NV200バネットがベース
ついに、日産が「商用バンの常識のハードル」をこえそうだ。
【画像】部屋感あるコンセプトモデル【日産がつくった「お部屋車」4選】 全143枚
日産は2022年4月13日、オフィス家具大手のイトーキと、後部座席スペースで快適にテレワークできるモバイルオフィスカー「MOOW(ムーウ)」を共同開発したと発表した。
2022年内の発売を目指しており、販売は日産の新車を取扱う正規代理店がおこなうことを検討しているという。
ベースとなるのは、商用バンの「NV200バネット」だ。
公開された画像を見ると、運転席の真後ろ(車体右側)に、斜めに向かうような形でひとりがけのイスがある。
日産によると、「車内後部は人間工学に対応した理想的な姿勢をとることができる後継姿勢で座るデザイン」という。イメージとしては、座椅子のような感じである。
イスに座った状態で、座っている人の左側前方から正面にかけてを囲い込むような形でデスク(机)がある。
「デスク天板は着席しやすい稼働式」を採用。
サイズは、ノートパソコンを使用する際の利便性を考慮した設計とした。
また、スマホを差し込むスリットも切ってあり、ハンズフリーでビデオ通話やオンライン会議をする想定である。
車体左側の空間には「タイヤハウスを活かした」というサイドテーブルが設置されている。
そこに、車体右側のイスに座った状態で足を乗せることができるオットマンが収納できる構造としているのが特長だ。
コロナ禍で活躍するクルマ
車体右側の後部、つまりイスに座った状態で左斜め前方の位置には縦長の大きなボックスが設置されている。
ここには日産が開発したリチウムイオンバッテリーが搭載されているというのだ。
リチウムイオン電池の電気容量など、詳しいスペックは現段階で公表されていないが、出力は600W/hを想定し「ワークスペースに欠かせない冷暖房機器を5時間程度稼働させることが可能」という。
こうしたムーウを企画した背景には、やはりコロナ禍によるリモートワークという新しいライフスタイルが大きく影響している。
クルマの中を、働く場所としてのプライベート空間に見立てて、キャンピングカーを活用する事例が、テレビニュースやネット記事で紹介されることがめずらしくなくなった。
そうした中で、キャンピングカーという大仕掛けではなく、商用バンの荷室空間を最大限に活用するために、まずは日産がこれまで手掛けてきた特殊用途車両の設計に関する経験が必要とされた。
さらに、オフィス家具や勉強机など、イトーキがこれまで培ってきた人間工学に基づく知見と空間デザインのノウハウが融合し、ムーウとして具現化されたのだ。
日産とイトーキは、ムーウを「モバイルオフィスカー」と呼んでいる。
量産前提のプロジェクト
今回、その存在が初めて明らかになったムーウだが、単なるコンセプトモデルならば、自動車業界内で、さほど話題になるとは思えない。
ところが、前述のように「ムーウは日産の新車販売店で2022年中の販売を検討中」というが大きな注目点である。
販売方法について、現時点で未公開だが、例えばNV200バネットのカタログモデルとして、またはディーラーオプションとして設定が予想される。
車両の製造方法は、日産の車両組み立て工場で完成させる、いわゆる「ライン装着」ではなく、新車販売店が部品として取り寄せ、販売店の社内工場や関連施設で組付けることが考えられる。
これが実現すれば、全国のトヨタ販売店数社がキャンピングカー大手のトイファクトリー(本社:岐阜県可児市)と連携して展開している、ハイエース向けのHACO×HACOに近い考え方になるだろう。
ムーウの場合、日産本社が主導してNV200バネットをカスタマイズする商品企画をしているが、一方のトヨタの場合はトヨタ本社は関与しておらず、あくまでもトヨタ販売店とトイファクトリーとの直接契約によるものだ。
こうしたトヨタの違いを、日産として今後、さらに広げていく可能性は十分にありそうだ……。
常識変える日産の挑戦
商用バンの王者であるハイエースでは、一部の新車販売店が、自社でリア荷室を改良したライトキャンパー仕様を販売したり、前述のHACO×HACOの個別販売や車両に組付けた状態での販売をおこなっているものの、新車カタログにはリア荷室の改良仕様はない。
一方、日産は現在、商用車「キャラバン」ではリアの荷室を改良した「トラスポーター」と「マルチベッド」という2つの仕様がカタログモデル扱いとなっている。
さらに、東京オートサロン2022や、ジャパンキャンピングカーショー2022で、リア荷室をまるで自宅のオシャレな部屋にような空間に仕立てた「マイルーム・コンセプト」を発表。
日産関係者は「新車販売店での販売を検討している」と話しており、ムーウを含めたカタログモデルになる可能性がある。
自動車メーカーはこれまで、車両の法規制はもとより、メーカー社内での規定を順守し、商用バンに対する正式カスタマイズに対してコンサバな姿勢をとってきた。
そうした商用バン業界の常識に対して、日産は今、マイルーム・コンセプトとムーウを擁した大きなチャレンジに挑んでいるといえるだろう。
ムーウの実車は、ドイツ発オフィス家具イベント「オルガテック東京2022」(2022年4月26日~28日、東京ビッグサイト)で世界初公開される。
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