英国の読者が選ぶ理想の3台
text:James Attwood(ジェームス・アトウッド)
【画像】読者投票アワード2021 何より楽しい1台 アルピーヌA110 全49枚
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
2020年の英国は、ひたすらロックダウンの日々だった。仕事はリモートワークになり、最低限の外出に限られたわれわれは、現実逃避のためにクルマを自然豊かな場所へ走らせることも許されなかった。
中には料理に目覚めた人や、ルームランナーでバーチャル・マラソンを楽しむ人もいたかもしれない。でも筆者は台所とは縁遠いままだし、走ると筋肉痛が辛かった。
結局は家に閉じこもり、メーカーのウェブサイトに設けられたコンフィギュレーターでシミュレーションしたり、中古車サイトで希望のクルマを探しながら過ごした。クルマのことを空想する時間は楽しい。
こんなロックダウンの時こそ、英国のクルマ好きが持つ長年のテーマへ迫るべきだろう。ガレージに収める、理想の3台についてだ。
なぜ3台なのかは、誰もよくわかっていない。自動車のすべてのニーズを叶えるために必要な、究極の台数だという共通認識は少なくとも持たれているとは思う。
というわけで、AUTOCARの2021年のリーダーズ・チャンピオン(読者投票)・アワードでは、理想のガレージに収めたい、究極の3台を英国読者に選出してもらった。ただし、自由に選び始めるととりとめがなくなるから、簡単な条件を設けている。
どんな道でも賞賛の言葉しか浮かばない
1:合計の予算は10万ポンド(1540万円)以内で、3つのカテゴリーに属するクルマを購入する。
2:カテゴリーは、3万ポンド(462万円)前後の普段使いのクルマ、5万ポンド(770万円)前後の何より楽しいクルマ、2万ポンド(308万円)のワイルドカード、の3種類。
まずは、何より楽しい1台から初めてみよう。いわば、得意な競技科目が絞られたアスリート。価格設定が一番高く、3台を選ぶ際の軸となるカテゴリーにもなる。先に理想的な楽しいクルマを選んでおけば、残りの必要な要件で2台を選べば良い。
今回の条件の中では、このカテゴリーに圧倒的な勝者が存在した。アルピーヌA110だ。
コンパクトなクーペという車種が選ばれることに、疑問はないだろう。軽量でダイナミックな魅力を持ち、見た目も素晴らしいクルマが良い。英国価格5万ポンド(770万円)以下で、これらの要素をすべて叶えてくれるクルマこそ、A110といえる。
車重はわずか1103kg。AUTOCARの試乗テストでも、満点といえる評価を獲得してきた。A110という選出が、少し決り文句的な状態になっていることが、玉に瑕といえなくもない。
しかしA110なら、どんな道を走っても賞賛の言葉しか浮かんでこないことは、紛れもない事実だ。素晴らしくダイレクトで機敏でありながら、目をみはるほどソフトでしなやか。1.8Lの4気筒ターボエンジンも、レスポンシブで個性が濃い。
クルマ好きなら毎日運転したいと思える
すべての要素が、アルピーヌA110を甘美なモデルへとまとめ上げている。アリエル・アトムやケーターハム・セブンのような操縦性や主張を備えていながら、洗練され気品すら感じさせる。それでいて、ポルシェ911に迫るほどの値段ではない。
アルピーヌの英国オーナーは、ロックダウンの日々がよりストレスの溜まるものだったのではないだろうか。駐車場に停まっている姿を眺めつつ、暮らしに最低限必要な目的以外は運転できないとは、なかなか残酷な仕打ちだと思う。
日常的に感じる不満や妥協も、A110を運転すれば晴らされてしまう。クルマ好きなら、毎日運転したいと思える1台でもある。
かといって、アルピーヌは本当に普段使いできるクルマとはいえないだろう。シートは2脚だけで、荷室の容量も小さい。後方の視界も良好とはいいにくいし、軽さを求めるがあまりインテリアのパネルなどは簡素だ。楽しいことには、だいたい裏の側面がある。
これらの制限は、アルピーヌA110が与えてくれる体験を考えれば妥当なものではある。同時に、ガレージに残り2台を収める必要がある理由にもなってくる。
続く(2)では、普段使いの1台のご紹介へ進もう。
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