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愛車の履歴書──Vol11.常盤貴子さん(後編)

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愛車の履歴書──Vol11.常盤貴子さん(後編)

愛車を見せてもらえば、その人の人生が見えてくる。気になる人のクルマに隠されたエピソードをたずねるシリーズ第11回。後編では、俳優の常盤貴子さんがバンプラとの思い出話を披露する。

トライアンフも憧れの1台

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俳優・常盤貴子さんは、クラシック・カー好きだ。前編では、以前から憧れだったというポルシェ「356」などについて記した。

実は今回、常盤さんの希望でイギリスの名門ブランド、トライアンフも用意した。1979年式の2ドア・クーペ「スピットファイア」である。

なぜトライアンフなのか?

「トライアンフ独特のボディカラーの色合いってあるじゃないですか? それがとっても私にはオシャレに見えるんです」

今回のスピットファイアは深みのあるグリーンだった。常盤さんは「すごく素敵なボディカラーですよね。(ポルシェ356と異なり)トライアンフはもっと若い頃に乗ってみたかった1台だったんです。だけど、ちょっとタイミングを逃しちゃって」

訊くと、トライアンフに触れるのは今日が初めてだったという。なるほど。だから細部を見る常盤さんの目は輝いていたのだ。長年乗られていたバンデンプラ「プリンセス」、通称“バンプラ”と比べると?

「やっぱりちょっと近いところはあるかもしれないですね。インテリアのデザインとか似ているなぁ、と。そういえばキーについているキーホルダーもおなじでした。こういう部分も一緒なんだって感心しました」

トライアンフとバンデンプラは、イギリスにかつて存在したブリティシュ・レイランドが保有していたブランドだった。ゆえに共通部品もあった。常盤さんの言う“似ている”というのも納得だ。

ちなみにブリティシュ・レイランドは、今も残るジャガーやランドローバー、そしてオースティンやMG、ローバーなど10ブランドも抱えていた。しかし、同級車種での競合モデルを多数抱え込んだ上に品質問題なども多発し、経営状態が悪化。後年、複数のブランドを整理・廃止、ホンダとの提携などによって業績の改善を図るものの、2005年、最終的な存続会社だったMGローバーの倒産によって消滅した。

車内に乗り込んだ常盤さん、356とおなじく慣れた手つきでエンジンを掛ける。

「見覚えのあるスイッチがあるあたり、バンプラと同年代のイギリス車ですね。シートの座り心地も懐かしい!」

都合、356とおなじく撮影場所内での運転となったが「楽しい!」と、常盤さん。

「356とはまた違った良さがありますね。アクセルやブレーキのタッチとか、ハンドルの重さとか私好みですね」

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バンプラとの共通点に喜ぶ常盤さん。前編で記したように、ルノー「サンク・バカラ」、アルファロメオ「スパイダー」(2代目)を経てバンプラを購入した。

「バンプラは356と共に乗りたいクルマの1台だったんです。満を持しての購入となりましたから、念願叶って『きたー!』と(笑)」

購入にあたっては旧知のフォトグラファーに相談したという。

「クラシック・カーを何台か所有されていて、サンク・バカラの頃からいろいろ相談に乗ってもらっていたんです。それで『バンプラに乗るんだったらどこで探せばいいんだろう?』と、訊いたら、イギリス車の専門店を紹介してもらいました」

紹介されたショップに足を運ぶと、ボディカラーがブラックで内装がベージュという常盤さんが理想とする組み合わせの個体があったので購入を決意した。

とはいえ、サンクよりさらに10年以上古いクルマである。しかも信頼性が高くない当時のイギリス車だ。さぞやさまざまなトラブルに悩まされたのでは?

「本当にすごかったですね。数々の洗礼を受けました(笑)。何度も心が折れそうになったんですけど……。ただトラブルが増えれば増えるほど肝が据わってくるんです。『そっち(クルマ)がそのつもりだったら、こっち(常盤さん)もこういきますよ』みたいな対等な関係性がクルマと築けました。だからこそ毎朝、『今日どんな感じですか?』『いけますか?』みたいな“お伺い”を立てていたんです」

なんとも素敵な関係性ではないか! 常盤さんがこよなくクラシック・カーを愛する理由がわかった気がする。

「購入したバンプラは私とおない年だったんです。お互い何十年も生きてきたら『それぞれのやりたい道、やりやすい道ってありますよね』くらいな感じで、お互いを尊重し合って『やりやすいやり方で生きようじゃないか。共に』みたいな感じでした(笑)」

バンプラとのさまざまな思い出があるなか、とくに印象的だったエピソードとは?

「舞台の稽古に行くとき、山手通りの真ん中の車線で停まったんです。そのとき、ふいにバックミラーをチラッとみたらレッカー車がうしろに停まっていたんです。それをみた瞬間『これはイケるかもしれない……。(レッカーの人が)降りてきてくれたら嬉しいなぁ』と思って……」

舞台の稽古に穴をあけるわけにはいかない。レッカー車は常盤さんに幸運を運んだ。

「そしたらレッカー車の運転手さんが『どうしました?』と降りてきてくれたんです。『すみません、急に止まってしまって、でも今から舞台の稽古に行かなきゃいけないので、申し訳ないですけどコレ運んでもらえませんか?』と、言って、そのままキーを預けて、運んでもらったんですよ。私のことを誰かも向こうは知らないはずなのに。でも、その図々しさもクラシック・カーに乗っている強みというか、学びになりましたね(笑)」

この頃になるとバンプラが止まるのに、抵抗や恐怖はあまりなかったという。

「高速道路を走っていて『あ、危険な気がする……』と、察知して、ハザードを出しながら徐々に路肩へ向かい、入った途端、ピタッと止まったということがありましたね。電気系統のトラブルでした」

そんなバンプラ1台のみで、しばらく常盤さんはカー・ライフを送っていた。

「バンプラ1台しかなければ、バンプラに乗るほかないですからね。『もう、そういう状況に追い込もう』と、思って、しばらくはそうしていたものの、現場ですごい心配されて……『たどり着くんですか?』と。あとは、ドラマの現場に行ったとき、車両部さんでも、マニュアル車を運転出来る人が少なくなっているという現状があって、『常盤さんの車、動かしてください』と、なったとき“私しか動かせない”ということもあって。それがちょっと続いたとき『もう1台。ちゃんとしたクルマがあった方がいいな」と、なったんです。あと、1300ccだから、明らかに到着時間が違うんですよ(笑)』

1300ccであるうえに1972年式のクルマである。いつも、予想到着時刻のプラス30分から1時間ほどみて移動していたそうだ。

「それでも、いろんなところへバンプラで行きました。千葉や埼玉などへは東京からフツーに行けるんですが『だいぶ早く家を出発しないといけないなぁ』と、思うことがよくありました」

マネージャーなどを含むスタッフ陣は、誰ひとりバンプラを運転出来なかったため、常盤さん自身がいつもステアリングを握り移動していた。それでも楽しかったら、まったく苦にならなかったそうだ。

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バンプラを購入してからしばらくして、シトロエン「C3」(初代)を購入した。ボディカラーはレッドだった。

「形が好きでC3を選びました。赤を選んだのは、フランス車の“赤”が好きだからなんです。あの独特の発色が」

晴れて新車のシトロエンを購入したら、納車時、忘れもしない出来事が。

「ディーラーへ引き取りに行ったら『おめでとうございます』と、シャンパーニュを1本プレゼントされたんです。さすがフランス車ですよね。クルマを購入して、お酒をプレゼントされるなんてあまり考えられないじゃないですか」

C3は10年以上所有したそうで「ついこの前まで乗っていたんですけど、トラブルはいくつかありましたね。窓が落ちたこともありました。でも、バンプラに乗っていたのもあって、窓がないのにそのまま車を離れてしまえる自分がいたんですね、『ま、いいか』って。この状況でクルマを盗まれても『盗んだ方もなかなかだよね』と(笑)」と、常盤さん。ただし、路上で停まってしまうようなトラブルは皆無だった」

現在はフォルクスワーゲン「ザ・ビートル・カブリオレ」を所有する。

「どうしてあんな素敵なデザインのクルマがなくなってしまったんですかね? もうショックで」

フォルクスワーゲンの前CEOであるヘルベルト・ディース氏は今年、ビートルをBEV(バッテリー式電気自動車)としての復活を匂わせるような発言をした。それを常盤さんに伝えると「素晴らしいニュース!だってブランドの顔みたいなところもあるじゃないですか、ビートルって」と、笑顔になった。

最後、常盤さんにクルマやクラシック・カーのある生活について、あらためて訊いた。

「世の中が便利になって、無駄がなくなってきている今、クラシック・カーってほんとに無駄だらけなモノだと思うんです。でも、それがまたカワイイし愛おしい。この気持ちは、クラシック・カーに乗ってきたからこそ知っていることで、それって体感するしかないと思うんです。“クルマは信号が青に変わったら当然進むもの”と、思うでしょ? 『進まないときもあるんだよ』なんて、そういうことを知っているだけでも、人として、すごく豊かな日々を過ごせているなぁと思うんです」

なぜ豊かな日々なのか?

「いろんな角度から物事を見たいじゃないですか? ひとつしか答えがないというのはすごく寂しくて、“こうだ”と決めつけている事象に意外な面があると、すごく私は嬉しくなります。だからクルマは“自分が思う通りに操れるものだ”と、考えるのではなく、クラシック・カーのように操れないときがあるからこそ、こっちが歩み寄るオモシロさとかがあって、心が豊かになるんです。人とクルマが互いに尊重し合って“私たちじゃあどうやって付き合っていく?”と、モノだけれども人間のように一緒に生きていけたら面白いと思うし、そうやって車に思いを馳せるのって、夢がありますよね」

常盤さんは、続けて「だからこそ、気になるクルマやクラシック・カーに『いつかこれに乗りたい』と思う気持ちはとても大切なのかなって。自分の生活をより楽しいものにしていくためにも」と、述べた。

なるほど、ポルシェ356に憧れ続けている常盤さんの生活はきっと豊かに違いない。さぞや356を購入したら、素敵なクラシック・カー・ライフを送れるはず……と、思いきや「憧れは憧れのままでいたほうがいいときもあるので、もしかすると356には乗らないかもしれません(笑)」と、常盤さん。

真の豊かなカー・ライフとはなにか? 常盤さんの話を訊いて、それは“クルマとの対話”かもしれないと、思うのだった。

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常盤貴子(ときわたかこ)

1972年生まれ。神奈川県出身。1991年に俳優デビュー。『愛していると言ってくれ』『Beautiful Life』(ともにTBS)ほか、多数の主演ドラマあり。映画や舞台、CM、ナレーションなど活動は多岐にわたる。

【愛車の履歴書 バックナンバー】
Vol1.市毛良枝さん 前編/後編
Vol2.野村周平さん 前編/後編
Vol3.宇徳敬子さん 前編/後編
Vol4.坂本九さん&柏木由紀子さん 前編/後編
Vol5.チョコレートプラネット・長田庄平さん 前編/後編
Vol6.工藤静香さん 前編/後編
Vol7.西内まりやさん 前編/後編
Vol8.岩橋玄樹さん 前編/後編
Vol9.吉田沙保里さん 前編/後編
Vol10.板野友美さん 前編/後編

文・稲垣邦康(GQ) 写真・安井宏充(Weekend.) スタイリスト・吉村結子 ヘア&メイク・千吉良恵子 撮影協力・鳩山会館 車両協力・ガレーヂ伊太利屋

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みんなのコメント

6件
  • スピットファイアは2ドアクーペじゃない。無知な筆者はオプションのハードトップが付いているから間違えたのだろうが、スピットファイアは2シーターオープンでクーペじゃないぞ。ちなみに6気筒を載せたGT6という車種もあるがスピットファイアとは呼ばない。
    いい加減な記事を書くと車好きの常盤さんにも失礼だよ。
  • 結局お貴さんは、プライベートでヴィータに乗ることはなかったのね。一時はブームにまでなったのになあ。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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