ビッグマイナーチェンジを受けたフォルクスワーゲン「パサート」の、クロスオーバー「オールトラック」に小川フミオが試乗した。これまでとの違いは?
機能性に富んだクルマ
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“クルマを使い倒す”という言葉がある。まるでワークシューズのように、そのクルマの機能を徹底的に味わう。クルマ好きはそんなふうに付き合いたいと思うこともある。
機能性に富んだクルマを求めているひとにお勧めしたいのが、2021年4月6日に日本でも販売開始された、あたらしいパサート・オールトラックTDIだ。ステーションワゴンにあたる「バリアント」のバリエーションといえるモデルだ。
パサートは、広い室内と使い勝手のいい荷室など、機能性の面で一頭地を抜いている。室内空間のデザインはぜいたくでないものの、逆にシンプルさを評価する審美眼の持ち主には、おおきな魅力だろう。SUVに対する利点は、車高が抑えられているので、回転式の駐車場などで困る場面が少ない点だ。
近代工業デザインの祖といえるミース・ファン・デル・ローエはかつて、「レス・イズ・モア」と、そぎ落とすことで審美性が高くなると唱えた。その思想が強く活きているフォルクスワーゲンのプロダクトのエッセンスが、パサートにはある。乗るひとにはそこを評価してもらいたいと思うのだ。
より魅力的になったディーゼル・エンジン
オールトラックは車高が、バリアントより25mm高い1535mm。さらにパサートシリーズとしては唯一、フルタイム4WDシステム(4MOTIONと呼ばれる)が組み合わされている。
乗ると、期待いじょうにスムーズに走る。1968ccの直列4気筒ディーゼルターボ・エンジンの音は低く抑えられ、走っているあいだは、ノック音を意識することはほぼない。信号待ちなどで、意識して聴くと、「あぁディーゼルエンジン車だなぁ」と、あらためて思う程度だった。
このエンジンの美点は、ごく低回転域からトルクがしっかり出て、走りだしから追い越しまで、いわゆる”息つぎ”なしに加速するところだ。140kW(190ps)の最高出力と、400Nmと太いトルクというだけあって、スムーズというより力強さを感じるほどだ。
これに従来の6段から7段へと変わったツインクラッチタイプのATが組み合わされる。変速ショックはいっさいないし、シフトアップ時にエンジン回転が一瞬落ち込んで、加速でもたつく、というようなこともない。
サスペンション・システムはバリアントと設定までおなじという。長いサスペンション・ストロークを活かして、足が細かく動き、路面の凹凸をていねいに吸収するとともに、車体の揺れを抑える。乗員が揺さぶられない、いわゆる“フラットライド”を実現している。セダンをベースにした車型の大きなメリットだ。
私個人としては、乗り心地などの面から、SUVよりステーションワゴンを推したい、と、いつも思っている。あたらしいパサートも快適な乗り心地を提供してくれているのだ。
適度な上質感
パサートの、広い室内に、大きな荷室という内容は、クルマを使い倒す欧州で愛されてきたのがよくわかるパッケージングだ。スタイリングも、理知的な雰囲気が強いし、同時に、ボディのフロントからリアまですっと伸びるキャラクターラインが、躍動的な印象をつくりだしている。
試乗車はきれいな輝きのブルーのボディ・カラーをもっていて、クロームのアクセントがそこかしこに配されていた。“厚化粧”という印象はなく、適度な上質感が盛り込まれているのも、このクルマの価格相応というべきだろう。
さいきんはセダンやステーションワゴンが”クロスオーバー”というコンセプトのなかに取り込まれて、スタイル優先、(積載量など)機能は2の次になってきた感もある。パサートのステーションワゴンである「バリアント」と、スタイリング的にはそのバリエーションにあたる「オールトラック」は、荷室をいっぱいにして走る仕事人あるいは趣味人のためのクルマとして評価したい。
専用バンパーとサイドシルと、それに頑強な印象を与える樹脂製のフェンダーアーチモールが、オールトラックの専用装備。これだけでも、SUV的な好ましい雰囲気が生まれている。フェイスリフトを受けたものの、ボディ外寸とホイールベースは従来のオールトラックと同一。全長だけ5mm長くなった。
マイナーチェンジの最大の眼目は、ひとつはフェイスリスト。ヘッドランプ、グリル、それにバンパーの造型が変わった。自動車デザイン用語だと”エモーショナルになった”というのがいいだろうか。あたらしい表情が生まれている。
居心地のよいインテリア
運転支援システムの充実も注目に値する。装備のひとつは「トラベルアシスト」。同一車線内なら0km/h~210km/hの範囲で、ドライバーがあらかじめ設定した車速内において前走車との車間及び走行レーンの維持をサポートする、と謳われる。
試してみると、たしかにちゃんと動いてくれて、渋滞時などはとくに楽ちんであると感じた。ステアリング・ホイールに手を添えている必要はあるものの、握っていなくてよいので安逸だ。
運転支援システムにおけるもうひとつの新採用は、「IQ. LIGHT(アイキューライト)」。32個のLEDを使ったマトリックスヘッドライトシステムで、カメラが対向車や先行車を検知したばあい、これらの LED を個別にオン/オフし、配光を適切に制御する。
室内の居心地をさらによくするのも、あたらしいパサートにおける重要なテーマだったようだ。生地のデザインを変更した新しいドアトリムをはじめ、トリムカラー、インストルメントパネル、ステアリング・ホイールなどが、あたらしい意匠になった。
ダッシュパネルからアナログ時計はなくなり、バックライト付きの“Passat”ロゴがそれにとって代わった。センターコンソールには、大型の収納スペースもある。さらに、タッチコントロール式のエアコンディショナーコントロールパネルを採用。「従来のコントロールパネルと比べてより直観的に操作することができる」と、広報資料でうたう。
室内にいろどりを加える「アンビエントライト」も新設された。そこで選んだ照明色は、インフォテインメントシステムとデジタルメータークラスターにも反映される。これを日本法人では「先進的なコックピット空間」としている。なにはともあれ、視覚面でも居心地のよさが向上しているのはたしかだ。
控えめなパートナー
新世代インフォテインメントシステムの採用も、特徴としてあげられる。最新の通信モジュールを搭載し、常時コネクテッド(オンライン接続)の状態が維持されるのだ。オンラインサービス「We Connect」はあたらしい機能である。
車両のドアの開錠と施錠をスマートフォンの専用アプリ上でおこなえるうえ、車両が故障した際は、ロードサイドアシスタンスのコールセンターに位置情報などの車両情報を自動通知する。オンラインにて地図更新も可能。ユーザーにとって大きなメリットになるはずだ。
「世界でもっとも成功したミッドサイズクラスカー」とフォルクスワーゲン本社が自画自賛するパサート。多少、アンダーステーテッド(控えめ)ながら、日常のパートナーとしてはたいへん心強いのは事実。パサート・オールトラックTDIは552万9000円から。試乗した最上級グレード「Advance」(アラウンドビューカメラ、駐車支援システム、ヘッドアップディスプレイなどを標準装備)は604万9000円だ。600万円超とは驚きかもしれないが、乗ればその価格も納得出来る価値を有する。
おなじぐらいの価格帯でディーゼルエンジンを搭載したステーションワゴンを探すと、アウディ「A4アバント40TDI」(594万円)とBMW「320d xDriveツーリング」(606万円)が思い浮かぶ。いずれもパサートにくらべ若干コンパクトだから、居住性や積載性は劣る。“どこまでも誰とでも”と、クルマの機能性を第一に考えているひとは、パサート・オールトラックに強みを感じるはずだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.)
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