ミニはミニでも“新車”のミニを知っているか
2020年のオートモビルカウンシルでは、1台のクラシック・ミニと強烈な出会いがありました。ボディをマットホワイト、キャビンとルーフを淡いブルー、と2トーンに塗り分けられ、まるでファッション雑誌にでも登場するような出で立ちもさることながら、それよりも何よりも1600万円というプライスタッグに驚かされたのです。昔憧れていた人がミニを愛用していて、個人的にクラシック・ミニは好きなクルマなのですが、派手な佇まいと非現実的なプライスタグで、個別に取材することなく幕張メッセを後にしたことを覚えています。
「1億円」で落札の個体も! 「ランチア」なのに「アバルト」のエンブレムが付く「037ラリー」という名車
ところが、2021年4月に行われたオートモビルカウンシルでも1台のクラシック・ミニに目がとまりました。シックなマルーンのボディカラーにルーフはホワイトと、クラシック・ミニらしい2トーン。そして足元はブラックのミニライトで引き締められ……、とルックスは(あくまでも個人的な趣向ですが)好印象でした。ただしプライスタグは1400万円からとなっていて(これまた個人的な感覚ですが)非現実的な価格設定でした。
それでも好印象にひかれて取材したところ、このクラシック・ミニの、とてつもない出自が明らかになりました。実はこの個体、新たに製作されたMini Remasteredと呼ばれる“新車”でした。どおりでクルマが光り輝いていた訳です。それでは、Mini Remasteredが新たに製作された状況について少し詳しく解説しておきましょう。
イギリスにはMINIの交換用ボディシェルがある
そもそもクラシック・ミニは1959年に登場した小型乗用車で、4気筒エンジンをフロントに横置き搭載して前輪を駆動するという現在のほとんどの小型車に通じるパッケージングを実現した、自動車史上に残るエポックメイキングな傑作車です。それを生みだしたのはブリティッシュ・モーター・コーポレーション(BMC)の設計技師を務めていたサー・アレック・イシゴニス。ADO(Austin Drawing/Design Office)15のプロジェクト名で開発された後、合併してBMCを誕生させたオースチンとナッフィールドによってオースチン・セブン、モーリス・ミニ・マイナーの名で販売されることになりました。
ここから先、オースチン・セブンとモーリス・ミニ・マイナーの発展と、BMCの混乱は、それだけで1冊の本が書けるほど、まさにネバーエンディングストーリーとなるのでここでは割愛しますが、1994年にBMCの末裔ともいうべきローバー・グループがBMWに吸収され、2000年の10月には最後のクラシック・ミニがラインオフしています。そして2001年からはBMWがプロデュースするニュー・ミニが誕生し、今日に至っているのはファンならずともご承知のとおりです。
さて、イギリスでは旧車の人気も高く……正確に言うと世界的に旧い英国車の人気が高く、そのためのパーツ供給メーカーも数多く存在しているようですが、中でも最大手とされるブリティッシュ・モーター・ヘリテイジ社では何と、クラシック・ミニ(の中でも極初期型のMk1)の交換用ボディシェルを発売しているのです。150万円ほどで購入できるそうですが、この交換用ボディシェルを手に入れて、手持ちのクラシック・ミニからコンポーネントを移植すれば、新車然としたクラシック・ミニに生まれ変わるということなのです。
これまでにもジャガー製のシャーシやパワートレインを使ってオリジナルモデルをリリースしてきたイギリスの新興メーカー、デビッド・ブラウン・オートモーティブ(David Brown Automotive=DBA)ではそれを受けて、オリジナルのクラシック・ミニを製作することを決定しました。オートモビルカウンシルで見かけたクラシック・ミニはそんな中の1台でした。
由緒あるボディの中身は現代版技術の集合体
ただし、手持ちのクラシック・ミニからコンポーネントをただ移植するのではなく、エンジンなどは完全にリビルトとなっており現在の技術レベルで組み上げたために、オリジナルに比べてパワーアップも果たしています。
またヘッドライトが最新のフルバックLEDライトクラスターに交換されていたり、インテリアでもApple CarPlayとAndroid Autoに対応するインフォテインメントシステムが採用されていたり、とまさに現在の最新モデル並みのスペックに生まれ変わっているのです。
クラシック・ミニ(のスタイル)が気に入っているけれど、汗をかいて乗るのは嫌で、雰囲気(ボディのシルエット)が似ているニュー・ミニなら、という層は少なくないでしょう。でもクラシック・ミニそのものが好きで、それを快適にドライブしたいとなったら……。そんなリクエストへの答えの一つがMini Remastered。そして現場を担当していたスタッフによると「高温の室内で汗をかきながら、ストイックにドライブするだけがクルマ趣味ではないでしょう」とのこと。その言葉には、確かにそんな愉しみ方もある、とまさに目から鱗でした。
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