました。音楽やパフォーマンスの内容も1950年代から1970年代のイメージでまとめられているものが多く、展示されたクルマの年代ともぴったり。クルマだけではなく古いオートバイも数多く集結し、人々の注目を集めていました。
レストア業者と代表的なブランドのクラシック部門が集結!
今回のモーターワールド・クラシックス・ベルリンでとくに興味深かったのは、多数のレストア業者に混じって、BMWやポルシェといったメーカーのクラシック部門が出展していたことです。日本でもマツダがNAロードスターのレストアを開始するとのことで話題を呼びましたが、ヨーロッパのメーカーではすでにクラシック部門をもつメーカーも少なくありません。写真の2枚はポルシェ・クラシック部門のブースの様子で、レストア作業中の911カブリオレの底面を鏡で見せる展示に多くの人だかりができていました。レストアに対するポルシェの自信のほどが伺えますね。
こちらはBMWのクラシック部門のブースの様子。中段は1985年製BMW M635CSiです。「世界一美しいクーペ」と称された初代6シリーズの最強モデルで、BMW M1に搭載されたユニットの流れを汲む3,453cc直列6気筒DOHCエンジンは286psを発揮。5速マニュアルと組み合わせ、最高速度255km/hを謳うなど高い性能を誇りました。BMWのクラシック部門が手がけたレストアは新車当時の輝きを取り戻していて、現地の人々も口々に「美しい!」といいながらその姿を写真に収めていました。
純白のボディが美しいオープンモデルは1958年製BMW 507ロードスター。シャシーナンバー「70079」をもつ、エルヴィス・プレスリーが所有していたクルマそのものです。エルヴィス・プレスリーはアメリカ軍の兵役中にドイツに駐留、そこで507ロードスターを購入し、アメリカに持ち帰るもすぐに売却。2014年にコレクターの倉庫に眠っていたところを発見され、BMWのクラシック部門がドイツにてデリバリー当時の姿に復元しました。発見当時のボディカラーは赤、エンジンもシボレー製V8に換装されていましたが、現在はオリジナルのV型8気筒OHV3,168ccエンジンに戻され、外内装も新車同様の姿を取り戻しています。このクルマのついての動向はニュースで知っていましたが、まさか実車を見られるとは思ってもみませんでした。
こちらはドイツ各地のレストア業者による展示の様子です。上段は1974年製フォルクスワーゲン・カルマンギア・カブリオレのレストア途中の個体を持ってきて展示しているもの。レストア過程の写真は、ここに掲示されているもの以外も分厚いファイルに保管されていて、丁寧な仕事ぶりが伺えました。この個体は現在売り出し中で、レストア完成後の引き渡し価格が55,900ユーロ(約743万円)。下段はボディを叩き出して整形する際の木型を展示していて、こういった工房の裏側を積極的に見せていく姿勢はとても新鮮でした。
会場で見かけた希少車をダイジェストでご紹介!
1973年製ポルシェ911カレラRSのツーリング仕様。さすがはポルシェ生誕の地であるドイツ、会場にはたくさんの911で溢れていましたが、その中でも異彩を放っていたのがこのカレラRSです。常に人だかりが絶えず、ドイツ本国でも絶大な人気があることを再認識しました。この個体は659,000ユーロ(約8,765万円)で販売中!空冷911の限定車の価格高騰はどこまでいくのでしょうか?
1989年製メルセデス・ベンツ190 2.5-16 エボリューション1。走行距離は驚きの25km!ほぼ新車と言って差し支えないコンディションです。129,000ユーロ(約1716万円)で販売されていて、来場者のみなさんも「うーん、美しい」と溜め息をこぼしながら写真を撮っていました。
1972年製アルファ・ロメオ モントリオール。美しい2+2クーぺで、デザインはベルトーネに在籍していたマルチェロ・ガンディーニの手によるもの。エンジンはV8としては小排気量の2,593ccから230psを発生しました。3,700台ほど生産されたうち、日本へ正規輸入されたのはわずか10台とされています。当時のスーパーカーブームで多く紹介されていたので、懐かしく思う方も多いのではないでしょうか。
1981年製デロリアン DMC12。「とても綺麗ですね、写真を撮っていいですか?」「もちろん!こんな綺麗なオリジナル車はめったに見ないだろう!買わないかい?」とショップの方に勧められましたが、丁重にお断りしました。そのお値段は54,800ユーロ(約729万円)。日本の相場より少し安いかもしれません。
1991年製アルピナB10ビターボ。3,430ccのストレートシックスをツインターボで武装、最高出力370psと最高速度290km/hを誇る、当時のアルピナの旗艦モデルでした。生産台数は507台。以前もCLで「本国ドイツでもアルピナを目にすることは少ない」と書きましたが、現地の人々も同じきっと思いなのでしょう。常に人だかりが絶えず、注目を集めていました。
1957年製メルセデス・ベンツ 300SLS。300SLの中でも特に希少な、オープンスポーツ・モデルの300SLSです!筆者が実車を見たのはこれがはじめてでした。この個体のエンジンチューニングは300SLクーペと同様の215psですが、車重は300SLクーペの1,295kgに比べて、200kg以上軽量な1,093kgに収められています。2000~2001年にレストアされて以降、現在も各種のラリーイベント等で元気に走り回っていて、機関その他も絶好調とのこと。気になるお値段は「応相談」でした。
1955年製メルセデス・ベンツ300SLクーペ。走行距離はわずか5,857kmで、1997年から4年間に渡って徹底的にレストアされた後、数々のコンクールでの受賞歴も多数あり、という珠玉のコンディション。世界的なコンクール・デレガンスやオークションに登場するレベルのクルマであることは確実ですが、この個体は300SLを専門にレストアする業者が現在販売中で、お値段は1,500,000ユーロ(約1億9,950万円)でした!
1959年メルセデス・ベンツ300SLロードスター。こうして300SLクーペと並べて比べてみると、ヘッドライト周りの造形の違いなどがはっきりとわかりますね。斜め後ろからの眺めは優美の一言。こちらの個体の走行距離は56,000kmで、1,200,000ユーロ(約1億5,960万円)で販売中でした。会場内には他にも3台の300SLシリーズが集結していて、本国ドイツでの人気の高さを伺い知ることができました。
1943年製フォルクスワーゲン タイプ166 シュヴィムワーゲン。第二次世界大戦中にドイツ軍が使用した四輪駆動の水陸両用車、その実物です。総生産数は14,276台と言われていますが、現存車両はごくわずか。この個体も129,900ユーロ(約1,728万円)販売中で、こんな博物館クラスのクルマの売り物があるのか!と筆者も思わず愕然としました。
クルマ関連のショップの他にも、薪ストーブ屋や理髪店まで!
会場内には、看板やロゴのショップ、新旧のカタログを集めたショップ、ステアリングや部品関係を販売するショップ、モデルカーのショップ、果てはガレージ用のリフトを販売するショップまで、たくさんの業者が出店していてかなりの賑わいを見せていました。
一見クルマには関係ないお店も多数あって、それらも一体となって会場の雰囲気を盛り上げていました。無垢の木材を利用したテーブルの工房、薪ストーブ屋、レザーシートの手入れ用クリームや革靴のオイルを販売するショップ、理髪店、かつてのガソリン給油機を冷蔵庫に改造して販売する業者など。ちなみに改造冷蔵庫のお値段は2,700ユーロ(約36万円)くらいから。家にあったらちょっといいかも、と思わせる魅力的なデザインですね。
ドイツの人々にとって、クルマは大切な文化の一部
広大な敷地を使って開催された、モーターワールド・クラシックス・ベルリン。来場者は男性のご年配の方ばかりでは?と想像していましたが、実際の男女比は半々くらいで若い方も多く、意外なほど幅広い層の方が来られていました。展示やショップにいらっしゃるスタッフの方々も、みんなでクルマを深く愛し、一緒に楽しんでいこう!といった雰囲気で、堅苦しさを感じることはありませんでした。むしろそのフランクさと、展示されたクルマの値段とのギャップが大きくて驚くことが多かったです。
こうした、かつてのクルマにスポットを当てるイベントが開催される一方、ドイツの社会は急速にEVや自動運転の方向にシフトしています。今後、クラシックカーの扱いがどういったものになっていくかはまだ不透明な部分が多いですが、ドイツではHナンバー制度をはじめ、クルマを工業遺産として、文化のひとつとして継承していくことにとても積極的です。クルマの文化の継承と、来たるべき未来に向けてのEV、自動運転化との折り合いをドイツの社会がどう付けていくのか、これからも注意深く見守っていきたいと思います。
[ライター・カメラ/守屋健]
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