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選択と集中を徹底 スバルが捨てた技術と軌跡

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選択と集中を徹底 スバルが捨てた技術と軌跡

 最近は「断捨離」が流行語になり、メーカーからは「選択と集中」という言葉も聞かれる。以前は加えたり拡大しながら発展してきたが、今はシンプルに抑える。加えたり拡大を続けた結果、飽和点に達して効率が下がり始めたからだ。

 断捨離や選択と集中は幅広く実践されるが、今回はスバルに焦点を当てる。

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 スバルは水平対向エンジン、シンメトリカルAWDなどアイデンティティとして頑なに守り続けているものがあるいっぽう、多くの技術、コンセプトなどを切り捨ててきた。

 スバルがこれまで切り捨ててきたものについて考察していく。

文:渡辺陽一郎/写真:SUBARU、STI

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自社開発軽自動車からの撤退が最大の断捨離

2020年10月16日の発売開始に先駆けて先行予約を開始した新型レヴォーグ。エンジンは1.8Lターボのみで登場。これも選択と集中の一環

 2020年8月20日に先行予約を開始したレヴォーグを見ると、エンジンは水平対向4気筒1.8Lターボのみだ。従来型は1.6Lターボと2Lターボを用意したから、レヴォーグのエンジンも選択と集中の対象になっている。

 スバルの過去を振り返った時、最も大きな断捨離は、軽自動車の開発と製造から撤退したことだ。

 今でもスバルは軽自動車を用意するが、ダイハツ製のOEM車になる。2005年にスバルがトヨタと業務提携を結び、トヨタの子会社になるダイハツの軽自動車を扱うようになった。

スバルの軽自動車は地味ながらコスト度外視のクルマ作りとなっていため、乗り心地をはじめ走りの質感が高かった。独自のスーパーチャージャーも魅力的だった

 スバルが軽自動車の開発と製造から撤退することを発表したのは2008年4月だ。この時にはダイハツからスバルに向けた軽自動車のOEM供給、小型FRスポーツ車(BRZと86)の共同開発なども明らかにされた。

 そして2012年2月にサンバーの生産を停止したことにより、スバルの軽自動車生産は54年で幕を閉じた。その後はダイハツのOEM車を販売している。

サンバーだけでも作り続けてほしいという願いも空しく撤退

 当時スバルの開発者からは「軽自動車の終了により、水平対向エンジン搭載車の開発と生産に集中できるようになった。効率が向上して、優れた商品も生まれている」という声が聞かれた。

 販売店からは「軽自動車のお客様が離れている。ダイハツのOEM車なら、スバルで買う必要はない。特にサンバーのお客様は、撤退を惜しんでいる。せめてサンバーだけでも作り続けてほしい」という反応があった。

スバルの自社開発軽自動車で最後の生産となったのがサンバー。スバルは54年間で約796万8000台の軽自動車を生産してきた

 背景にはスバル独自の軽自動車開発がある。スバルの軽自動車は、乗用車と商用車のサンバーともに、長年にわたり4気筒エンジンと4輪独立サスペンションを採用してきた。これが上質な運転感覚と乗り心地をもたらしている。

 特にスバル製のサンバーは最後までリアエンジン/リアドライブ方式を貫き、4輪独立懸架との相乗効果で乗り心地は柔軟だ。

 荷台にデリケートな果物を積み、デコボコの激しい農道を優しく走った。4WDもほかの軽商用車に先駆けて1980年に採用され、ユーザーニーズに綿密に応える技術の適材適所に感心させられた。

スバルの軽自動車ではタントのOEM車のシフォンが最も売れている。しかし7月の販売台数を見ても541台と他メーカーに遠く及ばない

 ちなみに今は、新車として売られるクルマの40%近くを軽自動車が占める。軽乗用車に限ると、全体の約50%がスライドドアを備えた全高が1700mm以上のスーパーハイトワゴンだ。

 しかもすべての車種で、カスタムなどと呼ばれるエアロ仕様の人気が高い。今の軽自動車は、好調に売れるが画一的だ。スバルが今でも軽自動車の開発と製造を続けていたら、その世界はもっと多彩になっていただろう。

エクシーガはデビュー時はすでに時代遅れだった

 スバルの断捨離されたカテゴリーには、3列シートミニバンもある。

 最初の3列シート車は、1983年に発売されたドミンゴだ。軽ワンボックスバンのサンバートライに直列3気筒1Lエンジンを搭載して、乗車定員は7名だった。

 1列目を後ろ向きに回転させ、2列目の背面を倒してテーブルにすると、1列目と3列目が向き合って車内をリビングルームのようにアレンジできた。

スバルオリジナルの3列シートミニバン待望論に応えるべくスバルはエクシーガをデビューさせた。走りの評価は高かったが、ミニバンとしての魅力は薄かった

 次は本格的なミニバンのトラヴィックが登場した。タイから輸入するオペルザフィーラの姉妹車だ。スバルがGMと資本提携していた繋がりで、2001年に発売された。

 基本はオペルだから走行安定性が優れ、1.8Lエンジン搭載車の価格は189万5000円だ。買い得だったが、ミニバンはスバルのブランドイメージに合いにくく、当然ながら水平対向エンジンでもなかったから売れ行きは伸び悩んだ。

 2008年にはエクシーガを発売した。走りを重視するスバルの考え方に沿って、スライドドアを備えない全高が1700mm以下のミニバンだったが販売は低調だった。

 2000年代中盤以降には、ウィッシュ、ストリーム、3代目オデッセイなど、背の低いワゴン風のミニバンが全般的に売れ行きを下げたからだ。

 2008年の登場時点で、エクシーガは時代遅れと受け取られた。2015年には、外観をSUV風にアレンジしてエクシーガクロスオーバー7に改良したが、売れ行きは持ち直さなかった。

時代に合わせてSUV色を強めたクロスオーバー7を登場させたが、販売を盛り返すだけのパワーはなかった。もう少し早く登場させていればと悔やまれる

お得意の水平対向エンジンでも断捨離を敢行

 メカニズムの断捨離もあり、水平対向6気筒エンジンはその代表だ。

 スバルの水平対向エンジンは、1966年にスバル1000に初搭載されて以来、4気筒で進化してきたが、1987年には2ドアスペシャルティクーペのアルシオーネに水平対向6気筒2.7エンジンを追加した。

 このエンジンは最高出力が150馬力(5200回転)、最大トルクは21.5kgm(4000回転)。動力性能の数値は控え目だが、滑らかに回る上質なエンジンだった。この後、アルシオーネSVXが3.3Lを搭載したり、レガシィは3Lや3.6Lも用意した。

スバルの水平対向6気筒エンジンはアルシオーネに2.7Lが搭載されたのが最初。その後3.3L、新世代では3L、3.6Lが存在した

今でも人気の高いアルシオーネSVXには3.3L、水平対向6気筒が踏査されていた。240ps/35.5kgmのスペックでスムーズな回転フィールは極上

 しかし今は、メーカーを問わず多気筒の大排気量エンジンは少数派だ。選択と集中により開発を合理的に行うため、例えばボルボは2L以上のエンジンを用意しない。

 スバルも水平対向4気筒のみで、排気量の上限は2.5Lだ。水平対向6気筒は、実用回転域の駆動力が豊かで、回転感覚も静かで滑らかだったが今後の復活は考えにくい。

世界で唯一の水平対向ディーゼルのEE20は残念ながら日本で発売されなかった。スバルはe-BOXERに注力するためにディーゼルから撤退

 消滅した水平対向エンジンには、貴重な4気筒2Lディーゼルターボ(EE20)もあった。日本では売られなかったが、2008年に4代目レガシィの欧州仕様に搭載され、この後に車種を増やした。

 ディーゼルではノイズと振動の対策が重要だが、水平対向なら水平に動く左右のピストンが振動を互いに消し合う。軽量でコンパクトなディーゼルを開発できた。

 しかしこの後、厳しい排出ガス規制に対応する必要が生じた。スバルはハイブリッドのe-BOXERに力を入れ、ディーゼルは断捨離されている。上質な回転感覚を考えると、廃止するのは惜しいエンジンだった。

ATをやめてCVTに注力

 このほか有段式ATも廃止され、リニアトロニックと呼ばれるCVT(無段変速AT)になった。

 5代目レガシィは、水平対向2.5Lにリニアトロニック、2.5Lターボとアウトバックの水平対向6気筒3.6Lには5速ATを組み合わせて、その後はリニアトロニックに統一された。

 CVTはギヤ比を無段階に変えられるから、常に走行状態に合った比率を選べる。従って環境/燃費性能を向上させやすい。その代わり加速時にアクセルペダルを踏むと、エンジン回転が先に上昇して速度が追いかける違和感が生じやすい。そこを解消したのがリニアトロニックだ。

 リニアトロニックは有段ATに近い制御で、CVTなのにギヤ比をあまり変えない。そのために違和感は生じにくいが、巡航時の緩い加速では、実用回転域の十分な駆動力(トルク)が必要になる。

新型レヴォーグは先代同様にトランスミッションはCVTのみの設定。運転の楽しさを追求するスバルとしては多段ATの検討は必要だ

 ほかのCVTならギヤ比を少し変えてエンジン回転を高め、アクセル開度に応じて速度を上昇させる場面でも、リニアトロニックはそうならない。

 トルクの弱いエンジンでは、アクセルペダルを軽く踏み増した程度では加速せず、さらに踏み込むと積極的にギヤ比が変わって速度が高まりすぎる。

 今は運転感覚が向上したが、セッティングは難しい。こういった課題を踏まえると、運転の楽しさを追求するスバルの場合、多段ATの復活を検討してもいいだろう。

スバルのラリー復帰待望論は根強く存在する

 側方や斜め後方の視界も以前とは違う。以前のスバル車はサイドウィンドウの下端が低めで、ボディ側面の形状も水平基調だから、側方や後方の視界もよかった。

 それが最近はサイドウィンドウの下端を後ろに向けて持ち上げるから、以前に比べて斜め後方が見にくい。

新型レヴォーグのエクステリアデザインはフロントからリアにかけてウェストラインが競り上がっている。後方視界は昔のスバル車から比べると悪化している

 もともとスバルは0次安全(基本部分のデザインや設計を工夫して安全なクルマを開発する考え方)を提唱していたが、新型レヴォーグを見ると、後方視界に関する0次安全が薄れてきたように思える。

 このほか2008年12月に発表されたWRC(世界ラリー選手権)におけるワークス活動終了も、悲しい出来事だった。しかし最近になって復活する噂も聞こえてきた。是非復活させてほしい。

 モータースポーツは、ユーザー/販売会社/メーカーの喜怒哀楽に直結する企業活動だから、選択と集中では片付けられない。

 現在はニュルブルクリンク24時間レースをはじめ、サーキットレースに集中しているが、スバルのラリーへの復帰を願う声は大きい。

 自動車メーカーがクルマ好きの集まりなら、取り組んで当然だろう。

現在スバルはニュルブルクリンク24時間レースに積極的に参戦。ラリーフィールドで活躍するスバルの姿を見たいと考えている人は多い。ラリーへの復帰に期待

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みんなのコメント

4件
  • ラリーへの復帰に期待って、現在のWRCのルールを考えるとまずボクサーエンジン捨てて直4に切り替えないと無理ですよね。サイズ的にもBセグの車が有利ですし。

    将来的に水平対向エンジンを捨てるにしろ、モータースポーツよりまずは市販車が先でしょうし新開発のCB型を発表したばかりということを考えるとまだまだ先では?
  • 製造品質と徹底したユーザサービスを断捨離してはいけません。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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